ハンセン溶解度パラメータ(HSP)と悪臭

2022.11.24改訂(2010.2.26)

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概要:

嗅覚細胞があるHSPを持っていたとすると、そのHSPと似たHSPを持つ化合物はその嗅覚細胞に溶けやすいのではないか?という考え方がある。

HSPでは溶解までしかわからないが、悪臭、松茸の香り、加齢臭などをHSPを使って解析してみた。

言語化、数値化しにくい匂いをコンピュータで理解するひとつの方法としてHSPを提案する

内容:

ハンセンの溶解度パラメータは、ある化学品がポリマーやレセプターとどのような相互作用をするかを示す指標だ。

”似たHSPのものは似たHSPのものに溶解しやすい”というのが基本コンセプトだ。

悪臭とされる化合物を集めてみた。
生活環境化学の部屋
Ministry of the Environment

臭いについては定量的な指標がないので、言葉で表すのは大変そうだ。

HcodenameCAS
44アンモニア7664-41-7し尿のような臭い
496メチルメルカプタン74-93-1腐ったタマネギのような臭い
424硫化水素7783-06-4腐った卵のような臭い
301硫化メチル75-18-3腐ったタマネギ、磯
294二硫化メチル624-92-0腐った野菜、ニンニク
665トリメチルアミン75-50-3腐った魚、アンモニア
1アセトアルデヒド75-07-0刺激的な青臭い臭い
573プロピオンアルデヒド123-38-6刺激的な甘酸っぱい焦げた臭い
1060ブチルアルデヒド123-72-8刺激的な甘酸っぱい焦げた臭い
5166イソブチルアルデヒド78-84-2刺激的な甘酸っぱい焦げた臭い
1061バレルアルデヒド110-62-3むせるような甘酸っぱい焦げた臭い
445イソバレルアルデヒド590-86-3むせるような甘酸っぱい焦げた臭い
431イソブタノール78-83-1発酵し た果実
328酢酸エチル141-78-6刺激的なシンナーのような臭い
491メチルイソブチルケトン108-10-1刺激的なシンナーのような臭い
637トルエン108-88-3ガソリンのような臭い
604スチレン100-42-5都市ガスのような臭い
キシレンガソリンのような臭い
576プロピオン酸79-09-4刺激的な酸っぱい臭い
114ノルマル酪酸107-92-6汗臭い
1023ノルマル吉草酸109-52-4むれた靴下のような臭い
1040イソ吉草酸503-74-2むれた靴下のような臭い
832インドール83-34-1悪臭;少量では香水に〕
21275カダベリン462-94-2死体のにおい
21257プトレシン110-60-1腐った肉のにおい

こうした分子を、ハンセンの溶解度パラメータで表してみる。

ハンセンの溶解度パラメーターは、似たものは似たものを溶かすという原理なので、もし臭いを感じるレセプターの溶解度パラメータが、悪臭の溶解度パラメーターに近いなら、刺激が発生するだろうという単純な発想である。(大きさや、形状まではここでは考慮に入れない。)

HcodedDdPdHVol
44し尿のような臭い13.716.718.825
496腐ったタマネギのような臭い16.67.78.654.2
424腐った卵のような臭い17.9610.235.9
301腐ったタマネギ、磯16.16.47.473.7
294腐った野菜、ニンニク17.67.86.589.1
665腐った魚、アンモニア14.63.41.890.2
1刺激的な青臭い臭い14.712.57.956.5
573刺激的な甘酸っぱい焦げた臭い15.311.16.973.4
1060刺激的な甘酸っぱい焦げた臭い15.610.16.290.5
5166刺激的な甘酸っぱい焦げた臭い15.710.76.189.4
1061むせるような甘酸っぱい焦げた臭い15.79.45.8107
445むせるような甘酸っぱい焦げた臭い14.79.55106
431発酵し た果実15.15.715.992.9
328刺激的なシンナーのような臭い15.85.37.298.6
491刺激的なシンナーのような臭い15.36.14.1125.8
637ガソリンのような臭い181.42106.6
604都市ガスのような臭い18.614.1115.7
ガソリンのような臭い17.813.1121.1
576刺激的な酸っぱい臭い14.75.312.475
114汗臭い15.74.81292.6
1023むれた靴下のような臭い154.110.3109.5
1040むれた靴下のような臭い16.44.110.7110.3
832悪臭;少量では香水に〕207.16.2122.6
21275死体のにおい15.96.512.2116.7
21257腐った肉のにおい15.87.411.5100.9

分子の構造という先入観なしに、臭いの記述とHSPを比べてみてほしい。
似たような臭いは似たようなHSPを持つ事に気がつくはずだ。

上でいう、球の中心が匂いを感知するレセプターのHSPで、そのレセプターに溶けやすいものはHSPが似ているという原理だ。

ただ、濃度次第では香料に使われる化合物もあるので、HSPだけで分かるかというと疑問もあるが。
このように、匂いに関しては定量的な指標はないので、HSPというのはとっかかりには適している。

ある化合物のHSPが知りたい場合には、その化合物のSmilesの構造式を用意して、HSPiPというソフトのY-MBという機能を使うとたちどころに推算することができる。

HSPiPのデータベースには、Aldrichカタログの香料化合物のHSPが含まれているので、すぐに利用が可能だ。

松茸の香りは、日本人には良い香り(自分は良いとも思わない)だが、日本以外では軍人の靴下の臭いと言われる。
成分を調べると、

  • 珪皮酸 Cinnamic acid 621-82-9 
  • 1-オクテン-3-オール 1-Octen-3-ol 3391-86-4 
  • trans-2-オクテン-1-オール trans-2-Octen-1-ol 18409-17-1 
  • ケイ皮酸メチル methyl cinnamate 103-26-4 

だそうだ。

これらのHSPを調べると、

  • 珪皮酸          [18.8, 5.7, 9.6] MVol=131.5
  • 1-オクテン-3-オール    [15.7, 4.4, 11.4] MVol=154.5
  • trans-2-オクテン-1-オール [16.1, 4.5, 9.7] MVol=150.8
  • ケイ皮酸メチル       [19.1,3.2,4.6] MVol=148.5

となる。

HSPが[16, 4.5, 10]の化合物は悪臭リストの、114, 1023, 1040, 21275, 21257でむれた靴下のような、汗臭い、死体のような臭いになる。

ヨーロッパでは軍人の靴下の臭いと言われる訳が分かる気がする。

ドリアンも強烈な臭いで有名だ。
この成分は

  • 1-プロパンチオール propyl mercaptan 107-03-9
  • メチルエチルトリサルファイド ethyl methyl trisulfide 31499-71-5
  • エタンチオール ethyl mercaptan    75-08-1
  • ジエチルジサルファイド diethyl disulfide 110-81-6
  • 酪酸エチル ethylbutyrate    105-54-4
  • 2-メチル酪酸エチル Ethyl-2-Methyl Butyrate 7452-79-1
  • カプロン酸エチル Ethyl Capronate 123-66-0

で最初の4つが硫黄系の化合物で悪臭の正体だ。
HSPは次のようになる。

  • 1-プロパンチオール    [16.1, 5.8, 5.7] MVol=90.5
  • メチルエチルトリサルファイド [18.5, 7.1, 5.5] MVol=122.5
  • エタンチオール       [15.7, 6.5, 7.1] MVol=74.3
  • ジエチルジサルファイド    [17, 6.7, 5.7] MVol=123.7

[17, 6.5, 5.7]は悪臭リストの391,294などの硫黄系の臭いで、これはまぎれも無く悪臭だ。

最近、資生堂が (E)-2-nonen-1-al  Hcode 17819 CAS 2463-53-8 加齢臭として発表した。

若者に比べると、年寄りはこの化合物を多く分泌するらしい。
いやな言葉を使うものだと年寄りになりかけている自分は思う。

このHSPは[16.2, 6.5, 5]になる。
ちなみに、この化合物の炭素の長さが6の、trans-2-hexenal Hcode 8360、 CAS 6728-26-3 と言う化合物はカメムシが放出するいやな臭いだそうだ。

この化合物のHSPは[16, 9.3, 6.3]だ。

これらの悪臭は、悪臭リストの中の1061.445などのアルデヒドと似たような臭いなのだろう。

dPとdHが入れ替わっていれば、加齢臭は松茸の香りになっていたのだが…。

この臭いを洗い落とすにはどんな石けんがいいのだろうか?
この臭いのもの元は、palmitoleic acid 373-49-9 Vaccenic acid693-72-1で、これが部分酸化するとノナナールになるとある。

[16.2, 3.5, 5.4][16.3, 3, 5.2]

従って、人が分泌したこれらの酸を溶解しやすい石けんを使えば良い。

(新聞で宣伝している石鹸がこの技術を使ったかどうかは知らない。全く関知しない。)

グリセリンのグリセリド(脂肪酸エステル)の脂肪酸を変えて、HSPを計算して、それが[16.3, 3, 5]ぐらいになれば良く溶かすだろう。

興味のある方は挑戦してみてください。

足が蒸れて、臭いのはどうしたらいいだろう?

吉草酸が原因なので、靴の中敷にこの吉草酸を良く溶かすポリマーを使って、そのポリマーに、フタロシアニン(Phthalocyanine)などの消臭剤を混ぜ込んだらどうだろうか?

金属塩は計算できないのでフタロシアニン単体を計算してみると、HSPは[21.7,14.5, 0]になる

(対称性のある化合物なので、dPはもっと小さくなると思われる。溶媒に対する溶解度などがあれば知らせてほしい。)

吉草酸のHSP[15.7, 4.1, 10.3]とはずいぶん離れているので、両方を溶かすポリマーは無いかもしれない。

とりあえず吉草酸に近いポリマーを探してみると、
PA11 CR [17, 4.4, 10.6]
PA6 CR [17, 3.4, 10.6]

というポリマーがHSPiPのポリマーデータベースの中に見つかる。
これに、フタロシアニンが溶けるように、靴下の繊維に反応させてしまうのが良いだろうか。

詳しい事はHSPiPを使ってみてほしい。

こうした悪臭がどのくらい揮発しやすいか? 相対性揮発度(RER)の推算
も参照ください。

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