動物を使った毒性評価は(意思を表示できる人間以外)禁止


ハンセンの溶解球が使えない”人の皮膚刺激パッチテスト”をどうするか?

あるポリマーを溶解する溶媒と溶解しない溶媒をハンセン空間にプロットすると溶解する溶媒群は球を形成し、それをハンセンの溶解球と呼ぶ。

皮膚刺激の結果をプロットすると悩んでしまう。
どうも、溶解球が見えてこない。

ハンセンの溶解度パラメータ(HSP)を3次元プロットする場合、主成分分析の第1-第3主成分を3次元プロットする事によって、4次元以上のHSPを3次元空間にプロットできることを前に書いた

今回は、HSP関連の指標だけでなく、分子体積をHSPに組み込んだ指標を使った結果を示そう。
オリジナルの論文は、J. Soc. Cosmet. Chem. Jpn. Vol.43(4), No.4 2009 pp254-259の資生堂、上月裕一さんの論文だ。パッチテストの結果を、In Silicoで予測するモデルを作成している。彼は記述子として分子軌道計算の結果を用いている。

我々HSP研究グループの基本的スタンスは、そもそも皮膚に溶解しなければ、刺激も起こらないというものだ。そこで、HSPが大事になると考える。

しかし、いくらHSPが近く溶解性が高くても分子がとても大きければ溶けないことも知っている。例えばポリマーの可塑剤などは、ポリマーと非常によく似たHSPでかつ分子量が大きいものが選ばれる。ポリマーの編み目に閉じ込められてブリードアウトしない事が大事であるからだ。逆にそうした可塑剤でポリマーを溶解しようとしても分子が大きすぎてポリマーの中に入って行かれないので、HSPは同じでも溶解できない事がある。

これを、実際に主成分分析法を使って色々考えてみよう。

データは上記のようになる。興味があれば自分でチャレンジしてみてほしい。
このデータを、
x: HSP δD
y: HSP δP
z: HSP δH
にプロットすると以下のような3次元グラフが得られる。

陽性率(PR)の範囲によって色を変えてある。
Blue PR=0
Yellow 1<PR<10
Orange 10<PR<30
Red PR>30

このグラフだけを見ると陽性率(PR)が非常に高い(赤マーク)HSPはハンセン空間中の3箇所に分布しているように見える。皮膚浸透のルートは3種類ぐらい知られているので、この事自体は不思議ではない。

赤とオレンジが多くある領域のHSPを持つ化合物は注意が必要かもしれない。

アルコールだけで見ると、例えば、分子量が大きいアルコールや小さなアルコールはPRが低く、Hexanolが一番高くOctanolが続く。

これが、分子体積によるものとして、3次元のHSPに分子体積を加えた4次元ベクトルのテーブルを作成する。これを主成分分析すると、第3主成分までで、96%表現できる。

第1-第3主成分を3次元プロットすると次のようになる。

すると、全ての溶媒は3次元空間中で1本の直線上に乗る。直線の片端はPRが大きいもの、反対はPRが小さいものとなる。
例外は、イソプロパノール(青)がPRが大きいものの近くにある。エタノールやブタノールは黄色なので分子の大きさとHSPが似ているので同じような位置にプロットされる。逆に、Isopropyl myristate(黄色)は反対の端近くにあるが、これはIsopropyl palmitateと大きさ、HSPがほぼ同じなのでこのような結果になる。

真ん中のあたりにオレンジや赤の領域が固まるが、青も入ってくるので少し見にくい。

そこで、dDvdw, dDfg,dP,dHAcid,dHbase, ED,EA, Volumeの8ベクトルで主成分分析を行い、第1-第3主成分を3次元プロットする。

すると、酸、アルコール、エステルごとに直線になり、非常に理解しやすい3次元グラフが得られた。

そして、新たな化合物をIn Silicoで評価したいなら、HSPiPソフトウエアーのY-MB機能を使って分子のSmiles構造から8つのデータを取り出す。(ver.5.3にはまだdDvdw, dDfg,DN,ANの予測値は搭載されていない。)そしてPCA空間にプロットして、周りにどんな色がいるかで判断する。

1級アルコール類のRatへの急性毒性(LD50)は次のようになる。
炭素数が6-8の間で一番毒性が高くなる。イソプロパノールはグラフには無いが、LD50=5045なのでn-プロパノールより毒性が低くなる。こうしたLD50の傾向とパッチテストの結果が関連していそうで興味深い。

カルボン酸のRatへの急性毒性(LD50)は次のようになる。カルボン酸は炭素数が7,8,10でも高いPRになる。これは、カルボン酸類の高い電子供与性(ED)がPRに寄与していると考えられる。

エステル類は次のようになる。食料になるようなものは毒性は無いのだろう。

本来は、経口毒性ではなく、ウサギの皮膚を介した毒性と比較するべきだろう。
今回はデータが集まらなかったので断念した。

そうした毒性データ自体を今回の8次元ベクトルを3次元に縮退させて表示する。
機会があったら、そのような解析も試みてみたい。