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悲しき酒(片々草抜粋)

 

 

 

 

 

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02-Jan-2013

駅・片 々

      (過ぎたるは・・・)
 私鉄I線の始発K駅。
 車両の後方から、男がたまげるような大声で、何か怒鳴りながら歩いてくる。何事?と振り返ってみたら、これが制服・制帽にあご紐をかけた運転士。あちらを指差し、こちらを確かめ「尾灯・ヨオシ!」「パンダ・ヨオシ!」「ナントカ・ヨオシ!」・・・よくもまあそんなに点検事項があるものだと感心したが・・・。それをまたその都度、やけくそみたいなでかい声で怒鳴るのが、安全確認というよりも何か異様な感じだった。

 案の定この運転士、運転中も応援団の発声練習よろしく運転しながら「ナントカ・ヨオシ!、カントカ・ヨオシ!」・・・あまりになり振り構わぬ一心不乱の態度に、ひょっとしてこの運転士、仕事にではなく酒に酔っているのではないか、と不安になってしまった。

 もしも、安全のための服務規律で、本当にあれだけのことを、あのようにやらなければならないのだとすれば、他の運転士は全員が規律違反である。
 ものの本によると、欲求不満の型に「現実への逃避」というのがあり、”がむしゃらに何かをする”とあるが、若しやあの人は何か「欲求不満」の塊だったのではあるまいか?。

      (しつけ・・・)
 この私鉄・K駅では、改札を出るとすぐJRの改札につながっており、毎日期せずして両社の駅員の接客態度を比較することになる。私鉄の方の改札は駅員が必ず立っていて、「お早うございます」、「有難うございます」と客の一人ひとりに声をかける。JRの方は、立ってるのあり、座ってるのありばらばらで挨拶は皆無。時に切符を出すと、お客に切符を持たせたまま挟みを入れる横着な奴もいる。

 いずれの会社も営利事業.当然客に接する態度について、いろんなことが決められている筈であるが、”悪貨は良貨を駆逐する”・・・かくは向かい合った改札口でこれだけの差があるのに、平然と疑問を持たずに日が過ごせるようになってしまう。もって他山の石とすべし。

      (後 悔・・・)
 始発駅、珍しく座れた座席の横に、後からおっさんが座った。あまりいい服装ではないが、席をつめて後の人が座れるように気を遣ったりしている。動くたびに ”あれ、この人少し飲んでいるな”、と分かったが別に気にもとめていなかった。
 二つ三つ駅を過ぎたころ、もじもじしていたその人が、思い切ったようにこちらを向いて尋ねた。「あのーわたし酒がにおいますかー?」、ためらわず「ええ、匂いますよ。さっきからそう思っていました」「それじゃあ、酒飲んだって分かりますねえ」「ええ、そりゃあ分かりますよ」・・・あとはつぶやくように、「やはり分かりますか。今から病院に帰るんですが、看護婦に飲んじゃいけないって言われているんですよねえ」・・・「どれくらい飲んだんです?」・・・しばらく考えて、思い切ったように「焼酎を一合・・・、いや二合飲んでしまったんですよねえ」。

 その消え入るようなしおれかたが可哀そうでーーー「水を沢山飲んで、どこかで少し時間をつぶして行ったらどうです?」「それが、七時半門限であと三十分しかないんです」「じゃあ、ガムでもかんで、玄関開けたらすぐ(只今ア)って大きな声で言って、後は部屋まで息をしないで行くんですねえ」・・・。
 「すみません、ここで降りますので」と判れたが、 ”やはり匂いますか?”とすがるようにこちらを見た目が、人生の苦労を刻み込んだ深い顔のしわと対照的に意外なほど綺麗だったのが忘れられない。

         (親切・・・)
 出勤時、いつもの電車の時間に合わせて急いで歩いていたら、向こうから微笑みながら親しげに男が近づいてくる。
 ”ええと、”誰だったっけ”と慌てて考える間もなく、その男すっと顔を近づけて、秘密めいた小さな声で・・・。
 {あのーマエが開いていますヨ」。
(90・H2・6)