ガソリンに添加剤を加えると壊れやすくなる?

今朝の新聞(2023.11.3)を読んで。

プラスチック材料に力をかけた時に壊れてしまう現象の解析方法を紹介します。
特に液体が関与する場合には、通常より低い力で壊れてしまうことがあります。
これをハンセンの溶解度パラメータ、HSPで解析します。

燃料ポンプのインペラが破損する事故でリコールが発生しています。
インペラの製造時にポリマー中にマイクロ・クラックが発生したのが原因と言われています。
そのようなクラックを発生させないような製造条件を取れば良いのですが、溶媒が絡んでくると難しいです。
ここでは、燃料に加える添加物の影響を考える方法を解説します

本来であれば、実際に使われているインペラの臨界ストレスのデータがあればよかったのですが、この論文に記載のポリカーボネートの臨界ストレスのデータを使うことにします

このデータをHSPiPに読み込みます。
実際にやってみましょう。

(HSPiPに移って)
データを読み込みます。
そして、設定したScoreを用いて、Data pointsのオプションを使ってSphereを計算します。
すると瞬時にポリカのHSPを実験値から決定することができます。
この結果をコピーしてexcelにペーストします。

(Excelに移って)
ポリマーのHSPを入力すると、HSP距離とScoreの関係が得られます。

(PPTXに戻って)
ここで評価した溶媒は、HSP空間でこのような位置にあります。
ここでは、ポリカのHSPを得るのに、定量的なSphere法を使っています。
臨界応力は小さいほどクラックが成長しやすいので、Scoreは逆数で扱います
この定量的解析を用いて、ポリカと溶媒のHSP距離とScoreが最も高い相関になるようにポリカのHSPを求めます。

HSPの距離の計算の時には、δDの差分の前には4.0というファクターが入ることに注意してください。
あまり綺麗な相関では無いですが、HSP距離が短くなると小さな臨界ストレスで破壊されることがわかります。
エタノールやイソプロパノールはHSP距離が大きいので、単独ではポリカには影響を与えないことがわかります。

それでは混合溶媒ではどうなるでしょうか?
イソオクタン自体のHSP距離に対して、メチル・ターシャリブチル・エーテルを3%混ぜるとHSP距離は短くなります。
しかし、単独では安全であるエタノールを3%,10%混合したガソリンはMTBよりも臨界ストレスが低くなると予測されます。
ブラジルでは、ガソリンにバイオ・エタノールを混合することは普通に行われています。インペラは壊れやすくなります。
日本では、水抜き剤としてIPAを添加することはよく行われています。
こうしたアルコールをガソリンに混合すると、単独では問題なくても臨界ストレスは低く、つまり破壊されやすくなります。

これは、フッ素系のパッキンでもよく知られていることですが、貧溶媒のアルコールを混ぜることによって逆に劣化しやすくなることがあるということです。
これは元々ガソリン車用のプラスティックはガソリンから遠く離れたHSPの材料を使っていることに起因します。
アルコールとの混合溶媒はそうしたポリマーを溶かす方向に行きます。
実際にインペラが破損した車が、どのくらいの割合でIPAを使っていたかはぜひ知りたいところです。

追記: そうか。インペラはPPS製か。
PolymerCode=50149 Poly[thio(p-phenylene)]だ。芳香族系の添加剤には弱いかな。
Polymer Smiles δD δP  δH Unit Vol unit MW Tg
XSC1=CC=C(C=C1)X 21.1 5 1.2 80.5 108.2 353

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