1.6 気液平衡の基礎式

2024.9.04

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1.6 気液平衡の基礎式

ここでの仮定としては、「大気圧程度の低圧では、気体は理想気体として振る舞う」を使った。しかし、高圧気液平衡や気相で化合物が会合を起こす系では理想気体としては扱えない。その取り扱いを説明しておこう。
N成分系混合物の気液平衡の基礎式は熱力学より次の式であたえられる

fiV (気相中の成分iのフガシチー)= fiL (液相中の成分iのフガシチー) (1-8)
i = 1, 2, …, N

ここで fはフガシチー(fugacity),上付のVは気相,Lは液相,またiは混合物中の成分iを表す.
フガシチーとは非常に耳慣れない言葉だろう。
理論的な話をしようとすると最初からつまずいてしまう。

まず、平衡という概念をしっかり理解しよう。
気液平衡といった場合は、気体の相と液体の相が接している。液体の相からは分子が飛び出し気体の相に移る。しかし、気体の相からも液体の相に分子が飛び込む。ある温度、圧力で十分長い時間をとると、飛び出る分子と戻る分子の速度が同じになって、見かけ上動きは止まる。そうなった状態を平衡に達した状態と言う。

ある実在分子が1つの相から別の相(例えば、液相、固相、気相)へ「どのくらい逃げ出したがっているか」を示しているのがフガシチー(fugacity)になる。フガシチーの考え方は、もとはウィラード・ギブズが escape tendency (相から逃げ出しやすさの傾向)という考えを熱力学的平衡に用いたことに由来する。それを、ギルバート・ルイスが気液平衡に導入した。活量係数を考え出した、あのギルバート・ルイスだ。

理想気体は分子間力を持たないと仮定しているので、圧力は運動エネルギーのみから生じる。このとき、成分i の化学ポテンシャルμiは次式で表される。

μi = μi0 + RTln Pi / P0   (1-9)
Pi ∶成分iの分圧

それに対して、実在気体は分子間力を持つから、その補正を加える必要がある。
その分子間力を個別に評価するのは大変なので、Pi成分iの分圧の代わりに、「実効圧力」としてfiを定義した、という事だ。すると、成分i の化学ポテンシャルμiは理想気体の式がそのまま使える。

μii^0 +RTln fi / P^0   (1-10)

活量の「実効モル濃度」と同じ考え方だ。
気相会合のない低圧気液平衡では、フガシチーは分圧と同じになる。

fiV= Pyi   (1-11)

実在溶液中の成分iのフガシチーは低圧下では次のように表される.

fiL = γi xi PiS    (1-12) 

右辺はラウールの法則の「実在溶液」版だ。

フガシチー(fugacity)は、1つの相から別の相(例えば、液相、固相、気相)へ「どのくらい逃げ出したがっているか」を示している。液相から気相への逃げやすさは活量係数の分だけ逃げやすくなっているので、この式が成立する。

気相のフガシチーと液相のフガシチーが釣り合ったところで(化学ポテンシャルが同じになったところで)見かけ上の動きが止まり平衡に達すると言っているのが(1-12)式になる。
フガシチーとは「相からの逃げ出しやすさの傾向」というのは覚えておこう。

混合した液体が混じらないものだった場合、液体が2相、気体が1相で3相間のフガシチーが釣り合う必要がある。そうした時の基本的な考え方になる。(不均一系で扱う

次節:1.7 会合系の取り扱い


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