HSPとパルスNMR

2022.10.30

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概要:対応するブログ

パルスNMRの緩和ナンバーをハンセンの溶解度パラメータ(HSP)を用いて解析するする方法のビデオチュートリアル。シリカコーティングされた酸化亜鉛の粒子表面にはどのような溶媒が吸着されやすいか検討する。初めてのVtuber(アバターを使って説明)投稿になる。動画編集まで手が回らず、ファイルが大きい。




マジェリカ・ジャパン(株)様の動画サイト
パルスNMRの動画

解析した論文:

Fast NMR relaxation, powder wettability and Hansen Solubility Parameter analyses applied to particle dispersibility
Powder Technology 377 (2021) 545–552

David Fairhursta , Ravi Sharmab , Shin-ichi Takedac , Terence Cosgroved , Stuart W. Prescotte

a ColloidConsultants,Ltd.,Aiken,SC29803,USA
b MagelekaInc.,WinterPark,FL39104,USA
c TakedaColloidTechno-ConsultingCo.,Ltd.,Osaka564-0051,Japan
d SchoolofChemistry,Cantock’sClose,BristolBS81TS,UnitedKingdom
e SchoolofChemicalEngineering,UNSW,Sydney,Australia

NMRの緩和とは?

マジェリカ・ジャパン(株)様のHPよりお借りした図だ。
スポンジやゴムに力をかけると変形する。
その力を外すと、元に戻る。この緊張が緩む事を緩和と言う。
緩和

NMR(核磁気共鳴)は磁石のような原子に磁場をかけると、磁場にある砂鉄のように揃う。

砂鉄

磁石を取り除くと、ある時間(緩和時間)後には乱雑になる。

この緩和時間を測定(私にはブラックボックス)してあげると、自由な溶媒分子と粒子表面に束縛された溶媒分子で、同じ分子なのに緩和時間が異なる。

溶媒分子

Rspは緩和速度比として表記したり、Rno値(Relaxation Number)と表現することもあるそうだ。

Rno

難しい事は置いておいて、この論文はZnOの表面をシリカコートした粒子の粒子表面と溶媒分子の相互作用をRno値を使って評価したというものだ。

正確に言うと、以前の検討では、このRno値は溶媒のドナー/アクセプター数と相関があることがわかっているが、今回はHSPでやってみる。

HSPiPを持っているユーザーはデータを提供するので自分でやってみよう。



テーブル
Solvents CAS Smiles Relaxzation no
DMF _68-12-2 [H]C(N©C)=O 5.2
DMSO 67-68-5 O=S©C 3.45
Methanol 67-56-1 OC([H])([H])[H] 2.89
Ethanol 64-17-5 CCO 2.54
Propylene carbonate 108-32-7 O=C1OC©CO1 2.31
Butanol 71-36-3 CCCCO 2.01
Caprolactone 502-44-3 O=C1OCCCCC1 1.43
Acetone 67-64-1 CC©=O 1.04
Ethyl acetate 141-78-6 CC(OCC)=O 0.74
Ethyl oleate 111-62-6 CCCCCCCCC=CCCCCCCCC(=O)OCC 0.27
Benzyl benzoate 120-51-4 O=C(OCC2=CC=CC=C2)C1=CC=CC=C1 0.19
Toluene 108-88-3 CC1=CC=CC=C1 0.12

HSPiP解析用データセット作成

このCAS#を使ってHSPiPのデータベースから検索を行う。
(CAS番号が日付になる化合物は先頭に_が付いている。検索の時には含めない)

CAS#で検索

Scoreの設定

Scoreを、どこまで1(良溶媒)にするか、0(貧溶媒)にするかは研究者によって異なるだろうが、とりあえず、Butanolまでを1、Caprolactoneから先は0に設定する。

ハンセンの溶解球の計算

Scoreがセットできたら、Sphereの計算ボタンを押すと、ハンセンの溶解球(Sphere)を計算する。

Sphereを計算

ハンセンの溶解球(緑色の大きな球)が求まる。プロピレン・カーボネートはScoreが1なのに、溶解球の外に来る。
そこで wrong out(間違って外に出る)溶媒としてリストされる。

溶解球の中心は[16.8, 13.1, 15.7]になり、塗りつぶしの小さな緑の球が表示されている。
(中心の位置や半径は計算のたびに少し変わる。このぐらいのデータ数では、どちらが正しいとは言えない)

オプションとしてClassic Hansenを選択するとプロピレン・カーボネートまで含まれるような大きな球を求めてしまう。

Genetic Algorithm(GA)は私が作った方法なので、ついついこちらを推薦してしまう。
プロピレン・カーボネートとブタノールのScoreを0に設定したりして色々計算してみよう。

Sphere Dataを計算

それでは、次にRnoをScoreに入れたもので計算してみよう。
オプションとしてDataを選択すると、Scoreは実溶解度など実数を受け付ける。

その代わりと言っては何だが、ハンセンの溶解球の緑色の大きな球は意味がなくなる。
それは、0,1の時には境界があったがDataでは境界がなくなるからだ。

このオプションで求まった中心[17.4, 14.8, 13.9]を使うと、「HSPの距離とRnoの間に一番高い相関がある」そんな中心を求めてあげるオプションだ。
(これも私が作ったオプションなので、自分はこれを使うのが好きだ)

HSPの距離

普通のユークリッド距離と異なり、HSPの距離はdDの差分の前に4.0という係数がつく。

HSP distance(Ra)={4*(dD1-dD2)^2 + (dP1-dP2)^2 +(dH1-dH2)^2 }^0.5

この距離の式を使って、Score0,1で求めた[16.8, 13.1, 15.7]と
Score Dataで求めた、[17.4, 14.8, 13.9]の違いを検討してみる。

Scoreに0,1を使った場合、求まったハンセンの溶解球の内側にあるものは、良溶媒=Rnoが2以上となる。(例外が1つあるが)

新しい溶媒があった時には、そのHSP値がハンセンの溶解球の内側(赤い線より下)にあった時には、良溶媒(Rno>2)と判定されるが、溶解球の中心からの距離(HSP距離)が短ければ、Rnoがより大きくなるとは言えない。あくまでも定性的解析になる


HSP距離とRno

それに対して、ScoreにRnoを入れた場合には、HSP距離とRnoの間の相関が一番高くなるような球の中心を求める。

この場合は、境界がないので、ハンセンの溶解球は意味がなくなる。

今回は、Rnoが2以上の溶媒群は水色の線の上に、2以下の溶媒群は紫の線の上に乗っている。(そこで0,1のScoreをつける時には、Rno2で区切るのが合理的になる。)

Rnoが2以上のものが水色の線の上に乗っている。= HSP距離が短いほどRnoが大きくなる。
つまり、新しい溶媒のRnoが幾つになるかは、水色の線に当てはめればわかるということで、定量的解析を行なったことになる

Rnoが最大になるのは、HSP距離が0になる、[17.4, 14.8, 13.9]だと言うことがわかる。

Rnoが最大になるような溶媒を求める

最後にRnoが最大になるような溶媒を探索してみよう。
これを行うには、HSPiPのFindMolsを使う。


FindMols

求めたいHSPの範囲(沸点、官能基、原子)を入れて計算ボタンをクリックする。
ここで、Score 0,1 でハンセンの溶解球を求めた場合には、中心の値から溶解球の半径分の溶媒を探索することになるので膨大な数の答えが出てくる。

そして、どの溶媒がRnoを大きくするかはわからない。

ScoreをDataで取った場合には、球の中心から適当な範囲を取って検索をかけると、例えば1-Ethylureaなどが見つかる。

素人目には是非検証したい分子になる。(固体ではあるが)

企業で行うMI/DX

企業で行うMI/DXは計算を行うだけでなく、逆設計ができて初めて有用になる。

FindMolsで出てきたものを実際に試験し、予想通りだったら、その周辺も含めて特許化するなどの戦略が大事になる。
その時には、分散状態を視認して0,1のスコアでやるのか、パルスNMRでRnoの形でDataが利用できるのか?は大きな違いになる。

触媒インクや塗料、化粧品など応用範囲は広い。


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