2023.12.16改訂
HSPiP:Hansen Solubility Parameters in Practice、日本語にするなら「実践、ハンセンの溶解度パラメータ」ソフトウエアーの概要を説明する。
始めに
HSPiPはハンセンの溶解度パラメーターを効率的に扱う為に作成された、Windows用のソフトウエアーだ。よく、「HSPiPを購入すると、自分の研究対象のHSPが計算だけで算出できる」と勘違いして購入される方がいる。
- HSPiPは実験値のハンドリングソフトウエアーだ。
自身の行った、溶解試験、分散試験、様々な測定結果を、HSPiPを使って解析を行い、研究対象のHSPを決定する。HSPが分かると、さらに良い溶媒、ハイブリッド材料の開発、医薬品などの設計が非常に加速する事が期待できる。 - HSPを使った研究が加速するように、データベース、物性推算機能を持つ
素材開発、医薬品開発はHSPが重要な役割を果たすのも確かなのだが、それだけで開発ができるわけではない。10,000化合物以上の化合物、1000種類以上の高分子のデータベースが内蔵されている。DB中に欲しいデータがない場合には、物性推算機能を使って物性を予測する事ができる。物性値の実験値が欠損しているものは便宜上推算値が入れられている。 - 基本的な使い方は、e-Book、別途、解析例はpirikaのWebページで学ぶ事ができる
HSPiPは非常に多くの機能を持つ為、全ての機能を理解するのは大変な事だ。e-Book、pirikaのWebページで自身の研究に近いものが無いか探してみよう。
論文や特許で探してから、使い方に戻るのも1つの方法だ。
HSPiPは大きく分けて8つのプログラムからなる。
1. Sphereプログラム
HSPiPのメインプログラムだ。ポリマー、薬、無機物がどのような”ハンセン溶解球”を持っているかを探索するプログラムだ。
2. ポリマー機能
HSPiPには市販されているポリマーのHSPデータベースが搭載されている。
3. 溶媒最適化プログラム
ある特定のHSPに合致する2成分、もしくは、より複雑な混合溶媒の組成を決めるプログラムだ。
4. 拡散モデル・シミュレータ
ポリマー中の拡散をハンセンの溶解度パラメータ(HSP)からシミュレーションするプログラムだ。
5. DIY(Do It Yourself) プログラム
自分でやってみよう。溶媒の分子構造からハンセンの溶解度パラメータを推算したり、溶媒設計上必要な物性値を得るプログラムは、DIYにまとめられている。
6. ユーティリティー
ユーティリティーは主にメニューバーにまとめられている。。
7. QSARツール
QSAR(定量的構造活性相関)とは、医薬品などの分子設計によく使われる言葉だ。分子の構造とその薬理活性を定量的に関係付ける方法論だ。例えば自分だけの溶解性を予測する式を構築しようとした時に、YMBが作り出した物性値を組み合わせてQSAR式を作る為のツールが搭載されている。
8. データベース
HSPiPには溶媒のデータベース、ポリマーのデータベースが搭載されている。
溶媒のデータベースには、およそ1300化合物のオフィシャルなHSP値と10,000(10KDB)化合物を搭載している。HSPiPのデータベースは実測値のデータベースではない。そもそもHSP値自体が実測値ではない。なるべく正しい実測値を収集したが、データ集としてその値を保証するものではないし、値が得られなかったものはY-MBによる計算値が表示されている。つまりHSPiPのDBを逆解析しても無駄である。
ポリマーのデータベースとしては、ポリマー機能に搭載されているものは日本では馴染みの無い会社の市販のポリマーであり、構造が不明のものが多くHSPの値しか提供されないので、余り利用価値は高くないかもしれない。Ver.6 からはこれは各自のマテリアルの値を登録するように変わった。
DIYに搭載されているポリマーデータベースは構造が明らかなポリマーを主体に約1400種のポリマーの物性値を収集した。今後はこちらが主体になっている。
各々のプログラムを簡単に紹介する
(画面はVer.5.0のものだ)
Sphereプログラム
プログラムを立ち上げると上図のような画面になる。これをメイン・フォームと呼ぶ。左上のテーブルを溶媒テーブルと呼びます。ここには溶解性試験を行った溶媒を入力し、Scoreの列にその溶媒が試験体を溶解、膨潤、分散したかどうかの値を入力する。データが準備できたら
計算ボタンを押すと、Sphereプログラムが走り、ハンセンの溶解球を探索し、結果を表示する。
よく溶解する溶媒はHSP値、[dD, dP, dH]を3次元(ハンセン空間)にプロットした時に、集まっていることが判る。その中心をポリマーのHSP値(緑色の球の中心)と定め、さらに良い溶媒を探索したり、ポリマー同士、ポリマーと顔料の混合性などを検討することができる。
ポリマー機能
ポリマー関係の問題を扱いたいなら、Pボタンを押します。するとポリマーウインドウが開く。ver.6からはM(マテリアル)に変更された。
Polymers formはDefaultPolymers.pdsのデータが表示される。このファイルは単純なタブ区切りのテキストファイルなので自由に改変できる。
もしくはプログラムの中で編集して保存する事もできる。
これは主に西欧の企業が市販しているポリマーだし、組成等は明確で無いので、それ自体は利用価値は低いかもしれない。
主な使い方としては、溶解試験によって求めた自分のポリマーのHSPを登録していき、それがどのような溶媒に溶けるか、他のポリマー、顔料などとの相溶性はどうかなどを検討するのに用いる。
溶媒最適化プログラム
ある特定のHSPに合致する2成分もしくはより複雑な混合溶媒の組成を決めたい時にはO Optimize (最適化)ボタンをクリックする。
するとSolvent Optimizer form(溶媒最適化フォーム)が開き,今選んでいる対象のHSPが自動的にターゲット溶媒として設定される。 そのターゲットになるハンセンの溶解度パラメータ(HSP)と同じHSPを持つ混合溶媒を探索するのが溶媒最適化プログラムだ。
ボタン(例えば2)をクリックすると最適な2種類の溶媒の組みと比率が求まる。
混合溶媒の蒸発速度の推算など多くの機能がある。

拡散モデル・シミュレータ
このシミュレータは,特にポリマー中の拡散について,多くの解釈を検討するために,多角的な方法論を与えてくれる。拡散シミュレータがHSPiPに含まれるのは,HSPが拡散の一つの側面に対して重要な影響力を持つからである。
旧版からは大きく変更されHSPが及ぼす影響は入力できなくなっている。
DIY(Do It Yourself) プログラム
自分でやろう(DIY)
自分だけの化合物からHSP値を作ったり,活量係数,HSE、”横断的な読み込み”そして溶解度などの興味深い物性値を調べたいならDIYボタンをクリックする。
Y-MB法や他の方法を使ったHSP値の推算方法、溶媒を選択する上で重要な溶媒の熱力学的物性値の推算を行うことができる。分子構造の入力は、Smiles, InChI, Molファイルなどから行うことができる。その他の推算として、HSE(健康と安全そして環境)、共沸と蒸気圧、溶解性を扱うことができる。
溶媒を検討するのに必要な物性値の多くは推算する事が可能だ。
新しく、Miscibility(混合性)とSurfactants(界面活性剤)のタグが増えた。
ユーティリティー
共通のユーティリティー:
画面のスクリーンショット
テーブルのキャプチャー
クリアーボタン
計算ボタン
詳しい説明
メニューバーにあるユーティリティー
File ファイルのオープン、セーブ
Dist. HSP距離の計算機
Diff. 拡散シミュレーション(別途説明)
Adh/Vis. 接着と粘度の計算機
Force Fit 強制的にFitする
Teas Teasプロット
HPLC HPLC機能
IGC IGC機能
GC GC機能
Temp. 温度効果計算機
Evap. 蒸発計算機
FindMols 分子の探索
Grid グリッド作成
DPC 小数点の表示( . or ,)
Help How To Useの英語版を開く(英語版には図はない)
QSARツール
QSAR(定量的構造活性相関)とは、医薬品などの分子設計によく使われる言葉で、分子の構造とその薬理活性を定量的に関係付ける方法論だ。
例えば自分だけの溶解性を予測する式を構築しようとした時に、YMBが作り出した物性値を組み合わせてQSAR式を作る為のツールだ。
メイン・フォームからQSARを選択する。(このツールはver. 5のみの機能であり、4.1.07には無い。)
HSPiP Dataのフォルダーの中にQSARフォルダーが作成されている。そこから拡張子がhsqのファイルを読み込んでみる。
hsqのデータはQSARで解析が終わったものが例題として保存されている。
この例では、有機酸のHPLCの保持時間を例に、YMBの吐き出した計算値から保持時間を予測するQSAR式を構築している。
log(保持時間)= -2.55+0.177δD+0.0704δP -0.05δHDon -0.123 δDHacc+1.55 Ovality
というQSAR式が得られた。
HSPiP-QSARの得意とする分野は、やはり、溶解性に関するもので、HSPや分子体積、卵形度(Ovality)などを使うと高い相関関係を持つQSAR式を構築できる。
自分だけの推算式を構築する非常に有用なツールと言える。
解析に必要なデータは、SMILESの構造式と目的とする数値をタブ区切りのテキストデータとして準備するだけだ。
以降、HSPiPに記載されている謝辞、免責等の翻訳版
HSPiPについて
このプログラムは、Prof Steven Abbott と Dr Hiroshi Yamamotoによって書かれている。 著作権(Copyright © 2008-20)は Steven Abbott と Hiroshi Yamamotoにある。 HSPiPに含まれる eBook はSteven Abbott 教授 とCharles M. Hansen博士によって書かれている。そして著作権は© 2008-2010 Steven Abbott と Charles M. Hansenに属する。The 1st Edition was 2008, 2nd Edition 2009, 3rd Edition 2010, 4th Edition 2013.
Sphere(球)のアルゴリズムは Hansen博士による, Hansen Solubility Parameters: A User’s Handbook, CRC Press, Boca Raton FL, 2007に記載されている。
使用ライセンスはプログラムを立ち上げた時に表示される個人に供与される。使用者が変更になった場合には名前、メールアドレスを連絡して頂ければ登録変更の手続きを行う。使用ライセンスを複数のマシンにインストールしたり、複数の使用者が使うことは違法であることを認識して頂きたい。
図解やテストとして,このハンドブックからケーススタディのいくつかを供与した。
Y-MB の方法論はDr.Hiroshi Yamamotoによって開発された。 彼はAbbott/Hansen/Yamamotoチームのコア・メンバーで日本のHSPiP上級開発者であり、Pirika.comの運営者でもある。
著者らはStefanis-Panayiotou法の完全なデータセットを提供してくれた,Dr Emmanuel StefanisとProf. Costas Panayiotouに大変感謝する。Dr Stefanis と Prof. Panayiotou との議論はいつも刺激的で有益であった。
Van Krevelen法と Hoy法でHSPを計算する係数はVan Krevelenの著名な本, Properties of Polymers: Their Correlation with Chemical Structure, 1990. から引用した。この本にはポリマー用の原子団寄与法に関する多くの例題が収録されてる。
Dr Richard Valpey III と彼の所属する会社 SC Johnson,Dr Hansenが彼らの為に計算した界面活性剤と香料のHSPを公表する事を許してくれた事に深く感謝する。
Dr Mario Blanco は匂いの感覚の章での貢献に感謝する。
Dr W. Sandia国立研究所のDr W. Michael Brown,(今は改訂/更新してしまったが)オリジナルのポリマーSmilesのデータセットを使う事を許してくれた事に深く感謝する。
http://www.cs.sandia.gov/~wmbrown/datasets/poly.htm
我々は出版されたデータを例題として使う事を許してくれた全ての方々に感謝する。 各々についてはeBookの相当するところで感謝の念を示してある。
バグ,改良の提案
バグレポートや、改良,提案などは steve@hansen-solubility.com あてにメールを送って欲しい。
保証
E-Bookの導入部分をここに引用しよう。
私(Prof. Abbott)は、本とソフトウェア中の、いくつかのかなり斬新的な考えに対して個人的な責任をとっている。 そこで、あなたがそのアイデアが誤りであることを示すとき、私は次の3つの方法で個人的な保証とする。(a)本/ソフトウェアの関連した部分をアップグレードする。(b)私が間違っていたことを明らかにする。(c)(あなたが望むならば)あなたが訂正の提供者であることを明示する。 科学は反証がありうるかによって発展する。そして、書いている時点では、手元の合理的な証拠に基づいていると思われるアイデアへの論駁から、私自身とHSPコミュニティが学ぶ機会を歓迎する。
批判も上記のメールアドレスに送って欲しい。
免責条項
免責:このe-Bookとソフトウエアーで使っている理論、例題、式、計算そしてデータセットは長年HSPコミュニティーがおこなった広範な理論的な研究そして実験の研究を基にしている。 しかし、それらはある特定の問題に対するガイドとしてのみ使うべきだ。 Hansen-Solubility.comはe-Bookとソフトウエアーを使う事によってよって生じた,いかなる障害に対しても責任を負う事はできない。
ベスト・フィットが最高になるように最大限の努力がなされているが,HSPの3D空間は複雑なので,ユーザーのデータと要求の範囲内で,ベスト・フィットが意味をなすと確信するかはユーザー次第だ。 特に,反応動力学(分子体積が小さい効果)は時に熱力学(HSP)を覆す事がある。そこでユーザー自身のデータは間違った結論を内包するかもしれない。 表に含まれる分子体積の値を良く見て,ボーダーラインのケースについては自分自身の判断をするように心がけて欲しい。
HSPのデータファイルは長年に渡って開発され続けてきた。 全ての価値のあるデータベースと同様,間違いも忍び込んでしまっている。 技術的なミスを取り除く為に,かなりの努力が費やされているが,自分らの応用に関連するHSPが受け入れられるだけの精度を持っているか自身で判断することを求められている。
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