No.10 ガソリンに添加剤を加えるとポリマーは壊れやすくなる?

2023.11.3の新聞に燃料ポンプのリコールの記事があった。
燃料ポンプ用の樹脂製インペラ(羽根)が壊れて燃料を送れなくなる不具合だ。。

プラスティックは力を加えれば折れる。その折れる起点は成形時のマイクロ・クラックであると言われている。
そこに、そのポリマーを溶かしやすい溶媒を加えるとさらに小さい力で折れてしまう。

環境応力破壊(ESC)はe-Bookの13章で取り扱われている。
ポリカのソルベント・クラック、臨界応力をHSPを使って解析してみた。

プラスチック材料に力をかけた時に壊れてしまう現象の解析方法を紹介する。
特に液体が関与する場合には、通常より低い力で壊れてしまうことがある。
これをハンセンの溶解度パラメータ、HSPで解析する。

リコールの原因は成形温度が適切でなく、強度が低いものが混じったからと言われている。
プラスティックのHSPと溶媒のHSPがどのくらい近いかによって破壊の程度が異なる。
HSPがどれだけ異なるかは、次式のHSP距離で考える。

HSP距離が短ければ、プラスティックはその溶媒に溶解してしまう。
燃料ポンプに使われているプラスティックなので、ガソリンからは遠く離れたHSPの材料であると考えられる。

実際に使われているインペラの臨界ストレスのデータがあればよかったのだが見当たらない。
そこで、プラスティック vol51, No.5 p74- 「プラスティック材料の各動特製の試験法と評価結果」に記載のポリカーボネートの臨界ストレスのデータで説明する。

臨界ストレスの値は、値が小さいほどプラスティックに与える影響は大きい。
HSPのScore=100/臨界ストレスと定義する。
後は通常の方法でHSPiP用のデータを作成する。

そのデータを読み込む。
Data pointsのオプションを使ってSphereを計算する。
すると瞬時にポリカのHSPを実験値から決定することができる。
この定量的解析(Data points)を用いると、ポリカと溶媒のHSP距離とScoreが最も高い相関になるようにポリカのHSPを求める。

HSP距離が短くなると小さな臨界ストレスで破壊されることがわかる。
エタノールやイソプロパノールはHSP距離が大きいので、単独ではポリカには影響を与えないことがわかる。

それでは混合溶媒ではどうなるだろうか?


混合溶媒のHSPは体積分率で計算する。
イソオクタン自体のHSP距離に対して、メチル・ターシャリブチル・エーテルを3%混ぜるとHSP距離は短くなる。
しかし、単独では安全であるエタノールを3%,10%混合したガソリンはMTBよりも臨界ストレスが低くなると予測される。
ブラジルでは、ガソリンにバイオ・エタノールを混合することは普通に行われている。
日本では、水抜き剤としてIPAを添加することはよく行われている。
こうしてアルコールをガソリンに混合すると、単独では問題なくても臨界ストレスは低く、つまり破壊されやすくなる。

これは、フッ素系のパッキンでもよく知られていることだが、貧溶媒のアルコールを混ぜることによって逆に劣化しやすくなることがある。
これは元々ガソリン車用のプラスティックはガソリンから遠く離れたHSPの材料を使っていることに起因する。
アルコールとの混合溶媒はそうしたポリマーを溶かす方向に行く。
実際にインペラが破損した車が、どのくらいの割合でIPAを使っていたかはぜひ知りたいところだ。

将来、e-Fuelなどの利用が進むのであれば、さらにプラスティックの材質には注意しなくてはならないだろう。

追記: そうか。インペラはPPS製か。
PolymerCode=50149 Poly[thio(p-phenylene)]だ。芳香族系の添加剤には弱いかな。
Polymer Smiles δD δP  δH Unit Vol unit MW Tg
XSC1=CC=C(C=C1)X 21.1 5 1.2 80.5 108.2 353

ハイオクでトルエンでも入れたかな?

PPSと88溶媒
どんな溶媒がPPSのSphere内側にくるか確認してみよう!