5月ぐらいに、こんな記事を読みました。9割以上の精度で、感染者を嗅ぎ分けているといいます。ウイルス自体に匂いがあるのでなく、感染者の汗に含まれる何かに反応するようです。
味覚はよく知られているように5種類しか無いそうですが、哺乳類は1000種類ぐらいの匂いを嗅ぎ分けられると言います。それは、1000種類のセンサーがあるのではなく、数種類のセンサーからの出力パターンの違いが区別できると言うことです。光は3原色で100万色を表現できるのと同じです。
例えば、人間が悪臭と感じる臭いは、悪臭防止法で規制されています。
どんなパターンがあるかというと、次のようになります。
name | offensive odor | CAS | ||
アンモニア | Ammonia | 7664-41-7 | し尿のような臭い | ammoniacal |
メチルメルカプタン | methyl mercaptan | 74-93-1 | 腐ったタマネギのような臭い | decomposing cabbage garlic |
硫化水素 | Hydrogen Sulfide | 7783-06-4 | 腐った卵のような臭い | odor of rotten eggs |
硫化メチル | dimethyl sulfide | 75-18-3 | 腐ったタマネギ、磯 | cabbage-like smell |
二硫化メチル | dimethyl disulfide | 624-92-0 | 腐った野菜、ニンニク | |
トリメチルアミン | trimethylamine | 75-50-3 | 腐った魚、アンモニア | strong “fishy” odor |
アセトアルデヒド | acetaldehyde | 75-07-0 | 刺激的な青臭い臭い | Pungent, fruity odor |
プロピオンアルデヒド | propionaldehyde | 123-38-6 | 刺激的な甘酸っぱい焦げた臭い | pungent odor |
ブチルアルデヒド | butyraldehyde | 123-72-8 | 刺激的な甘酸っぱい焦げた臭い | pungent odor |
イソブチルアルデヒド | isobutyraldehyde | 78-84-2 | 刺激的な甘酸っぱい焦げた臭い | pungent odor |
バレルアルデヒド | pentanal | 110-62-3 | むせるような甘酸っぱい焦げた臭い | |
イソバレルアルデヒド | 3-methylbutanal | 590-86-3 | むせるような甘酸っぱい焦げた臭い | |
イソブタノール | isobutanol | 78-83-1 | 発酵し た果実 | sweet musty odor |
酢酸エチル | ethyl acetate | 141-78-6 | 刺激的なシンナーのような臭い | |
メチルイソブチルケトン | 4-methyl-2-pentanone | 108-10-1 | 刺激的なシンナーのような臭い | Fruity, Ethereal, Spicy |
トルエン | toluene | 108-88-3 | ガソリンのような臭い | sweet |
スチレン | styrene | 100-42-5 | 都市ガスのような臭い | sweet balsam floral plastic |
キシレン | xylene | ガソリンのような臭い | ||
プロピオン酸 | propanoic acid | 79-09-4 | 刺激的な酸っぱい臭い | Pungent acidic and dairy-like |
ノルマル酪酸 | butyric acid | 107-92-6 | 汗臭い | Sharp, dairy-like, cheesy, buttery with a fruity nuance |
ノルマル吉草酸 | pentanoic acid | 109-52-4 | むれた靴下のような臭い | Acidic and sharp, cheese-like, sour milky, tobacco, with fruity nuances |
イソ吉草酸 | 3-methylbutanoic acid | 503-74-2 | むれた靴下のような臭い | Cheese, dairy, acidic, sour, pungent, fruity, stinky, ripe fatty and fruity notes |
インドール | Skatole | 83-34-1 | 悪臭;少量では香水に〕 | very strong animal fecal indole civet |
カダベリン | Cadaverine | 462-94-2 | 死体のにおい | cadaverous |
プトレシン | 1,4-Butanediamine | 110-60-1 | 腐った肉のにおい | cadaverous |
言葉で、匂いを伝えるのは難しいでしょう。
でも、ハンセン溶解度パラメータを使うと、
臭気タイプ | dD | dP | dHdo | dHac | name |
腐ったタマネギのような臭い | 17.6 | 5.8 | 0 | 6 | メチルメルカプタン |
腐ったタマネギ、磯 | 17.5 | 4.5 | 0 | 4.3 | 硫化メチル |
腐った野菜、ニンニク | 17 | 7.8 | 0 | 4.5 | 二硫化メチル |
臭気タイプ | dD | dP | dHdo | dHac | name |
刺激的な青臭い臭い | 16 | 13.7 | 0 | 9.5 | アセトアルデヒド |
刺激的な甘酸っぱい焦げた臭い | 15.7 | 10.8 | 0 | 7.2 | プロピオンアルデヒド |
刺激的な甘酸っぱい焦げた臭い | 15.9 | 8.6 | 0 | 5.9 | ブチルアルデヒド |
刺激的な甘酸っぱい焦げた臭い | 15.6 | 8.4 | 0 | 5.1 | イソブチルアルデヒド |
むせるような甘酸っぱい焦げた臭い | 16 | 7.5 | 0 | 5.5 | バレルアルデヒド |
むせるような甘酸っぱい焦げた臭い | 15.5 | 7.1 | 0 | 4.8 | イソバレルアルデヒド |
臭気タイプ | dD | dP | dHdo | dHac | name |
刺激的なシンナーのような臭い | 15.8 | 5.8 | 0 | 7.5 | 酢酸エチル |
刺激的なシンナーのような臭い | 15.7 | 5.9 | 0 | 3.8 | メチルイソブチルケトン |
ガソリンのような臭い | 17.6 | 2.8 | 0 | 4.4 | トルエン |
都市ガスのような臭い | 17.5 | 2.4 | 0 | 3.8 | スチレン |
ガソリンのような臭い | 17.8 | 2.7 | 0 | 3.5 | キシレン |
つまり、HSPが似ていると匂いも似ているのです。
詳しいことは、私のWebページ
ハンセン溶解度パラメータ(HSP)と悪臭
香りとハンセン溶解度パラメータ(HSP)
を参照してください。
そこで、私たちは「HSPが似ていると、嗅覚細胞への溶解性も似ている」と考えています。
実は、私がHSPの開発に入ったきっかけは、この匂いです。
CALTECHの友人が、e-Nose(人工の鼻)を検討していました。(2008年のこと)
彼らの方法は、電極の上に7種類のポリマーを被覆します。
そこに匂い物質が溶解すると膨潤して、センサー信号が得られます。時間が経つと脱離します。
7種類のセンサーから得られる信号をニューラルネットワークに学習させて匂いを特定すると言う方法です。
どんなポリマーを被覆に使ったら良いか?
特徴的なハンセン溶解度パラメータのポリマーを使うのが良いでしょう。
と言うことで、ハンセン先生、アボット先生との付き合いが始まりました。
コロナ探知犬に教育する時には、匂いを嗅がせ、これは感染者、これは非感染者と正しく認識するまで教えるのでしょう。ガスクロを使って、この成分があったら感染者と言うのとは全然違う方法です。
e-Noseの教育方法もコロナ探知犬に教育するのと全く同じです。データ丼のところで説明しましたが、因果関係では無いのです。
因果関係がわからないときには、私は定性的なSOMを使うことが多いです。。
今回は、塩野義のコロナ用の経口薬S-217622を例題にAIへの教育方法を学びましょう。
塩野義のコロナ用の経口薬S-217622はオミクロン株にも有効だったとか、今日の新聞に載っていました。細胞内で「プロテアーゼ」と呼ぶ酵素の働きを抑えるらしいです。
その時、HSPの研究者は、この薬と酵素のどこかのHSPが似ていているのでは無いかと考えます。
こんな大きな化合物は匂いはないでしょうから、3つに分けた部分構造を考えます。
このぐらいであれば温度を高くすれば匂いはあるかもしれません。
それでは、S-217622の左側(L)、真ん中(C)、右側(R)の部分構造のハンセン溶解度パラメータ(HSP)が汗に含まれているとして、実際にe-Noseに学ばせてみましょう。
readボタンを押してデータを読み込んでください。そして、Startボタンを押すと自己組織化ニューラルネットワークの学習が始まります。S-217622以外のデータは、先程の悪臭のHSPのデータです。動きが止まったらStopボタンを押してください。
このSOMが何を学習したかというと、HSPの4次元ベクトルを、似たベクトルを似た2次元上位置にマッピングすることです。
乱数を使うので、計算するたびに答えは動きますが、相対位置はあまり変わりません。
こうしたSOMが得られた場合、S-217622のそばにある(HSPが近い)化合物の匂いに近いと言えます。例えば、S-217622が加水分解して汗に混じると、刺激青臭、刺激シンナー、腐った肉、発酵果実の匂いが混じったような匂いと感じるAIに育つと言うことです。
この2次元の適当な位置に7つの匂いセンサーを置いておけば、カリフォルニア工科大学(CALTECH)のe-Noseになります。
普通の人の汗をe-Noseにかがせる。人によって体臭は異なるのである程度幅のあるセンサー群にシグナルのある結果が得られます。
コロナに感染している人の匂いは、普通の人の汗にはないパターンが何処かにあるのです。そこで、例えばS-217622, -L, -C, -Rの領域のセンサーが独特のパターンを示すのです。
今回は悪臭の狭いHSPを使ったので、S-217622は外れにきてしまいました。本来はアムーアのリストを使うべきだったかもしれません。ただ、AIであってもコロナ探知犬も学習でやる事は同じと言うあたりはとても面白いのではないでしょうか?
コロナ探知犬をe-Nose装備のAIにDX するのであれば、普通の人の汗と、感染者の汗を今のうちに集めておく必要があります。そうすれば、コンサート会場の入り口で、入場者を振り分けることができるようになります。一つ作ればいくらでもコピーできるので、空港だとか飲食店だとか、犬型とか猫型とかいくらでも考えられます。
そんなものを作るような、予算を何処か出さないものでしょうか?