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2021.4.1
皆さんは、使っていたスマホやPCがハマグリになったことがあるでしょうか?
ハマグリというのは、内臓のLiBバッテリーが膨れてぱっくり口を開けることです。
これはなぜ起こるのでしょうか?
リチウム・イオンバッテリー(LiB)の中には通常カーボネート系の溶媒が封入されています。そうした溶媒は熱がかかると蒸発します。
通常の蒸発は、大気圧に逆らって液相から気相に分子が飛び出すことを言います。
ヤカンでお湯を沸かすことをイメージしてください。
詳しいことは、沸騰の科学で説明しているので参照してください。
では、密閉されたLiBの中でどんどん温度が上昇したらどうなるでしょうか?
茹でたハマグリがぱっくり口を開けるように、LiBが膨れて液晶パネルを押し上げて口を広げ、写真のようにガラスは割れてしまいます。
バッテリーがへたったからといって安いところで交換したりすると、こんな事になります。
さらに運が悪いと、中身が吹き出し、噴き出た瞬間に燃焼して大きな事故につながることがあります。これは、化合物には自然発火温度(酸素があれば、火種がなくても発火する温度)があるからです。実際に、ボーイング787で火災事故が発生しました。
こうしたLiB用の溶媒の引火点や発火点についてはこちらで検討しました。
ここでは蒸気圧について検討してみましょう。
次のデータを表計算ソフトにペーストしておきましょう。
「ある任意の温度の時の蒸気圧を推算したい」というのがここでの問題です。
言葉上は推算ですが、蒸気圧に関する多くの場合は、推算ではなく補間になります。例えば50℃の時の蒸気圧が求まっていて、80℃の時の蒸気圧が求まっていて、65℃の時の蒸気圧を予測したい。このような使い方です。
様々な化合物に関して、温度に対して実測の蒸気圧のセットが次のように提供されています。
課題
データを表計算ソフトにペーストして、各化合物の温度に対する蒸気圧をプロットしてください。
そのグラフから、蒸気圧が5気圧になる温度を求めてください。(注:1気圧は101325パスカル(Pa)です。)
例えばAcetonitrileの場合には次のようになります。
正確に読み取るのは難しそうですね。
また、溶媒によっては5気圧までの蒸気圧が測定されていません。そのような時に補完が大事になってきます。
蒸気圧を計算するAntoine定数のフィティング方法に関してはこちらでくわしく解説しています。
Antoine定数とは、化合物の蒸気圧と測定温度の間の関係を次の式によって求める為の定数です。
log(P[mmHg])=A-B/(T[℃]+C)
実際にはlog,lnであったり、mmHg,kPaであったり、℃,Kであったりするので、データ集によって値は様々ですが、pirikaではlog, mmHg, ℃を標準にしています。
この、A, B, Cの3つの値は化合物特有の値になります。つまり、実験値の蒸気圧にフィティングしたA,B,Cの値を用いて、任意の温度での蒸気圧を補完できることになります。
逆に、蒸気圧が5気圧になる時の温度を求めるには、
log(760*5)=A-B/(T[℃]+C)
の式からTを求めれば良いことになります。
課題:
最初に作ったテーブル中にある化合物のAntoine定数を用いて蒸気圧が5気圧に到達する時の温度を求め表を完成させてください。
化合物 | 5気圧到達温度℃ |
---|---|
acetonitrile | |
diethyl carbonate | |
ethylene carbonate | |
Propylene Carbonate | |
Dimethyl Carbonate |
多くの化学工学の装置には、ある圧力に達した時に圧力を逃す破裂板(ラプチャーディスク)が搭載されています。用いる化合物の蒸気圧に合わせた設定が大事です。
LiBの溶媒が引火性で事故が多いことは広く認識されており、例えば、GSユアサなどが難燃性フッ化アルキル基含有有機溶媒などを開発しています。性能の高い全固体のLiBが出来るまではそうした使い方も必要になります。
それではユアサの論文にある次の化合物、どうやって蒸気圧を推算したら良いでしょうか?
この場合には、Antoine定数、A, B, Cを推算しなくてはなりません。 そこで分子の構造からAntoine定数を推算しなくてはならないのですが、よほど工夫をしない限りそれは難しいのです。
例えばジエチルカーボネートのAntoine定数はソースによって色々な値があります。
Source | Antoine A | Antoine B | Antoine C |
---|---|---|---|
Pirika | 6.9381 | 1331.69 | 201.41 |
CRC Handbook | 7.0626 | 1396.87 | 207.67 |
Takeya et.al. | 8.2640 | 2102 | 264.4 |
しかし、グラフを描いてみるとどれも精度良く実験値をフィティングしていることがわかります。
つまり、例えばAntoine Bを分子構造から予測する推算式を作ろうとした場合、データベース中の、どのBの値を採用したかで結果は大きく変わります。
しかし、非線型方程式では、3つのパラメータの組みが重要で、そのような組みはいくつでも存在できてしまします。
したがって機械学習させるにしても、どの値を学習させるかが定められないのでAntoine定数は通常推算できません。
Pirika法のAntoine定数は、蒸気圧のデータから私が全て決定し直しました。
係数が単なるフィティングパラメータではなく、意味のある決定法をとっています。
そこで、類縁体は似たような値を取りますし、分子量に違いによる傾向も一定になるように作ってあります。そして、化合物のSmilesの構造式があれば、そのAntoine定数はYMBを用いて計算することができます。
課題:
GSユアサの化合物が5気圧になる温度を、YMBでAntoine定数を求め、計算してください。
さて、最終的なLiBのモジュールまで作ると更にめんどくさい試験が待っています。
まー交通事故みないなことがあっても、LiBモジュールにが安全であるように作るのは大変だなと思った試験に、釘打ち試験というのがありました。
釘でモジュールを打ち抜いて、中身が噴き出るような状況です。
モジュールの温度が、中身の溶媒の蒸気圧が5気圧になった時に、釘が突き刺さったとします。本来は断熱膨張なので温度は急激に下がりますが、下がらなかった時に、火を吹く溶媒はどれでしょうか?
溶媒には自然発火温度というものがある事もあり、その温度で酸素がある場合には火種がなくとも燃えます。(引火点は、火種のある時の話です。)
詳しくは、引火点のMOOCをで発火点の予測式を作り、5気圧の時の温度と比べてください。
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