液液抽出とHSP

2022.9.14改訂(2010.5.31)

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次世代HSP技術で、液液抽出をHSPで考えるのは難しかったを解説した。

概要

液液抽出の溶媒が非極性であれば、分配係数は溶質と非極性溶媒のHSP距離で整理できそうである。
しかし、抽出溶媒が、クロロホルム、ジエチルエーテル、オクタノールと極性を持ってくると、分配係数とHSP距離の相関はなくなる。
クロマトグラフィーでカラムの極性が低いODS-カラムを用いた場合、ヘキサンを用いた液液抽出と同様で、クロマトの保持時間とHSP距離の間に相関が生まれる。

内容

液液抽出は分離操作としては,蒸留に次いで重要な技術だろう。
分子サイズが大きくなる医薬,化粧分野では特に重要になる。
その分離操作を設計する時に,ある化合物が有機相へ行きやすいのか水相に居やすいのかが判ればすごく助かる。

それをハンセンの溶解度パラメータを使って整理してみる。

模式図で表すと,ある溶質があった時にその溶解度パラメータ,HSPが有機溶媒と似ているか,水と似ているかを見れば,”似たものは似たものを溶かす”という原理で分配係数が判らないか?

というのが今回の話だ。似ているかどうかの尺度はHSP距離を使う。

HSP距離

HSP distance(Ra)={4*(dD1-dD2)^2 + (dP1-dP2)^2 +(dH1-dH2)^2 }^0.5

(dDの前には4と言う係数が入ることに注意する。)

logP,オクタノール-水分配比率はデータとしては最も豊富で,我々のHSPiPのデータベース12000件中5700化合物についてデータがある。

またHSPiPにもこのデータを解析して得られた推算式が搭載されているし,clogPなどlogPを推算するソフトもある。

このlogPという物性値は溶解性を表す指標ではない事がわかっている。

そこで、他の有機溶媒ならどうなのかを検討してみた。

データ集(化学便覧)から,オクタノール,ジエチルエーテル,クロロホルム,四塩炭,ベンゼン,ヘキサンのlogKDの値を集めた。

データをエクセルなどにコピぺしておこう。
HSPiPを使って抽出溶媒のHSPと溶質のHSPを計算してHSP距離を計算しておこう。

上図のように、オクタノールのlogKD(logKow)とオクタノールと溶質の距離をプロットして見るとほとんど相関が無いことが再確認される。

分子体積とプロットした方がどんなにかマシかお判りいただけるだろう。

対応するブラウザーをお使いなら、上のキャンバスに分子を複数描けばlogPがどのくらいかを得る事ができる。詳しい分子の描き方はこちらを参照してください

ところが,ヘキサンについてlogKDとヘキサン-溶質のHSP距離をプロットすると,上図のように2本の直線が見える。

つまりヘキサンの場合には,HSP距離が短いものはヘキサンに溶解しやすく,logKDが大きくなる事がわかる。

それではこの2本の直線のうち,どのような化合物がどちらの直線に乗るのだろうか?

上図のようにアルコール,アミド化合物は上の直線に乗る。

上図のようにカルボン酸やエステルなどは下の直線にのる。

アミン化合物が上図のように、この全体のグラフを見にくくしているが,他のものと随分違う挙動を示す。

それ以外に官能基を複数持ったもので例外がいくつかある。

pirikaのwebページでもHSPを使ったHPLC解析はいくつか紹介しているが,ある程度似た化合物の一斉分析であればリテンションタイムがHSPから推算できるのは,この液液抽出の分配係数がHSP距離で整理できる事から考えてもリーズナブルだと言える。

ただしこれがうまくいくのは、カラムとしてODSのものを使ったときだけだ。
オクタデカンとヘキサンは類似性が高いということだ。

Columnの極性が上がるに連れ、以降に示すように分配係数とHSP距離の相関はなくなっていく。

また、最近の研究ではlogPの実験値はODSカラムを用いたクロマトのリテンション・タイムから求められている。
logPが既知の化合物の保持時間で挟み撃ちでHPLCの結果から未知の化合物のlogPを決める。

それが可能なのも上のような相関が得られる非極性のODS-Columnを使った場合だけだ。

他の抽出溶媒ではどうかというと,四塩化炭素,ベンゼン,ヘキサンの非極性溶媒は似た挙動を示す。

上図はアルコール,アミド化合物などの溶質

上図はカルボン酸,エステルなどの溶質

したがって,四塩炭,ベンゼン,ヘキサンなどの非極性溶媒は,溶質の構造が決まり,HSPiPを使ってHSPを計算し,溶媒からのHSP距離を求めれば、logKDは予測する事ができる。

クロロホルム,ジエチルエーテルでは次のようになる。

上図はアルコール,アミド化合物などの溶質

上図はカルボン酸,エステルなどの溶質

クロロホルム,ジエチルエーテルではだんだん相関が無くなって行く。

ここでの検討は水からの距離を無視しているが,近いうちに水からの距離も考慮に入れたQSPR式を紹介しようと思う。

自分だけの式を立てたいという要望があったので、YMBを使って自分用の式を構築する方法を、自分でやろう(DIY)抽出を考えてみよう、のページにまとめたので興味のある方は参照していただきたい。

HSPiPの使い方その3:反応の副生成物を抽出除去する溶媒を探索する。使い方が分かりづらいというユーザーにハンズ・オンで説明した。その説明の改訂版。

同系列の抽出はpirikaのMOOCでも取り扱っている。参照してほしい。

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