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02-Jan-2013

洗  濯            (15)
  
 転勤。・・・社宅の事情で取り敢えず単身赴任、二ヶ月ばかり独身寮生活を送ることになった。
 部屋の掃除はさぼっても、せいぜい綿ぼこりがころりコロリと転がるくらいのものだし、それも隅っこの方で、しょっちゅう使っている部分にはゴミは溜まらないものだから、これは何とかなった。だが、下着の方はそうはいかない。着るものがだんだん無くなってくる、前に脱いだもの中から、程度のいゝのを引っ張り出してやりくりするのにも限度がある。

 二十日ほど経った日曜日に、ハムレットみたいに迷った挙句、意を決して洗濯をした。そして大発見をした。洗濯機というものゝ何と便利に出来ていることか。ーーー洗濯物を放りむーーー水を出すーーー洗剤を入れるーーースイッチを押すーーーぐうと右に回っていた渦が止まる(オヤ故障か?と思う間もなく)ーーー自動的に反転して、今度は左へ回るーーー右へ・左へーーー。
 セットしていた時間がくると回転がとまると同時にブザーが鳴る。(きれいになったら知らせるから昼寝でもしてなさい、ということらしい)。横に脱水器というのがついていて、中に放り込んだ洗濯物はもう ”濡れた”というよりは ”湿った”という状態。この間全く手をぬらすことなし。ーーー至れり尽くせりではないか。

 学生時代、玄人下宿のうす暗い洗面所で、赤くかじかんだ指を握り締め、息をはきかけながら洗面器に洗濯板を乗せてゴリゴリやった洗濯を思い出す。

 文明の進歩というヤツは有難いものではないか。あれから十数年、こんなことを書いても世の奥方族からは、何と時代遅れなと笑われるのが関の山であろうが、笑われながらもやはり土筆生は結構な世の中になったものだと、感謝せずには居られないのである。

 

         ひ と り           
  
 「男は、名刺の肩書きではなく、名前一本の自分自身の人柄で勝負しろ」と先輩から教えられた。ーーー転勤で今まで生活してきた土地なりグループから離れて、一人、見知らぬ土地で見知らぬ人々の中に入って生活するようになった時、人は初めて 「どこの誰」でなく 「誰?」だけになっていることに気がつく。

 そこで偶然に会った、ずっと以前に何かの事で何かのお世話をした人から、今度は思いがけずいろいろ親切にされたとき、人間関係のしがらみを知る。 ”袖触れ合うも他生の縁”という。
 今日のこのためにお世話した訳じゃないのにーーー。

 何がどこでどんな形で戻ってくるか判らない・・・という損得づくめの判断からではなく、人間に大切なのは、新撰組じゃないが「誠」の一字。「やれるときに、やれることを やれるだけ やっておく」ということだけのような気がする。

         赤 ん 坊            

 仔馬は、生れ落ちて間もなく、何度も何度も失敗を重ねながらやがて自分の足で立ちあがる。仔犬はまだ目もあかないうちから、他の仲間を押しのけて乳房にむしゃぶりつく。ひよこは、自分で卵のカラを内側からつき破って出てくる。自然の生命力のたくましさ。

 それに引き換え人間の赤ん坊のなんとだらしないことか。人間だって動物なんだから、太古は犬や馬のように産み落とされたあとは自分の生命力で生きてきたのだろうに。

 人間は,永年かゝってこのようにだらしなくなってしまった。今更これを変えようとしてもどうなるものでもない。だが、せめて精神的には、育て方によって、もっと逞しく育てゝいけるのではあるまいか。

          友                  
 
 酔眼をあげて、しきりにある男の悪口を言って最後に ”俺はお前を信用して言ったのだから、俺が言ったという事は、絶対に言わないでくれよ”と言いながら眠ってしまった男。

 明日になれば、”言わないでくれよ” といったことも忘れているのだろう。

(69・S・44・9)