アルツハイマーの薬の構造を覚えられるのはどんな脳だ?

人の名前など忘れて当たり前の年になると、化合物の構造を見てもピンとこなくなる。薬剤師の国家資格を取る人の脳ってどうなっているんだろう? そんなもの覚えて楽しいのだろうか?

という話を、昨日ZOOM会議でした。

相手の先生は、20年ぶりぐらいにお会いした。先生はチューリッヒにお住まいだそうで、こんな事ができるのは、時間と距離と言う概念がなくなった今だからこそできるのだろう。とても楽しかった。
先生も、第一薬科大学で一緒にデータ・サイエンスを教えることになった。

第一薬科大学のデータ・サイエンスでは、薬剤師の資格を取ることを目指さない。言っては悪いけど、記憶力だけに頼る試験を突破するなら、もうAIに叶う訳が無い。僕たちには常識だけど、「分子みたいなトポロジカルなグラフィックをコンピュータが認識することはまだまだできないと、薬学系の人は思っている」と言うのが世話人の先生の意見だ。

現状では、例えばネット上にあるpdfなどの中にある分子構造の絵、化合物の名前を全部データベース化してしまうと言うプロジェクトは実際に動いている。

まー、それはビック・データもあるし、そのうちにどうにかなるだろう。

「化合物は奥深いので、コンピュータが薬を作るのはまだまだ先のこと」なんて言うのは、「囲碁や将棋でコンピュータが人間に勝つのは後30年先」と言うのと同じくらい意味のないことだろう。

pirikaでは分子構造はかれこれ20年前くらいからSMILESの構造式で扱ってきた。このSMILESはコンピュータにも人間にも、どちらにもそこそこ理解しやすい。(INCHEになると人間にはちょっと難しいかもしれない)

試しにアルツハイマー用の薬のSMILESの構造式を集めてみる。
コリンエステラーゼ阻害薬、ChE 阻害薬、Aβ低減薬、α4β2 ニ コチン受容体、α7 ニコチン受容体などが見つかり、そのSMILESの構造をまとめてみた。このSMILESを見てどんな構造だか思い浮かべる事ができる、どんな用途に使う薬か思い浮かぶ脳が、薬剤師には必要なのだろう。(僕にはとても無理だ。)


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でも、コンピュータはどんな構造だか、ちゃんと2次元の分子を描いてくれる。
LOOPボタンを押してみよう。各構造を順番に表示してくれるだろう。

つまり、手書きや、プリントアウトされた2次元構造を認識するのは難しくても、分子自体はきちんと認識している。

そしてHSPiPに搭載されているY-MBを使えば、さまざまな物性値を計算する事ができる。

例えば、Hansen Solubility Parameters (HSP)を計算してしまう。(logKowの方がよければそれでも良いが。)

溶解度パラメータは、”似たものは、似たものを溶かす”と言う原理が使える。それでは分子の大きさの問題は置いておいて、アルツハイマー用の薬はどんな溶解性を持っているのだろうか? 見る事ができる。

HSPを3次元ベクトルと考えて、Hansen空間にプロットすると上のようになる。
マウスでドラッグすると回転、shiftキーとドラッグで拡大・縮小、Optionキーとドラッグで平行移動する事ができる。
青い球は、一般溶媒を示している。青い球をクリックすると溶媒の名前が表示される。
赤い球はアルツハイマー用の薬を示している。ある薬は非常に近いところに位置している。どの薬だろうか、薬のそばにはどんな溶媒があるだろうか? その溶媒と同じような環境のあたりにその薬は居たいだろう。

HOMOやLUMO、電荷など分子軌道軌道法の結果もデータサイエンスの大事な情報だ。Memantineを計算してみると次のようになる。

このようなデータを駆使できる人材は、世界的に見ればどこでも引っ張りだこだ。

日本でしか通用しない国家資格を取って薬剤師を目指すか、世界で通用する薬関係のデータサイエンティストを目指すか?

いくら人間が頑張っても、アデュカヌマブ、C6472H10034N1742O2014S46(タンパク質部分,4本鎖)なんて人間がどうこうできるものではないし、薬はどんどん大きくなってきている。

僕の怪しくなりつつある記憶をどうにかする薬ができるのが先か、若者の記憶を飛躍的に高める薬ができるのが先か。

どちらも、当分ダメそうなので、僕はAI-アシストに頼ろう。こうしたインターラクティブなページを見ていると、まるで魔術師にだまされているように思うかもしれない。

でも、日本以外では普通になりつつあるこうした技術を学びたいのであれば(場合によってはリカレントで社会人も)キャンバスで会えることを楽しみにしています。

製薬会社は、どちらの人材を欲しいか? 
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