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HSP基礎トップページ > 溶解度パラメータの計算方法と、溶解性評価への利用

2009.8.13

概要

技術情報協会、マテリアルステージ(2009.8月号)に掲載の記事。
どうやってハンセン先生、アボット先生とハンセンの溶解度パラメータ(HSP)を決めているか?

これを使うとどんなことができるか?
を簡単にまとめています。

(本記事はversion 2 をベースに書かれた。ver.3では章番号等異なる。)

1. 緒言

溶解度パラメータというとHildebrandのSP値が著名である。
様々な化合物の値がデータ集などに収録され、Smallの式[1]、沖津の式[2]などの原子団寄与法による推算式も開発されている。

Hansenの溶解度パラメーター(HSP)は1つの物質(特にポリマー)が他の物質に溶解して溶液になるかどうか、を予測する手段としてチャールズ・ハンセンによって開発された。

彼の著書[3]には1000を超える化合物のHSP値が収録されている。
推算式としてはStefanis-Panayiotou式[4]が著名である。

どちらのSP値も似た物は似た物を溶かすというアイデアに基づいている。
ここでいう“似ている”というのは、一つの分子が自分自身と相互作用するのと同じように他の分子と相互作用している状態と定義される。

筆者は縁があってHansen先生、Abbott先生の書かれたe-Bookの翻訳と、第2版からは著者の一人としてHSPの研究に携わっている。
そこで今回紹介する溶解度パラメータは、Hansenの溶解度パラメータ(HSP)である事を最初にお断りしておく。

2. Hansenの溶解度パラメータ (HSP)の基礎:

HSPでは、分子に3つのHansenパラメータが与えられており、普通はその単位はMPa0.5 である。

これらの3つのパラメータは、Hansenの空間として知られている3次元座標の一点(ベクトル)として取り扱われる。2つの分子が,この3次元空間上で近ければ近いほど、お互いは溶解しやすい。

HildebrandのSP値とHansenのHSP値の間には、

Hildebrand SP2 = δTot2 =δD2 + δP2 + δH2 

の関係がある。

つまりHildebrandのSP値はHansenのHSPベクトルの長さと同等である。

そうすると、 HildebrandのSP値の言う事は、Hansenの空間で原点からの距離が同じなものは、相互に溶解すると言っているのに等しい。

それに対してHSPは、HildebrandのSP値を包含して、かつ、ベクトルの方向まで加味した溶解性を検討できるので、より優れた方法だと言える。

それでは何故HildebrandのSP値ほど普及しないのかというと、その算出方法の煩雑さにあると思われる。
それについては後述するとして、HSPの基礎について、さらに説明させていただく。

HSPを利用するには、相互作用半径(R0)とHSP間の距離(Ra)が必要になる。

あるHSPが不明なポリマーのHSPを決定する場合を例に簡単に説明する。

そして、その球の半径を相互作用半径R0と定める。そしてポリマーのHSP値と溶媒のHSP値の距離(Ra)を計算するには次式を使う。

(Ra)2 =4(δD2-δD1)2 +(δP2-δP1)2 +(δH2-δH1)2

(δDの前には4と言う係数が入ることに注意してください。)

この値と相互作用半径を組み合わせると、系の相対的エネルギー差(RED)が得られる。

RED = Ra/R0

溶解する溶媒が無く、膨潤するのみであった場合には、膨潤の大小でポリマーのHSP値は決定できる。

これらのHSPの値、REDなどを簡単に計算し、溶媒探索が簡単にできるソフトウエアー, HSPiP[5] がHansen先生、Abbott先生によって開発され、e-Bookとセットで販売されている。

3. 溶解度パラメータの算出方法:

HSP値の算出方法に関してはe-Bookの21章、DIY HSP で詳細に説明されている。

最初の方法は、
蒸発熱
分子体積
屈折率
ダイポールモーメントの値が必要になる。

蒸発熱からδTotが計算でき、ダイポールモーメントと分子体積の値からδP、屈折率からδDが計算できるので、残りのδHも計算できる。

2番目の方法はStefanis-Panayiotouの原子団寄与法を使う方法である。
通常の原子団寄与法などよりは、より大きい原子団を使う事によって、特にδPの推算誤差が小さくなる。

HSPiPに搭載されているのは、Stefanis-Panayiotouが特別に作成したバージョンで、拡張された1st-orderの原子団だけで推算する。

3番目の方法はVan Krevelenの原子団寄与法で、これは対称性を考慮してδP、δHを調整する。

4番目の方法はHoyの方法で、環状化合物を細かく分類する所に特徴がある。
しかし、Hoyの値を使う事は推奨されていない。

5番目の方法はY-MBと呼ばれるニューラルネットワーク法を用いた推算方法である。
分子構造は,分子の線形表記法Smiles式か、MOLファイルを入力する。すると分子を自動的に原子団に分解し、HSP値と分子体積を計算する。

現在の所、このY-MB法がHSP値を推算する公式の方法である。

6番目の方法はポリマーのHSPを計算する方法である。
これはDr. W. Michael BrownのポリマーSmilesをY-MBに実装した方法である。

これらはすべて、HSPiPに実装されているので、すぐに利用可能である。実験からHSPを決める方法としては、
溶媒一つ一つの溶解度を調べる方法から、
インバース・ガスクロを使った一括方法にシフトしてきている。

また、カルフォニア工科大学のGoddard教授らによってMD法を使った推算も進歩してきている。

このように、HSP値の算出はずいぶんと簡便に行えるようになってきている。しかし、オフィシャルなHSP値としては、いまだに、Hansen先生、Abbott先生と筆者で、様々な物性定数、類縁体の値などを持ち寄って、あーでもない、こーでもないと矛盾無いように決めているのが現状である。

4. 溶解性評価への利用

このHSPを溶解性評価に利用する場合の基礎式は、先に紹介したHSPの距離(Ra)である。

δDの項の前に4という係数がつくことにご注意いただきたい。

例えば,去年問題になったパラジクロロベンゼンという防虫剤の成分が,インスタント食品のポリスチレンの容器を浸透した”移り香”を、HSPを用いて解析してみよう。

ポリスチレンのHSPは[δD, δP, δH]が[18.5, 4.5, 2.9] である。
それに対してp-dichlorobenzeneのHSPは[19.7, 5.6, 2.7]なので

4*(19.7-18.5)2 +(5.6-5.4)2 +(2.7-2.9)2 =5.84

となり距離Raは2.42となる。

ポリスチレンのR0は8であるので、REDは0.302となりジクロロベンゼンはポリスチレンを非常に良く溶解するという結論になる。
従って移り香がおこる事は十分あり得る事である。

このようにHSP距離を計算するだけで溶解性が評価できるので、とても簡便である。

e-Bookの中では第3、4章で、画家の使う揮発油の代替溶媒探索などの例があがっている。

HSPによる混合溶媒の取り扱いは、基本的には分子体積の相加平均を用いる。

[dDm, dPm, dHm]=[(a*dD1+b*dD2), (a*dP1+b*dP2),(a*dH1+b*dH2)]/(a+b)

そこで、例えばアセトニトリル[15.3, 18. 6.1]と同等の溶解性を示す溶媒を探索する場合には、
エチレンカーボネート[18, 21.7, 5.1]
ブチルグリコールアセテート[15.3, 7.5, 6.8]
を60:40混合した溶媒[16.9, 16, 5.8]が候補として出てくる。

こうした代替探索はHSPiPの”Solvent Optimizer”を使うとすぐに探索することができる。

逆に溶解してほしくない溶解性の評価には距離が長いものを探索する。
e-Bookの例では、第14章で細胞毒性のある薬品や、唐辛子のカプサイシンが手袋を透過する現象を,HSPを用いて解析している。

このカプサイシンのHSPは[18.0, 10.5, 12.8]で、人間の皮膚のHSPは[17.6, 13.5, 10.2]なのでHSPの距離(Ra)は4.0になる。

皮膚の相互作用半径(R0)は4.3と、かなり小さな値ではあるが、相対的エネルギー差(RED)は4.0/4.3で1以下になる。

そこで皮膚には浸透するという結果になる。

これを防御する手袋としては、HSP距離が離れていないとならない。

天然ゴムのラテックスの手袋[19.0, 12.6, 3.8]では距離Raが9.5になり、相互作用半径(R0)が13.3であることから、20分程度で浸透してしまうという結果になった。(事実その通りであった。)

ポリエチレンの手袋[16.9, 3.3, 4.1]は距離が11.5で R0 は8.1なのでほとんど浸透しない。しかしポリエチレンの手袋は破れやすいので、ポリエチレンの手袋の上にラテックスの手袋と重ね着する事が推奨されている。

このような評価はHSPiPの”Diffusion”機能を使って簡単に計算することができる。先ほどの移り香の問題、化粧品の皮膚への浸透(第12章)、細胞壁を透過して薬品がDNAを攻撃する例(第19章)なども同じような範疇である。

ガラス、顔料、カーボンブラック、C60などは溶媒に溶解する訳ではない
しかし、こうしたものが溶媒やポリマーにどのくらい分散するかはHSPを用いて評価することができる。

HSPが未知のポリマーのHSPの決定法で紹介したように、分散性を5段階評価し、分散状態の良いものを球の内側に来るように球を定め、その中心点を求めれば良い。

グラファイトの単層化合物、グラフェンの溶媒探索などにもHSPが使われている。

e-Book中では、アスファルト(第7章)、顔料(第8章)、ナノカーボン(第20章)が説明されている。

ガスクロやHPLCの保持時間などもHSPと高い相関がある。 

ガスクロの場合には検出物質と充填剤のHSP距離が、HPLCの場合は溶質と移動相のHSP距離が保持時間を決めている(第17章)。

またガスクロと似た応用になるが、人工の鼻(第18章)では、HSPの異なる数種類のポリマーとそのポリマーの膨潤度を捕まえるセンサーの組み合わせで、においを識別する試みがなされている。

環境問題にHSPが貢献できる事に関してはe-Book全体に様々な例が記載されている。HAP規制の化合物の代替探索、水の浄化膜の設計、ガスのバリア膜の設計など、いろいろな分野へ応用されている。

こうしたHSPの応用例は、1000報を超える論文が存在し、近年はポリマーから医薬品、香料などへの応用も広がっている。

ただし、高度に使いこなそうとした場合には、様々な工夫も必要になる。
例えば、筆者の経験ではカルボン酸を含有する化合物の溶解性は、 δHを無視した距離を使った方が,相関が高くなった。
そうしたノウハウを蓄積し、HSPiPのソフトウエアーを利用して、様々な応用が花開く事を願ってやまない。  

5. 文献

[1] P. A. Small, J. Appl. Chem. 3, 71 (1953)
[2] 沖津 俊直、日本接着学会誌、vol.29, No.5, 204-211(1993)
[3] Hansen, Charles (2007). Hansen Solubility Parameters: A user's handbook, Second Edition. Boca Raton, Fla: CRC Press.
[4] Emmanuel Stefanis and Costas Panayiotou, Int J Thermophys (2008) 29:568-585
[5] HSPiP: Hansen Solubility Parameter in Practice. http://www.hansen-solubility.com/

具体的にHSPiPを使ってどのようにHSPを求め、利用するのか, 離型剤の洗浄が初心者には一番分かりやすいと思います。

HSPiPの使い方その3:反応の副生成物を抽出除去する溶媒を探索する。使い方が分かりづらいというユーザーにハンズ・オンで説明した。その説明の改訂版。

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