LD50(うさぎ、皮膚)とハンセン溶解度パラメータ(HSP)

2022.10.25改訂(2011.01.30)

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概要

毒物が体内に入る時には、どこかで生体膜を透過しなくてはならない。
皮膚を介した透過と胃や腸を介した透過で毒性はどう違うのだろうか?

うさぎの皮膚を介した毒性評価は、データが最も豊富であったのでこれを用いて、皮膚に対する溶解度を手がかりに検討をおこなってみた。

LD50

ここでは、LD50について書こうと思う。
LDというのは”Lethal Dose”の略で致死量のことだ。
そこで LD50というのは、ある量の化学品を一度に投与したときに、検体動物が50%死んでしまう時の濃度のことをいう。
この試験は、急性毒性(acute toxicity)の試験だ。

HSPiPは、現在10,000化合物以上のデータベースを備え、LD50の情報も集積されている。

経口のLD50で最も一般的なのはラットに対するもので、皮膚に対する物ではうさぎが一般的である。
こうしたDBを構築していて、ある一つのことに気がついた。

ある化合物はラットの経口LD50で見たときにとても毒性が高く、うさぎの皮膚のLD50で見たときにも、毒性が高い。

しかし、経口LD50で見たときにとても毒性が高いのに、うさぎの皮膚で見たときには毒性が高くない化合物もある。

どんな構造のものがどちらになるか見当がつくだろうか?
自分は完全に読み誤った。(まー、毒性学は素人なので)

データベースから、LD50(oral, Rat)<180になるものを取り出してみた。
最初のテーブルは、ラットの経口LD50でも、うさぎの皮膚のLD50で見ても毒性が高いものだ。
これらのlogS(水への溶解度g/100ccの対数)がほぼ全て2.0、すなわち完全に水溶性だ。
自分は疎水性の化合物の方が毒性が高くなるのかと思っていた。

何故なら、皮脂の層を透過しなければ血管に入り込めないと考えたからだ。

HcodeCASnameSmilesLD50(Oral, Rat)LD50(skin,rabbit)logPlogS
875-86-5acetone cyanohydrinCC(C)(O)C#N18.6515.8-0.032
1091107-19-7propargyl alcoholOCC#C2016-0.382
31107-11-9allylamineC=CCN102350.032
30107-18-6allyl alcoholC=CCO64450.172
364107-07-32-chloroethanolC(CCl)O71670.032
861464-53-5ButadienedioxideC1(C2OC2)CO17889-0.282
235111-44-4Di-(2-Chloroethyl) EtherClCCOCCCl75901.290.236
Average0.1191.748

2つ目のテーブルはラットの経口LD50では毒性が高く、うさぎの皮膚のLD50でみるとそんなに毒性が高くない物だ。

HcodeCASnameSmilesLD50(Oral, Rat)LD50(skin,rabbit)logPlogS
27591-87-7allyl acetateCC(OCC=C)=O13010210.970.31
34109-75-1vinylacetonitrileC=CCC#N11514100.40.53
558213952-84-6sec-butylamineCC(N)CC15225000.741.05
47679-22-1methyl chloroformateCOC(=O)Cl6071200.140.97
455126-98-7methacrylonitrileCC(C#N)=C120125000.680.41
Average0.5860.654

これらは中ぐらいの水溶性を示す。

ある毒性の高い化合物が、経口で投与されると毒性が高く、皮膚に塗られると毒性が高くない。
どちらの投与の仕方でも、血中濃度が高くなったら毒は毒なのではないのだろうか。

では、なぜ2つ目に示すテーブルの化合物は血中濃度が高くならず、一つ目のテーブルの化合物は血中濃度が高くなったのだろう。

自分が読み誤った点は、皮膚の細胞膜を通り抜けるのはどちらかというと、疎水性が高い2つ目のテーブルの化合物と思った点だ。

もしかしたら、水溶性の化合物は、汗のでる穴に染みこんで、Sweat glandのところから血中に入り込むのかもしれない。

それでは、2つ目のテーブルの化合物はなぜ、毒性が低くなるのだろう?もしかしたら、血液の側に行くより、貯留脂肪に強くトラップされてしまうのではないだろうか?

LD50は急性毒性の指標なので貯留脂肪にトラップされて徐放されたら値は低くはならない。

こうした脂肪に対する溶解性になったら、ハンセンの溶解度パラメータを使って解析するのが有効だ。

これらの化合物のSmilesの構造式を入手して、HSPiPソフトウエアーを用いると簡単にこれらの化合物のHSPと分子体積が手に入る。

結果を纏めると下表のようになった。

namedDdPdHVolume
acetone cyanohydrin16.7614.9918.5387.8
propargyl alcohol16.138.4520.0061.8
allylamine15.186.409.8774.5
allyl alcohol15.578.0817.7169.2
2-chloroethanol17.2111.2417.4967.5
Butadienedioxide17.6510.227.8880.8
Di-(2-Chloroethyl) Ether17.188.254.90118.3
Average16.529.6613.7780.0
namedDdPdHVolume
allyl acetate15.815.057.59108.4
vinylacetonitrile15.7811.455.5981.8
sec-butylamine14.994.397.1898.8
methyl chloroformate16.717.479.1076.2
methacrylonitrile15.7411.795.3682.3
Average15.818.036.9689.5

こうしてみると、うさぎの貯留脂肪のHSPは[15.81, 8.03, 6.96]ぐらいなのかもしれない。
(平均的な脂肪より、dP、dHが高めな気がする。)
上でいう溶解度球の中心が[15.81, 8.03, 6.96]で、それに近い化学品が溶けこんできやすいという考え方だ。

これをハンセン空間にプロットしてみると次のようになる。

テーブルの化合物のHSPを3次元にプロットするとこのようになる。青い球はラットの経口LD50でも、うさぎの皮膚のLD50で見ても毒性が高いものだ。赤い球はラットの経口LD50では毒性が高く、うさぎの皮膚のLD50でみるとそんなに毒性が高くない物だ。球にマウスを合わせてクリックするとどの化合物なのか表示される。
HSPから見ると、違う2つのグループに分類できる。logKowやlogSだけで見ない方が良いかもしれない。

分子の大きさも、皮膚の透過には重要だ。
大きな分子は透過しないだろう。
しかし、そのよう化合物は経口でも、そんなに毒性が高くないのか、テーブルには現れていない。

うさぎは水浴びの嫌いな動物だ。

それならうさぎ用の香水を開発するにはどうしたら良いだろう?
それは、 HSPが[15.81, 8.03, 6.96]くらいのものを使えば、もっとも徐放性の香水になるだろう。

HSPiPのデータベースからそのような香料を検索してみた。

CAS: 6789-80-6
Zeon make this compound for fragrance.
Odor description: vegetable green.

CAS: 5436-21-5
odor description:ethereal musty nutty alcoholic bitter

CAS: 4440-65-7
Odor description: leafy green stem tomato melon apple

最近、マンションなどで飼う動物のふん尿が臭くならないよううに、とかで、動物用の香料の研究が盛んだ。
そんなモノをつけられて動物が幸せかどうかの議論は置いておくとして、そうしたものを開発するにはハンセンの溶解度パラメータは有効だ。

うさぎの皮膚から吸収される徐放性の薬を開発したいなら、薬の成分に [15.81, 8.03, 6.96]の部分をくっつけてやるとか、

こんな界面活性剤を設計してやるとか。いろいろできるだろう。

では、人間の皮膚は?

HSPiPはlogPやlogSを推算する機能が搭載されている。

例えば今回の化合物のlogPをプロットすると上図のようになる。
しかし、logPはこちらの記事でも触れたように溶解度を示す指標ではない

この結果はかなり古いバージョン(Ver.3 ?)で計算したものだ。最新のHSPiPを使って自分で計算してみよう。

logPだけで整理がつかないときにはHSPを試してみて欲しい。

対応するブラウザーをお使いなら、上のキャンバスに分子を描けばlogPがどのくらいかを得る事ができる。詳しい分子の描き方はこちらを参照してほしい

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