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25-May-2017

MOOC | 006-E-INKなどケイ素化合物

講義資料 非常勤講師:山本博志 2012.8.27 (2014.7.28 改訂)

E-Ink

電気泳動方式の構造模式図 (WikiPediaより)
1.表面層 2.透明電極(ITO) 3.マイクロカプセル 4.正に帯電した白色顔料 5.負に帯電した黒色顔料 6.透明分散媒(オイル) 7.下部電極 8.支持層 9.外光 10.白色 11.黒色

E-Inkというのはマイクロカプセルの中に、ーにチャージした白色顔料と、+にチャージした黒色顔料、そしてシリコーンオイルを封入したものを電極に挟んだものだ。電極を+やーにするとそれに引きつけられた顔料によって上から見ると黒く見えたり、白く見えたりする。電場をかけることによって、顔料が分散媒の中を泳いでいくので、電気泳動法の表示素子と呼ばれる。一度泳動させてしまえば、その後は電場は要らないので低消費電力、コントラストが高いので視認性が高いのが良い所で、泳動に時間がかかるので、高速描画には向かないのが悪い所だ。Sony、Amazon、楽天などが電子ブックのリーダーとして商品化している。

この顔料の分散媒、シリコーンオイルについて考えてみよう。

例によって特許を調べてみよう。

特開2003-186062 TDK 電気泳動表示装置及びその製造方法
JP 2007-310396 ゼロックス、電気泳動ディスプレイ媒体

などがいいだろう。TDKの特許ではシリコーンオイルは、信越化学製KF96-5 、ゼロックスの特許はDow CorningのDow-200 5cStを使っている。どちらも動粘度が5cStなのが面白い。それでは5 cStのシリコーンオイルがどんな構造なのかというと構造は明かしていない。それを検討してみよう。

シリコーンオイルとはシロキサン結合による主骨格を持つ化合物の総称だ。

nの数を様々に変えたものが市販されている。一般的にはRはメチル基で末端はSiMe3になっている。また、末端の無い環状のものがある。シリコーンオイルについては、日本では信越化学が一番強い。そうした会社のカタログや技術資料をあたっても良いが、構造との相関は余り得られなかった。ここで使われているシリコーンオイルは動粘度が5cSt(センチストークス)だ。動粘度は粘度を密度で割ったものだ。それでは、nが幾つくらいのシリコーンオイルが動粘度が5cStになるかデータベースを調べてみよう。Dipper801データベースを調べると、こうした化合物の物性値が得られる。Dipper801の粘度はPa・s単位なので密度のデータも集める。006-1.xlsを開いてみよう。最初のタブに文献のデータがまとまっている。

注意:
非常に紛らわしいが、日本語で粘度は英語ではDynamic Viscosityになる。動粘度はKinematic Viscosityになる。動=Dynamicと文字のイメージと逆になる。大学の先生でも間違えたりする。

006-1.xlsの密度(Density)のタブを計算して動粘度の値を計算してタブ(cSt)を埋めよう。このデータを使ってSi原子の数に対して動粘度をプロットすると次のようなグラフになる。

すると、このグラフから、シリコーンオイルの動粘度が5cStとなるのは、鎖状のものでnが9のもの、環状のものではnが4のものと6のものを半々混ぜたものが該当する事が分かる。

実際に商品として売られているものは、nが一つに決まっている訳ではなく、平均のnの値で、それより長いもの、短いものがガウス分布しているのだろう。nの大きいものは粘度への影響も大きいので、平均のnの値が7.5ぐらいで5cStになるだろうか。

ついでなので、粘度の温度依存性(006-1.xlsのTempDependタブ)も調べておこう。こうした電子ブック・リーダーは冬寒い場所、夏暑い場所でも使う事が想定される。特に寒い場所で使う場合、粘度が高くなり、表示の応答性がどのくらい低下するかは大問題だ。

縦軸はcP単位(粘度測定温度での密度の実験値が得られない事が多いので)なのに注意して欲しい。(Dipper801DBの粘度の単位はPa・sなのでcPに変換するのを忘れないように) n(Siの数)の小さなものは温度依存性が低く、温度が変わっても粘度は低いままだ。nが大きくなるにつれ低温になると粘度が急上昇する。動粘度が5cStで温度に対する依存性が寝ている処方を設計するなら、Si4O3ぐらいの温度依存性の低い成分と、Si8O7以上の高粘度の成分と混ぜた2コブ・ラクダのような処方がいいかもしれない。ピーク位置を変えたり混合比率を変えたりしながら、5cStで温度に対する依存性が最も寝ている処方をメーカーは探っているに違いない。化学、化学工学系の最も得意とする事だろう。

同じSi6のシリコーンオイルでも環状のものと鎖状のものでは粘度カーブがずいぶん立っているので、このような成分と合わせるのも面白いかもしれない。

それでは、シリコーンオイルに対する、YMBの推算結果を検証しておこう。YBMは汎用の物性推算パッケージなので、特殊な化合物については個々に精度を検証しておく必要がある。006-1.xlsのYMBのタブを開き各化合物の物性を推算してみよう。分子を描いて計算する場合にはSiのボタンは無いのでXボタンの後ろのテキストフィールドにSiと入力する。(大文字、小文字に注意)そしてXボタンを選択するとXボタンでSiと表示される。Smilesの構造式を入れる場合にはそのまま入力すればOK。

YMBを使ってテーブル中のSmilesを使って計算し、計算結果を表に戻す。

全て埋まったら、計算結果のうち、Densityの部分をDensity-YMBタブへペーストする。

密度に関しては、鎖状のシリコーンはかなり精度よく推算できている。環状のもので精度が低いのはYMBには環状のSi, O(Si)の原子団が定義されていないからだ(後述)。

沸点に関しては、鎖状、環状シリコーンともに非常に高い精度で推算できている事が分かる。こうした電子ブックは例えば車のダッシュボード(夏場直射日光が当たると70℃くらいになる)の上に置かれることもあるだろう。分子量小さいシリコーンオイルでは蒸気圧が高くなり、セルの破壊が起きてしまうことが予想される。

我々(YMBやHSPiPの開発者)が新しい原子団(例えば環状のSi)を定義するかどうかは沸点を正しく推算できるかにかかっている。そこで環状のSiは定義しなかった訳だ。原子団の数は多ければ多いほど精度はあがるが、その分飛躍的に信頼の高いデータを多く必要とする。悩ましい所だ。

沸点が正しく推算できているということは、各温度での蒸気圧も正しく推算できていることを意味し、事実、蒸気圧を計算するAntoine定数の推算精度も高い。環状シリコーンのAntoine定数が鎖状のものと比べずれているが、Antoine B, C両方でずれているため、結果としては相殺されているのだろう。

粘度(006-1.xlsのYMB-Visタブ)に関しては、低分子のシリコーンについてはそこそこ合っているのだが、分子が大きくなると予測値は指数関数的に大きくなり、実験値と合わなくなる。通常の有機化合物ではこの関係は正しい。しかしシリコーン系の化合物は凝集力が小さく、どんなに高分子になっても固体にならない。その特異性が汎用ソフトのYMBには加味されていない。また環状シリコーンについても全く合わない。これについても環状の原子団を定義しなくてはならないという結論に達する(後述)。

それでは粘度の温度依存性はどうだろうか? HSPiPに搭載されているY-Predictは粘度の温度依存性を計算するが、YMBでは計算できない。こちらで計算した結果だけ見てみよう。

低分子のSi2Oは粘度の推算値、温度依存性に関してかなり正しい結果を与える。分子の大きいSi8O7は絶対値はずれるが、温度依存性に関してはそこそこの結果を与える(平行移動すれば合う)。このような結果をふまえて、新しいバージョンを作る時には、環状のSiを定義するか?粘度の分子量依存性をどうするか?を開発者チームで議論し、改良を行っている。計算結果が安定した段階でYMBへもフィードバックをかける事になるだろう。

それでは、ソフトが改良されるまで何もできないのかと言うとそんな事は無い。先にも示したように粘度の温度依存性は下図のようになる。(006-1.xlsのTempDependタブ)

ここで、横軸は温度であるがこの横軸をAntoineのBとCを使って整理し直してみよう。Antoineの蒸気圧定数に関してはPirikaのこちらの頁を参照するように。蒸発というのはある温度で分子間力に打ち勝って分子が液相から気相へ飛び出す事だ。その蒸発のエネルギーは温度が高いほど高くなるが、分子間力が高ければ飛び出す量は減る。粘度というのも分子間力の一つの表現であるので、粘度の温度依存性も同様に理解する事ができる。

そこで、Antoine定数を使って、新しいTemperature Indexを定義すれば、上図(006-1.xlsのVis-antタブ)に示すように化合物の温度依存性は全て一つの曲線に乗る事になる。

課題:
006-1.xlsのVis-AntタブにあるTemperature Indexを定めよ。(ヒント:横軸をCox温度にすれば蒸気圧曲線は直線になる。さらに蒸発潜熱を考慮すれば蒸気圧曲線は全て重なる。)

この粘度の推算に関しては、Pirikaのこちらのページにまとめてあるので参照いただきたい。

パラメータの作製法

YMBでは環状のSiは定義されていない。そのような系で自分なりの推算式を構築する方法を学んでみよう。基本としては重回帰の基礎は完全に理解しておこう。まず、006-2.xlsを開いておく。最初のタブにはシリコーンに加えSiを含む塩素化物などの一覧がある。

実験値としては、沸点、粘度、密度、表面張力の既知のものが記載されている。そこで006-2.xlsのSi-YMBのタブで、各化合物の物性値を計算しよう。ここでは慣れのためSmilesの構造式は記載していない。自分でネットで調べるかお絵かきしてみよう。

計算結果のうち実験値のある沸点、粘度、密度、表面張力に関してYMBの計算値を最初のタブにペーストしてみよう。

沸点と密度に関しては精度高く推算できるが、環状のケイ素化合物の粘度と表面張力に関しては全く精度がでない事が判る。

その問題を解決してみよう。

YMBで分子を計算すると、Functional Group Listに分子中に存在する官能基の数を、YMBが数え上げたものが表示される。この例では、CH3が6個、O@Si(Siに結合する酸素)が3個、Siの数が3個になる。環状のシリコーンで粘度の精度がでないのは、ここで定義されるSiやO@Siが鎖状の化合物から作られている為だ。

そこで、006-2.xlsのMultipleRegressionタブに相当する官能基の数を入力する。(環状のものは(Cyc)のカラムに入力する。)このテーブルのBのカラムに重回帰計算したい物性値を入れる。この例ではMWが入っているが、これは本来C,H,O,Cl,Siの原子量が判っていれば簡単に計算できるが、練習のため計算してみよう。(やり方が判らなければ、重回帰の基礎を良く読むように。)

次ぎに、006-2.xlsのMR-Visのタブに移り、粘度のデータの無い行を削除し、粘度と官能基の数のテーブルを用意し同様に重回帰計算を行う。

今度は環状のシリコーンでも正しく推算できるようになる。

課題:
SiとO@Siの重回帰係数が環状と鎖状でどう変わるか比較せよ。

同様に、分子体積(MW/Density)を重回帰で計算してみよう。

課題:
SiとO@Siの重回帰係数が環状と鎖状でどう変わるか比較せよ。

分子の体積は、原子種だけで決まっているように考えがちだが、このように環状体と鎖状体で大きく異なる。これは、環状体ではメチル基は全て外に突き出す形をとり、かつ、Si-O結合が距離が長い為に6員環でもかなり自由な配置を取れる事に起因していると考えられる。

以上で、分子量(MW)は一義的に決まり、分子体積(MVol)の推算値から密度が計算する事ができる。そして粘度が計算できる事から、動粘度が計算できる。

E-Inkインク用のシリコーンオイルの動粘度の実験値と比較すると、良好に推算できている事が明らかとなり、シリコーン化合物ではSiとO@Siの官能基は鎖状と環状で区別しなくてはならない事が明らかとなる。

次に、表面張力の推算を試みてみよう。表面張力の推算法にはパラコールを使ったものと対応状態原理を使ったものがある。Pirikaのページで詳しく説明しているので参照するように。(更に詳しく表面張力を学びたい場合にはPirikaのこちらを参照)ここでは、Parachor法を使ってケイ素化合物の表面張力を推算してみよう。

表面張力の推算法としては、Macleod-Sugdenが最も著名である。MacLeodは表面張力と液体密度の関係を経験的に導き出した。後にSugdenはMacLeodの式に現れる経験的な定数が、パラコールと呼ばれる構成要素の定数と同じことを示した。Sugdenの導き出した式は、

s1/4 = P (rL - r v) / M

ここで

s = 表面張力 (dynes/cm)
P = parachor(パラコール)
rL =液体密度 (g/cm^3)
r v = 気体密度 (g/cm^3)
M = 分子量 (g/mol)

パラコールは2つの液体のあいだの相対的な体積として視覚化でき、温度には独立であった。Quayleは広範囲の有機化合物に適用可能なパラコールを推算する包括的なレビューを提案した。ほとんどの場合、 r vrLより十分に小さいので、無視することができる。

s = (P*rL / M )4

この式が表面張力を推算する基本的な式である。典型的な誤差は平均5%以内であるが、ものによっては30%の誤差もありうる。

従って表面張力の実測値と液体密度があればケイ素化合物のParachorを決定する事ができる。006-2.xlsのST-Parachorタブを開いてみよう。

先ほど作成した、分子量、分子体積の推算式を使って、実測値の表面張力のデータのあるものについてParachorを求める。次に求まったParachorの値を用いて重回帰計算を行って、各原子団の寄与度を計算する。

下図に示すようにParachorは原子団の数だけできれいに求める事ができる事が判る。

課題:各原子団の重回帰係数を求めよ。

Me Et Si H Cl
Factor
O MeO Si(Cyc) O(Cyc) const.
Factor

 

また、上記のParachor表の原子団の加算因子とケイ素系のParachor表の値を比較し、ケイ素系の特殊性について考察せよ。

今回使っている重回帰法は定数項(const.)がでてしまうので、正確には比べられないが傾向は掴める。(定数項を消す方法は別途説明する。)

以上のように自分でパラメータを作成できるようになると、自分独自(今回はケイ素系)の粘度、密度(分子体積)、表面張力を精度よく推算する式を得た事になる。

こうした事ができるとどんないい事があるだろうか?

応用

高次シラン組成物、膜付基板の製造方法、電気光学装置および電子デバイス(P2010-159191A)という特許に、シラン化合物をインクジェットで製膜してアモルファス太陽電池を作るという物がある。詳しくはこちらの資料を参照。この特許には、「以上のようにして調製された高次シラン組成物の粘度(常温)は、0.4~100mPa・s程度であることが好ましく、0.5~20mPa・s程度であることがより好ましい。これにより、十分な膜厚を有し、かつ、均一な膜厚の膜を得ることができる。」とあるように、インクジェットにしろスピンコートにしろ粘度は非常に重要な物性値で、下田先生は液体シリコンがはじいてしまう事(表面張力の問題)が一番の問題だったとしている。

高次シランの作り方は、シクロペンタシラン(CPS)やシクロテトラシランを下式に従ってオリゴマー化する。

この化合物の物性を先に求めた方法で計算してみよう。

さらに分子量の大きいポリマー

シリコーンの分子量がさらに大きくなると、シリコン樹脂として様々な所に使われる。例えば、最近のガスクロはパックド・カラムの代わりに液状シリコン樹脂がコーティングされたものが使われ、分解能が飛躍的に向上されている。通常のGC: Gas chromatography(固定相は固体又は液体) に対して、GLC:Gas Liquid chromatography(固定相は液体) と呼ばれる。

こうした、Poly(dimethylsiloxane)やPoly(methylphenylsiloxane)の粘度に関しては、固有粘度をMark-Houwink parametersの値で整理する事が多い。詳しくはpirikaのこちらのページを参照

Mark-Houwink parameters(WikiPedia) 。

このパラメータを使うとポリマー溶液の固有粘度が計算できる。
[η] = KMa
そこで、Kの値、aの値と溶媒の種類、使える分子量の範囲、測定温度をシリコンオイルについて集めてみた。(006-2.xlsのSi-polymerタブを開くように。)
このaの値は、
シーター溶媒(Theta Solvent)の時には0.5になる。
典型的な良溶媒では0.8、フレキシブルな高分子では0.5から0.8の間、剛直になると0.8以上になるとされている。

課題:Kとaの関係をグラフ化するように。
一部変なデータのあるトルエンについて考察せよ

グラフ化すると明らかなように、Kとaは高い相関がある。また、aの値はシーター溶媒(溶解する限界)では液中に下図の左のように溶解し、良溶媒a=0.8では右のように溶解するので、aについては物理化学的な意味合いがある。

そこで、各溶媒をYMBで計算し、どんな物性とaの値に相関があるか調べよう。

一例としてはこんな図が得られる。他に相関が高い物性値がYMBの計算値の中にあるだろうか?

 

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