ハンセン溶解度パラメータ(HSP)とマイクロ波加熱

2022.9.12改訂(2010.2.26)

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概要

最近マイクロ波(MW)加熱が有機合成の分野でも利用され始めている。

それでは、どんな化合物がマイクロ波をよく吸収するのか?を数値で表すことは出来るのだろうか?

ハンセンの溶解度パラメータ(HSP)を使った方法を提案する。



2021年、第15回日本電磁波エネルギー応用学会シンポジウム:2021年度ショートコースで、マテリアルズ・インフォマティクス(MI)を利用して、マイクロウエーブをどのくらい吸収して温度がどのくらいになるのかを予測する式を構築する方法を解説した。

内容

鈴木カップリング反応,ノーベル賞おめでとう!!

マイクロ波加熱はとても面白い加熱方法で、最近、有機合成にも多く利用されるようになってきている。
グリーン・ケミストリーの分野では重要な技術だと言える。
しかし、全く加速されない反応もあり、トライ&エラーで実験を進めている事も多いようだ。

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概要

最近マイクロ波(MW)加熱が有機合成の分野でも利用され始めている。

それでは、どんな化合物がマイクロ波をよく吸収するのか?を数値で表すことは出来るのだろうか?
ハンセンの溶解度パラメータ(HSP)を使った方法を提案する。

2021年、第15回日本電磁波エネルギー応用学会シンポジウム:2021年度ショートコースで、マテリアルズ・インフォマティクス(MI)を利用して、マイクロウエーブをどのくらい吸収して温度がどのくらいになるのかを予測する式を構築する方法を解説した。

内容

鈴木カップリング反応,ノーベル賞おめでとう!!

マイクロ波加熱はとても面白い加熱方法で、最近、有機合成にも多く利用されるようになってきている。
グリーン・ケミストリーの分野では重要な技術だと言える。
しかし、全く加速されない反応もあり、トライ&エラーで実験を進めている事も多いようだ。

テーブル
Hcode Name DielectricConstant Tan delta DielectricLoss
696 water 80.4 0.123 9.889
398 formic acid 58.5 0.722 42.237
303 DMSO 45 0.825 37.125
297 DMF 37.7 0.161 6.07
10 acetonitrile 37.5 0.062 2.325
368 ethylene glycol 37 1.35 49.95
534 nitromethane 36 0.064 2.304
531 nitrobenzene 34.8 0.589 20.497
456 methanol 32.6 0.659 21.483
521 NMP 32.2 0.275 8.855
325 EtOH 24.3 0.941 22.866
7 Acetone 20.7 0.054 1.118
569 propyl alcohol 20.1 15.216
481 MEK 18.5 0.079 1.462
570 isopropyl alcohol 18.3 0.799 14.622
92 butanol 17.1 0.571 9.764
380 2-methoxyethanol 16.9 6.929
93 sec-butanol 15.8 0.41 7.063
431 isobutanol 15.8 0.522 8.248
367 1,2-dichloroethane 10.4 0.127 1.321
234 o-dichlorobenzene 9.9 0.28 2.772
524 methylene chloride 9.1 0.042 0.382
617 THF 7.4 0.047 0.348
5 Acetic Acid 6.2 0.174 1.079
328 ethyl acetate 6 0.059 0.354
156 Chloroform 4.8 0.091 0.437
148 Chlorobenzene 2.6 0.101 0.263
698 xylene (o-) 2.6 0.018 0.047
637 toluene 2.4 0.04 0.096
417 hexane 1.9 0.02 0.038

たまたま、溶媒の誘電損失の一覧を手に入れた。その本によると、誘電損失の大きな溶媒は良くマイクロ波を吸収するそうだ。

溶媒の誘電率のデータは比較的入手しやすいので、それと誘電損失の値を比べてみた。

大まかには、誘電率の高いものは誘電損失も大きいのだが、例外も多い。

また、有機合成を考えた時には、反応試薬の誘電率はほとんど手に入らず、直感に頼らざる得ないのが現状だ。

そこで、ハンセンの溶解度パラメータ(HSP)を使って、誘電損失を推算するQSPR式を作ってみた。

結果はDMFと蟻酸は全然合わないのだが、それ以外は結構良好に推算できる事が分かった。

蟻酸はダイマーを作る事、DMFは水素結合のネットワークを作る事から、外れるのではないかと考えている。 (2022年9.14 水素結合なら水やEGでもっとずれるべき。)

そうした問題はあるにしても、HSPiPを使えば有機化合物のHSPは計算できる事を考えると、非常に有用だと言える。

ここまで解ると、次にはどの項がどのように効いているのかが知りたい。
もともと、HSPのうち、分極項(dP)は誘電率とダイポールモーメント、分子体積から決定されていた。

後にはダイポールモーメントと分子体積のみから決定されるように変更になった。
だからHSPの分極項は誘電率とは密接な関係がある。
(そこで、HSPと誘電損失に大きな相関があるのではないだろうかと考えるのは、あながち無謀では無い。)

そこで、dPがメジャープレーヤーであることは理解できる。

上のデータとは別に、溶媒に1分間MWを照射した時に温度が何度になったかというデータを入手した。

テーブル
name 1min dD dP dH Vol
Water 81 18.1 17.1 16.9 18
methanol 65 14.7 12.3 22.3 40.6
Ethanol 78 15.8 8.8 19.4 58.6
1-Propanol 98 16 6.8 17.4 75.099
n-Butanol 109 16 5.7 15.8 92
1-Pentanol  106 15.9 5.9 13.9 108.6
1-Hexanol 92 15.9 5.8 12.5 125.2
1-Chlorobutane 76 16.2 5.5 2 104.5
1-Bromobutane 95 16.232 6.88 3.33 109.35
Acetic acid 110 14.5 8 13.5 57.6
Ethyl acetate 73 15.8 5.3 7.2 98.6
Dichloromethane 41 17 7.3 7.1 64.4
Chloroform 49 17.8 3.1 5.7 80.5
Acetone 56 15.5 10.4 7 73.8
DMF 131 17.4 13.7 11.3 77.4
Ehtyl ether 32 14.5 2.9 4.6 104.7
1,4-Dioxane 53 17.5 1.8 9 85.7
n-Butyl amine 70 16.2 4.5 8 98.8
Tripropylamine 56 15.5 3.88 2.07 188.96
n-Hexane 25 14.9 0 0 131.4
n-Heptane 26 15.3 0 0 147
Carbon tetrachloride 28 17.8 0 0.6 17.81
1minute radiation of MicroWave Achieved temperature

そこで、この到達温度を予測する式を作ってみた。

(2*dP+dH)*Volume*dD が、到達温度と一番良い相関になった。

実は、中身がブラックボックスで良いのなら、もっと収束するQSAR式を作ることは簡単だ。MIRAI-Gを使うと、とても良さそうだ。

このようなことをやりたいなら、大事なことは上にあるような意味のあるQSAR式や、ブラックボックスの式など、数多くの式を組み立てる能力を鍛えることだ。

所詮、QSAR式は結果のある一面を表しているに過ぎない。
「ある溶媒は、どんな式で計算しても、いつもこうだ」という結果が得られるとやっと安心できる。

こうした相関が得られると,ある反応にMWを使う場合,原料よりも,溶媒のこのインデックスが高いとMWは溶媒を暖めるのに使われる。

スーパーヒートの効果もあるかもしれないが,それでは通常加熱と同じになってしまう。

HSPiPを使ってこのインデックスの高い反応系をさがせば,かけたMWは反応に使われ,おもしろい結果になるのではないかと思う。

試しに計算

対応するブラウザーをお使いなら、上のキャンバスに分子を描けば水と比べてどのくらいかを得る事ができる。
詳しい分子の描き方はこちらを参照してください

HSPと分子体積を計算するには、Smilesの構造式を準備する。

電荷を持つものは今のところ計算でき無いが、分子の構造式のみで必要な物性が手に入る。このインデックスと例えば収率の関係を是非とも見てみたいものだ。

2010.9.6

鈴木カップリング反応がノーベル賞を受賞した。
この反応は,パラジューム触媒と塩基でビアリール系芳香族を作る反応だ。

詳しい事はChem-Stationの記事を参考にして欲しい。

何故この反応をマイクロウエーブの記事で取り上げているかと言うと,この反応がパラジウムが無くてもマイクロウエーブの照射で進行すると,一時期話題になったからだ。

ICP-AESを使ってPdは検出限界(0.1ppm)以下だったのに反応が進行したので,MW利用,有機合成の観点から注目された。

結果的には,それは間違いで,20-50ppbのパラジウムが存在しないと反応が進行しなかったのだが,逆に言えば,MWの照射で触媒量が劇的に減らせると言うのは,それはそれでグリーンケミストリーといえる。

このマイクロウエーブは反応のどちらに効いているのだろうか? 

上の記事で作った
(2*dP+dH)*Volume*dD
という指標で考えてみる。

まず,ホウ素化合物(OB(O)c1ccccc1)だが,dHが大きい。
指標は54600になる。(この結果はver.3.1のものだ。ver.5.4で計算してみよう)
上のテーブルの溶媒の中でも一番大きい値となる。

もう一方の臭素体(CC(=O)c1ccc(Br)cc1)はdPが大きい。
dPは値が2倍されるので,指標は72200と極端に大きくなる。(ver.5.4で計算してみよう)

2011.6.11
分子を描くと電荷を計算するプログラムを作ってみた。 これは横浜国大での講義用のプログラムだ。YNUの学生はこんな計算にもトライしてみて欲しい。

水の指標は,分子が小さい事もあって,30000程度なので,これらの化合物は非常に良くMWを吸収し発熱するだろうと判る。

特に臭素体は極めて発熱が高いと言う予測になるので,おそらく芳香環とBrの間は激しく振動しているのだろう。

もう一つのホウ素対もMWを吸収して,これも芳香環とホウ素の間で激しく振動していて,両者が出会うと交叉カップリングが起きる。

通常の加熱では,分子全体の結合が(どの結合とは言わず)伸びたり縮んだりする。そこでPdがちょっぴりBr-Phの結合を延ばしてやる必要があって,通常加熱の場合には触媒が多く必要になるのだろうか。

このような指標が受け入れられれば,鈴木カップリングが余り有効でない系に対して,保護基をこう付けると,dPの値が大きくなって,MWが有効に働くのではないか? とかいう分子設計につながって行くとおもう。

それにしても,分子の構造があるだけで,どのくらいMWで発熱するかの指標が得られるなら,マイクロ波有機合成にとても有効だと思う。

興味のあるかたは,HSPiPを試してみて欲しい。

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