ハンセンの溶解度パラメータ(HSP)は”似たものは似たものを溶かす”というのが基本原理だ。
コロナ用の経口薬のハンセンの溶解度パラメータ(HSP)を3つに分けて計算した結果を紹介した。
しかし、分割する意味が解らないとも言われる。
モルヌピラビル(メルク)を例にとって、説明しよう。
このような化合物があった場合、まず、HSPが既知の溶媒を持ちいて溶解試験を行う。
そして、HSPの各成分dD, dP, dH を3次元にプロットする。
溶解試験の結果、溶解する溶媒を内側、溶解しない溶媒を外側に配置したハンセンの溶解球を求める。(これはHSPiPソフトウエアーが行う。)
下のキャンバスに、小さい多くの青い球が表示されている。この一つ一つは溶媒を示している。球をクリックしてみよう。その球がどの溶媒か表示される。この88溶媒はハンセン先生が初期に溶解試験に使った溶媒である。
ここでは、溶解試験を行っていない。
分子の構造だけからY-MBを使って溶質のHSPを推算してしまう。これもHSPiPソフトウエアーを持っていれば簡単に行うことができる。
モルヌピラビルの全体、左側、真ん中、右側の構造を計算した値を赤い球で示してある。球をクリックすれば、それがどれだかわかるだろう。モルヌピラビルの全体を中心に半径5の大きな緑色の球が示してある。この緑色の球はハンセンの溶解球と呼ばれる。キャンバスをドラッグしながら、どんな溶媒が溶解球の中、もしくは近傍にあるか調べてみよう。
Drag=回転, Drag+Shift キー=拡大、縮小, Drag+コマンドキーかAltキー=移動。
アニリン、1,4-ジオキサン、m-クレゾール、DMF, DMSO、モルフォリンなどが見つかるだろう。つまり、真ん中から右側の構造は非常に極性の高い溶媒に溶ける。
それは、溶媒だけでなくウイルスなり生体なりの同じようなHSPを持つ部分に溶解しやすいと考えられる。
また、非常に面白いことに、左側の構造は極性の低いところに位置している。ある距離を置いて、そうしたHSPを持つ構造が連なる部分がウイルスなり生体なりにあるのだろうか?
実際に溶解性試験を行う際には、このような情報をもとに、効率的に溶媒を選んで試験を行う。その際の混合溶媒の設計などもHSPiPソフトウエアを用いて行う。
また、実際の溶解を考える上で、分子の3次元構造や、電荷、分子軌道なども大事な情報になる。HSPiPソフトウエアーはRDKitを内蔵しているので、3次元構造も簡単に手に入る。その構造、電荷、分子軌道(CNDO/2)を表示したりするのも簡単である。
一つ上のLUMOを見たり、軌道エネルギーを調べたりする。
Y-MBが作成する熱力学的な物性値、RDKitが作成するトポロジカルな識別子、分子軌道計算の結果などをワンストップで得ることができるので、マテリアルインフォマティクス(MI)や機械学習(ML)を行い、AI材料設計を行うことが可能になってきた。
これらの識別子作成と解析用のソフトはクルマの両輪である。pirika.comでは解析用のツールとして、GROVEやMIRAIなども作成している。
どうも、最近の傾向として、MOが好きな人はMOだけで、トポロジカルな説明は好きな人はそれだけで、解析ツールはPythonかRで、誰がやっても皆、同じ答えを出して喜んでいる。均質化の好きな日本人の特徴かもしれない。
まー、例題もあやめか有機物の水への溶解度を延々繰り返しているので良いのだけど。
先日、インドの研究者とのZOOM会議で、医薬品の溶解性をpirikaではどう調べるのかこのページを使って説明した。
PubChemにある化合物3万件のSmilesの構造式をダウンロードして、CLIライセンスのHSPiPで全部計算するのは30分もあれば簡単にできる。だけどそうして得られたHSPや他のY-MBの熱物性値、RDKitのトポロジカルインデックス、MOのHOMO,LUMOそうした識別子をワンストップで集め、解析ツールを使ってモデル化する。そんなのは、もうAIにでも任せておけば良い。
人間は、この薬は3つの部分に分けて考えてみようとか、AIの不得意なところをやるべきだろう。
大手はどんどんCLIライセンスのHSPiPを導入し始めているので、随分わかってきて頂けていると思う。
それに乗り遅れている小さい所はどうしたら良いのだろうか?
一緒に学べる仲間を作ろうとしか言えないかな。