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2012.9.22
自由研究:
13-オキソ-9,11-オクタデカジエン酸(13-oxo-ODA:C18H30O3)は、トマトに含まれる不飽和脂肪酸の一つです。
この化合物が京都大学の先生により脂肪増加を抑える効果があることが発見され、スーパーからトマトジュースが消えました。コップ1杯のトマトジュースで効果があるという事です。
13-oxo-ODAの構造
トマトの成分表を調べてみると、他にはこんな栄養素が含まれています。
もし、トマトジュースから13-oxo-ODAを化学工学的に精製しようとしたらどんな方法があるか考えてみましょう。
それには、まず各化合物のSmiles構造から、YMBを使って物性値を計算しましょう。
トマト含有成分データ
ビタミン類は次のものに弱いとされます。
ビタミンC → 水・熱・酸素・アルカリ・酸
ビタミンB1 → 水・熱・アルカリ
ビタミンB2 → 光・アルカリ
ビタミンB6 → 光
ビタミンE → アルカリ・紫外線
ビタミンK → 光
ナイアシン → とくになし
葉酸 → 光
パントテン酸 → 熱・酸
水溶性のビタミンは熱に弱いので熱をかける分離は適しません。
13-オキソ-9,11-オクタデカジエン酸(13-oxo-ODA)は不飽和カルボン酸の一種ですが、それ以外でも重要な不飽和カルボン酸も多々あります。
アメリカでは、発行部数が1,500部以上の新聞のうち95%が大豆インクを使って印刷を行っています。
大豆油の脂肪酸組成は
* リノール酸約50%、
* オレイン酸20%強、
* パルミチン酸約10%、
* リノレン酸約10%、
* ステアリン酸約5%
と不飽和カルボン酸がメインです。
これも重要なグリーンソルベントです。
分子が小さいものでは、アクリル酸、メタクリル酸は樹脂、繊維、塗料などアクリル系のポリマー用の原料として非常に大きな市場を持っています。
さらに分子量の大きな不飽和カルボン酸としては、
オレイン酸: CCCCCCCCC=CCCCCCCCC(O)=O (C18H34O2)
リノール酸:CCCCCC=CCC=CCCCCCCCC(=O)O (C18H32O2)
が重要でしょう。
オレイン酸は皮膚刺激性が少なく、クリームやローション等の化粧品の原料に多く用いられています。
リノール酸は栄養学では、摂取することが必須の栄養素である必須脂肪酸です。
不飽和脂肪酸は同じ炭素数の飽和脂肪酸に比べて、低い融点を示し不飽和結合の数が多いほど顕著となります。
とくに魚類など寒冷地に生息する変温動物にとって、不飽和脂肪酸の低い融点は生体構成脂質として有用と考えられます。
また魚類は多種多様な不飽和脂肪酸を利用しています。
その中でも良く耳にするのは、EPAとDHAでしょう。
エイコサペンタエン酸:CCC=CCC=CCC=CCC=CCC=CCCCC(=O)O, EPAは、5つのシス-二重結合をもつ20炭素のカルボン酸です。
いわゆる青背の魚と呼ばれるアジ、イワシ、カツオ、サンマ、マグロなどに多く含まれています。
血栓の予防や中性脂肪を減らす効果があるとされます。
ドコサヘキサエン酸:DHAは6つの二重結合を含む22個の炭素鎖をもつカルボン酸 (22:6) の総称です。通常は生体にとって重要な 4, 7, 10, 13, 16, 19 位に全てシス型の二重結合をもつものを言います。 DHAは不飽和度が極めて高く細胞膜の流動性の保持に寄与しています。マグロ(トロ)、養殖マダイ、ブリ、サバ、養殖ハマチの順に多く含まれています。青魚以外ではウナギ、サケ、筋子などにも豊富に含まれています。
ルーメン酸 CCCCCCC=CC=CCCCCCCCC(=O)O ルーメン酸(Rumenic acid)またはボビン酸(bovinic acid)は、乳製品や反芻動物の脂肪で見られる共役リノール酸(CLA)の一つで、この酸の13位が酸化されたものが13-oxo-ODAになる。
CCCCCC(=O)C=CC=CCCCCCCCC(=O)O (13-oxo-ODA)
こうした、飽和、不飽和カルボン酸の融点に関してはこちらのHPが詳しいです
飽和カルボン酸の特徴的なのは炭素数の偶奇で融点が上のようにギザギザすることです。
PKa(酸解離定数)などでもこうした偶奇性が現れます。
しかし、YMBではそれは再現できません。
不飽和のカルボン酸の融点の特徴としては、Cis/Transの依存性が興味深いです。
同じ炭素数であれば、上の図のように、Trans体の融点が30℃ほど高くなります。
YMBではCis/Transも区別しないので平均値を返してしまいます。
このトランス脂肪酸は天然の植物油にはほとんど含まれず、水素を付加して硬化した部分硬化油を製造する過程で発生するため、それを原料とするマーガリン、ファットスプレッド、ショートニングなどに多く含まれます。
一定量を摂取するとLDLコレステロール(悪玉コレステロール)を増加させ心臓疾患のリスクを高めるといわれ、2003年以降、トランス脂肪酸を含む製品の使用を規制する国が増えています。
(Wiki記事より)
トランス脂肪酸量低減に採用される代表的な手法としては、エステル交換技術、分別技術、結晶調整技術などが知られています。
上のようにTrans体は融点が高くなることを利用して取り除いてしまうことが行われています。
同じ炭素数の場合、2重結合の位置によって融点も大きく変わります。
Carbon# MP
2-ヘキセン酸 6 32
3-ヘキセン酸 6 12
4-ヘキセン酸 6 0
2-ヘキサデセン酸 16 45
7-ヘキサデセン酸 16 21
9-ヘキサデセン酸(cis) 16 0.5
6-オクタデセン酸(cis) 18 30
9-オクタデセン酸(cis) 18 13.4
11-オクタデセン酸(cis) 18 14.5
6-オクタデセン酸(trans) 18 54
9-オクタデセン酸(trans) 18 46.5
11-オクタデセン酸(trans) 18 44
同じ炭素鎖の場合、カルボン酸に一番近い2の位置に2重結合が来た場合に融点は特異的に高くなります。その場合はほとんどアルカン酸と同じ融点になることが下の図からわかります。
トランス不飽和カルボン酸を減らすために、飽和のアルカン酸(2重結合全部に水素を付けてしまう)を使うと、融点は上の図のように高くなり、肥満、動脈硬化、虚血性心疾患などの健康被害が逆に心配されています。
Carbon# # of Double Bond MP
オレイン酸 18 1 13.4
リノール酸 18 2 -5
α-リノレン酸 18 3 -11
アラキドン酸 20 4 -49
エイコサペンタエン酸,EPA 20 5 -54
ドコサヘキサエン酸, DHA 22 6 -44
2重結合の数が多くなると融点は低下します。
13-オキソ-9,11-オクタデカジエン酸(13-oxo-ODA)を分離するという観点で、次の不飽和カルボン酸をYMBで計算してみてみましょう。
不飽和カルボン酸データ
融点に関しては、偶奇性、Cis/Transを考慮できないので推算精度は非常に低くなってしまいます。
沸点、Antoine蒸気圧パラメータに関しては精度よく推算できています。
沸点が十分離れている場合には蒸留で分離する事が可能でしょう。
オクタノール/水分配比率(logP, logKow)は下図のように非常に精度高く推算する事ができます。
この値が大きく異なる場合には液液抽出で分離するか、カラム分離で精製する事ができます。
log(水への溶解度) g/100gもそれなりの精度で推算できます。
logSが大きく違う場合には、再結晶により精製できますが、13-oxo-ODAの場合にはトマトの成分の中で微量成分なので、よほどの差が無い限り使う事はできないでしょう。
加熱安定性の事を考えると、カラム精製を行い濃縮し、再結晶というのが妥当な所でしょうか。
植物油といわれる油には不飽和脂肪酸が多く含まれます。バイオ燃料としても用いられています。
ひまし油の成分は不飽和脂肪酸(リシノール酸が87%、オレイン酸が7%、リノール酸が3%)と少量の飽和脂肪酸(パルミチン酸、ステアリン酸などが3%)のグリセリド。石鹸(せっけん)、潤滑油、作動油、塗料、インキ、ワックス、耐低温樹脂、ナイロン、医薬品、香水、ポマードなどの原料として用いられます。
健康にいい脂肪酸、グリーンソルベントとしての脂肪酸エステルと利用価値は高いと言えます。
自由研究
2011年講義でイブプロフェンの再結晶を勉強しました。オレイン酸について次のテーブルから溶解度の予測式を作り再結晶について検討してみましょう。
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