小難しい事を聞いてくる人がいる。
役割と言われても、僕にも困る。
QSAR式に含めた方が良いかどうかはプログラムが判断する。
まず、Ovalityの定義だ。
これは、昔のChemDraw3Dに搭載されていた。イオン液体の物性値を予測するのに重宝した。
まず、分子があったときに、分子の体積(NW/Density)と分子の表面積が得られることが前提だ。
僕はデータベースの値はMOPACで計算してあるので、COSMOの分子体積と分子表面積は入手してある。
分子の体積は実験値(MW/密度)を使うことだ。これを分子軌道法を使ったものを使うと経験上良いことはない。
分子表面積は、逆に分子軌道計算したものから持ってくるしかない。
実験値で求めることはできない。
この計算値が分子になる。
そして、この分子の分子体積と全く同じ体積を持つ真球を考える。
真球は同じ体積の中で表面積が最小になる。
これを分母に持ってくる。
そこで、分子の形状が球に近いとOvalityは1になる。(実験値とMO計算値のずれから1以下になることもある。)イオン液体の場合には、融点とOvalityに高い相関があった。
イメージ的に言えば、柔らかいグニャグニャの大きな分子は、伸び切ったり(Ovality=2)、糸くずのように丸まったり(Ovality=1)できるが、元々Ovalityが1のものは、硬くて、形状が変わらない分子になる。(ただし、多環化合物も形を変えられない。)
こうした形状の因子が溶解性に及ぼす影響は明確ではない。
そこで、色々な物性値と相関をとって、Ovalityの意味の理解に努める。
融解のエントロピー(融解熱/融点)はOvalityと相関する。
融解熱を融点で割った値はOvalityと非常に高い相関がある。
分子が球形に近いと融解熱は小さくなる。
そこで、球形分子の固体に熱をかけると、液体にならずに気体になる昇華現象が見られる。そこでこの事は受け入れやすいだろう。
このビラは東大「分子集合体の化学」で講義した時のものだ。
正確にいうと融点の取り方に問題がある。
球状分子は熱がかかり、動きが激しくなってきても重心の位置は変わらないので固体とみなされる。
しかし、回転の自由度的には液体になっている。
重心の位置が動き始め、融点として観測される時には、もう十分融解熱を得ているので、非常に小さな融解熱になる。
Ovalityは分子の大きさとは関係ない指標なのに、不思議な気がするかも知れない。
しかし、Ovalityが大きくなるためには、分子も大きくならなくてはならない。
分子の密度とOvalityの相関
沸点における分子の密度をkmol/m3でとり、Ovalityとの相関を検討すると次のようになる。分子が球に近いほどm3あたりのモル数は大きくなる。
25℃の時も同じような相関が得られるが、ずっと曖昧になる。
高い温度で揺すってあげた時の最密充填構造を考えると、Ovality=1の時最も多く詰め込めるといったイメージで良い。
そこで、物性推算上、沸点における密度、分子体積(分子量/密度)はとても重要な指標になる。
分子が大きくなれば、m3あたりのモル数は小さくなるのは当たり前だろう。
ところが、横軸を分子量に変えると次のようになる。
ハロゲン原子など重い原子があり、相関を見えづらくさせる。
臨界温度/沸点はOvalityと相関する。
臨界温度/沸点は、おおよそ1.5になることが知られている。
そこで臨界温度が不明な化合物の臨界温度は沸点の1.5倍(Kelvin単位でとる)にすることが多い。
臨界温度/沸点とOvalityの相関は上の図になる。実用的な意味で言えば、臨界温度が不明な化合物も、Ovalityを計算すればより正しい臨界温度が推算できる。
しかし、科学的な意味づけは難しい。
同族の同じ分子量の分子は球形に近いほど沸点は低くなる。
分子間の接触表面が少なくなるからと考えられている。
臨界温度も同じように低くなるのであれば、臨界温度/沸点は一定になるはずだ。
Ovalityが1に近いと、臨界温度/沸点が大きくなるのであれば、沸点の低下に比べ、臨界温度は低下しない事を示している。
それが何故かは、僕には、まだ、よくわからない。
熱伝導度とOvalityの関係
Ovalityが1に近い分子は、大きな構造変化を取れない。すると分子衝突を考えたときに、剛体球衝突に近くなり、熱伝導のロスが小さくなる気がする。
大まかにはその傾向があるように思えるが、余り明瞭ではない。
ポリマーを構成する繰り返しユニットのOvality
ポリマーの融点を繰り返しユニットの分子体積で割ったものは繰り返しユニットのOvalityと相関がある。
ただし、その関係はどうしても曖昧になってしまう。ラジカル重合性ポリマーの場合、ユニットは小さなモノマー単位ではっきりしているが、ポリエステルやポリアミドの場合繰り返しユニット自体がとても大きくなってしまうからだ。
結論なんてない
Ovalityがポリマーの溶解性にどう寄与するか?については、僕には答えられない。
特に最近は無精にも自動で変数選択させているので、理由などわからない。
掘り下げてみれば、とても面白い鉱脈かも知れない。
なんといってもQSAR上選択されることがとても多いパラメータなのだから。