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ノーベル物理学賞と実践ハンセン溶解度パラメータ(HSPiP)

今年のノーベル物理学賞は、大気モデルシミュレーション研究を行った真鍋淑郎さんに決まったらしいです。
90歳でコンピュータを使って気候変動を分析する研究ってすごいと思います。

実は、私は、1995-1999年につくばに出向して、代替フロンの研究を行っていました。ご存知かもしれませんが、最初はフロンがオゾン層を壊すのが問題になり、96年に特定フロンが全廃されてからは温暖化しない代替フロンの研究が推進されました。その国家プロジェクトに参加していました。
そこでは当然、大気モデルシミュレーションが大事になります。
化合物の大気寿命とか赤外線を大気の窓がどれだけ通して、その赤外線を吸収してどれだけ暖まるか?化合物の水への溶解性、ヘンリー定数、土(大気中の埃)との分配係数、熱伝導度、比熱、沸点、蒸気圧など様々な物性値が必要になります。

その中で、OHラジカルとの反応速度というのは大気寿命を決める、とても大事な指標になります。大気中には水酸基ラジカルというのは大量に存在します。その水酸基ラジカルは、化合物から水素を引き抜いて水になります。
水素を引き抜かれた方はどんどん分解して行きます。そこで成層圏まで登ってオゾン層に悪さしたりしない、温暖化係数も低くなります。
試しに大気中での半減期日数のlogとOHラジカルの反応速度のlogをプロットすると次のようにきれいな相関があります。

そこで、OHラジカルの反応速度が分子の構造から予測できれば、片っ端から分子をスクリーニングすることができます。

当時は、コンピュータのスピードも遅く、分子軌道法を用いて遷移状態を計算して相関を取るというような仕事を延々とやっていました。
分子軌道計算はジョブを投げれば暇なので、その間にニューラルネットワークを使った物性推算法の開発を行いました。

その後、プロジェクトから帰社しましたが、そうした情報化学的な手法は余り認められませんでした。

ひょんなことから、ハンセン先生達と一緒に研究をすることになって、HSPiP(Hansen Solubility Parameters in Practice)というソフトの開発メンバーに迎えられました。

何をするソフトかといえば、溶解度パラメータを中心に、毒性の高い溶媒を他の溶媒に置き換える、環境負荷の高い溶媒を置き換える為のソフトです。

でも安全な溶媒に変えたら溶解しなかったでは困ります。
どういう溶媒、混合溶媒を使えば、同じような溶解性を担保して、改良処方を得ることができるか試すことができます。

そのソフトを先生と開発中に、大気寿命を予測したいというものがありました。
そこで、データは日本の国家プロジェクトが公開していることをお知らせして、HSPiPにOHラジカル反応定数を予測するQSAR式が搭載されています。


その精度は上記のようになります。
この内容は、pirikaのWebページ
ハンセン溶解度パラメータ(HSP)と環境関連物性値
https://www.pirika.com/HSP/JP/Examples/Docs/VOC.html
に2010年に記載しています。

つまり、20年前に国家プロジェクトで1億円のスーパーグラフィックワークステーションでやっていた自分の研究と同じことが、10年後普通のPCで15万程度のHSPiPソフトで200万化合物からスクリーニングして、大気寿命XX-YYの範囲の候補を導出できてしまうのです。

今はさらに10年進んでいるのです。
のんびりしている暇はありません。

大気寿命だけでなく、大気モデルに必要なパラメータもかなりの部分、HSPiPで推算できているのではないかと思っています。

昨日の温度センサーといい、明日の化学賞はHSP本体にとって欲しいものです。

真鍋先生の至言:
理論ばかりでは自然科学にならないし、観測をやってもモデリングをやらなければメカニズムの理解はできない。
この3つが一体になって研究をしなければグローバルな環境の研究は進みません。