ハンセンの溶解球の誤解:良いものが集まって球を作る。

2024.7.13

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良いものが集まるわけではない

カーボンブラックの分散に関して解析を行ってみよう。
種本は次の論文だ。

Using NMR solvent relaxation to determine the Hansen solubility parameters of a carbon black and as a quick method to compare the surface quality of carbon blacks 
R. Sharma · D. Fairhurst · D. J. Growney · R. Dümpelmann · T. Cosgrove

https://doi.org/10.1007/s00396-023-05088-z

パルスNMRの緩和時間はハンセンの溶解度パラメータと結びつけて解析されている。

こうしたデータがテーブルにまとめてあるとする。
こうしたデータがあれば、すぐにMIツールが使える。

ここでは、まずHSPiP用データ作成Webアプリを使う

CASとScoreの組みをコピーしてWebアプリにペーストして、Buildボタンを押すと、HSPiPで読み込めるxmlファイルを吐き出す。それを全てを選択して、CB01.hsdxとセーブする。このファイルはHSPiPで読み込むことができるので、すぐにHSPiPでの評価ができる。

HSPiPは他のソフトの連携が悪く、入力データを作るのは大変だ。1つ1つCAS番号から作り、Scoreを間違えなく入れなくてはならない。Scoreに実数を入れたり、Scoreを逆転するのは大変な手間になる。

そこで、CASとSCOREのペアからWebアプリで入力データが作れると、とても労力を削減できる

緩和時間が長いものをScore=1とし(長いものが良いもの、Sphereの内側に来るという仮定)、ハンセンの溶解球を計算すると次のようになる。

誤認識はなく、緩和時間が長くなる溶媒は青くマークされていて、ハンセン空間で集まっている。CBのHSPは[17.2, 10.4, 7.7]半径5.0になる。
著者の論文も同じような結果になっている。

ところが問題がある。パルスNMRは緩和時間が短いものが粒子の表面に拘束されていると判断される。緩和時間が短いものが、粒子表面をよく濡らすともいう。緩和時間の長いものは粒子表面にいない自由溶媒と分類される。

そこで緩和時間が短いもの(粒子表面に束縛されやすい)をScore=1と設定してSphereを計算してみる。

すると、間違って認識されるものが4つ現れる。
Sphereの中心は[15.9, 5.2, 0.0] 半径6.2になる。ペンタンなどの疎水性の化合物がこの領域である。エチレングリコールやアルコールが大きく外れる。

このような場合Double Sphereを使うことが多い。

[17.7, 6.4, 21.3] 半径6.8
[16.1, 4.5, 0.2] 半径5.5
の2つのSphereが見つかる。間違って認識されるものは1つだ。

HSPが近いものが同じような性質を持ちHansen空間中で集まる

同じような性質が、研究者にとって都合が良いかどうかは関係ない都合の良いものがScore=1ではない。

Scoreに緩和時間の実数を使う。

緩和時間が長いものほど、HSP距離が短いという仮定で計算する。

HSPが[17.7, 12.0, 9.2]の時にHSP距離がゼロになって緩和時間が最大になると予測される。大まかにはHSP距離が短くなると緩和時間が長くなる傾向があることはグラフからわかる。

Data Pointsの解析では、Good is Smallのチェックを入れると、逆に緩和時間が短いものがgoodとなるSphereの中心を求める。ところが緩和時間とREDのグラフでは、REDが小さい時に緩和時間は短くならない(私の計算結果とは大きく異なるのでHSPiPのバグかもしれない)。
同じREDであるのに緩和時間が大きく変わるデータが多く存在する。
ペンタンとアルコール両方が同じようにカーボンブラックに拘束される。そこで求まったCBのHSPは[16.5, 6.2, 9.6]とハイドロカーボンとアルコールを足して2で割ったような値になる。溶媒のHSPが[16.5, 6.2, 9.6]の時にHSP距離はゼロになるので緩和時間は一番短くなるはずであるが、そのような結果はあり得ない。

Classic Hansen距離では理解できない

HSP距離=sqrt(4*(dD1-dD2)2+(dP1-dP2)2+(dH1-dH2)2)

全てが1つの式で評価できた時代は良かった。詳しいことはPirikaNews2024.07新しいHSP距離の考え方 量子ドットを例に を読んでいただきたい。

理論的にどの式が最善かはわからないので、データ駆動型の研究方針で、片っ端から距離の式を作るWebアプリで評価し、評価が高かった距離の式を解析することで、「CBの分散で何が起きているかを考える」方針でいく。

式はEuclid TypeとBeerbower Typeの33式を評価した。

緩和時間長い方がHSP距離が短いという設定では、Classic Hansen距離で十分であった。

緩和時間が短い方がHSP距離が短い:こちらの解析では、HSPiPの解析結果とは全く異なる傾向が得られる。特にBeerbower Type の式を使うと、ペンタン、アルコールの違いを吸収した上で距離が短いものほど緩和時間が短くなった。

2024.7.17追記
QSphere:Scoreが実数の場合、実数と距離が一番高い相関を持つように距離の係数を決める。定量的解析法。
QSphereが使えるようになったので、緩和時間自体をScoreに入れて解析を行った。

QSphereしてもRnが大きいものをGoodとした方が相関係数は高い。

AbrahamのAcid/Baseか、Electron Donor/Acceptorの交換作用を入れないと緩和時間の短いものを正しく評価できない。

こうしたデータ駆動型の研究は、唯一無二の理論式を作るものではない。
Wrong In/Outが小さい方が良いモデルとも言えない。
一般的なHSPiPユーザーに提供しているアプリでもない。

この系に特化して何が起きているのかを考察するために行う。
MAGICIAN用の特別なツールである。

以上、Scoreは自分にとって好ましい溶媒に1をアサインするものではないことだけはよく覚えておこう。解析が逆になってしまう。