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全面改訂 2014.7.17
有機ELのテレビは、まだ液晶テレビに比べれば、10倍ぐらい高価になるとされています。
まだ当分は液晶が重要でしょう。
化学便覧に次のような液晶化合物が記載されています。
フッ素系材料の応用技術(CMC出版)には一部重なるがこのような値が記載されています。
Cr:結晶,N:ネマチック相,Iso:等方性液体,( )で表した相と数字は、過冷却状態が現れる相とその上限温度を示しています。
これらの化合物をYMBで物性値を計算してみましょう。
液晶データ
テーブルのデータを表計算ソフトにペーストしましょう。Smilesの構造式をコピーし、YMB計算結果を表計算ソフトに戻します。
全て計算が終わったらグラフを書いてみましょう。
例えばCrに対して分子量(MW)をプロットすると上のようなグラフが得られます。
課題
順繰りに動かしながら、CrとNの値がどんな物性値と相関があるか調べ、リストアップしてみましょう。
(相関があるというのは、横軸が増えるのにつれ、縦軸も増(減)する事を言います。右上がりの傾向、右下がりの傾向などです。一つだけでは傾向が曖昧でも、組み合わさると相関が高くなる事もあるので大まかに考えてみましょう)
例えばCr相転移温度は下図のような相関が得られます。
そこで、何故このような相関が得られたのかを考えてみましょう。
次のデータをYMBで計算しましょう。 芳香族、環状化合物、n-アルカンで、6員環1つあたりの物性値をプロットしてみましょう。
環効果データ
例えば、計算結果のうち、Antoine Bと比較してみましょう。
芳香族では環が増えるにつれAntoine Bの値が大きくなりますが、シクロアルカンやn-アルカンでは寝てくるので、環が増えるにつれ乖離が広がってくる事が解ります。
これは、芳香環のπ-πスタッキングと呼ばれる分子間力を定量的に評価した事になります。
この分子間力によって、例えば芳香族のポリマーは耐熱性ポリマーに分類されます。
芳香環が重なった部分では、n-Alkane, cyclo-Alkaneが自由に動ける熱エネルギーを貰っても動けないことを示しています。
芳香族ニトリル基は更に多くのエネルギーが必要であることもわかります。
これがCr相転移温度で液晶のヒゲやシクロアルカンの部分が溶解しても、π-πスタッキングを起こしている部分は溶解しないに繋がっているのかもしれません。
N相転移温度はAntoine Cと相関があります。これについて考えてみましょう。
例えば液晶骨格に使われる下記の4つの化合物を考えてみましょう。
実験値の蒸気圧を温度に対してプロットすると以下のようになります。
蒸気圧曲線は化合物に特有の曲線になります。
それに対して横軸の温度を、1000/(T℃+Antoine C)に変えると各々の蒸気圧曲線は下図に示すようにきれいな直線になります。
つまり、Antoine C 定数は、温度ー蒸気圧曲線の曲率解消の為に導入されたパラメータである事が解ります。
さらに横軸の温度を、Antoine B/(T℃+Antoine C)に変えると各々の蒸気圧曲線は下図に示すようにきれいに一致します。
この事から、分子の分子間力、運動エネルギーは、Antoine パラメータを使うと任意の温度で統一的に評価できる事がわかります。
蒸気圧式としては、次のようなものが知られていますが、係数に物理化学的な意味があるのはCox式までで、後は単なるフィティング・パラメータになります。
Clausius‐Clapeyron式 1850年
ln(Pvp)=A-B/T B=ΔHv/RΔZv
Antoine式 1888年
log(Pvp)=A-B/(T[℃]+C) 3定数蒸気圧式
Cox線図 1923年
log(Pvp)= A- B/(t+230)
Extended Antoine Equation
log(P[bar])=A-B/(T[K]+C-273.15)+0.43429Xn+EX6+FX12 ( X:(T-to-273.15)/Tc )
Wagner Equation
ln Pvpr = (aτ + bτ1.5 + cτ3 + dτ6 )/Tr (τ=1-Tr)
5定数蒸気圧式 log P = A + B/T + C*logT+DT+ET2
Antoine式とClausius‐Clapeyron式を比べると、Antoine B定数とClausius‐Clapeyron式のB=ΔHv/RΔZvの関係から、Antoine B定数とΔHv(蒸発潜熱)は相関がある事が期待されます。
事実、計算結果のAntoine BとHvBPをプロットしてみると上図のようにきれいな相関があります。
こうした単相関(物性1つとの相関)を検討する事は、複数の物性値を組み合わせて(多重相関)予測式を作成する重回帰法の基礎になるので良く理解してお来ましょう。
Antoine 定数は、本来3つのパラメータをセットで利用した時に意味を持ちます。
例えば、Antoine B/(T℃+Antoine C)のような使い方です。
ハンセンの溶解度パラメータ(HSP)も同様です。
HSPの個々の値とは相関が少なくても重回帰法で取り扱うと相関が出てくる事があります。
HSPについては、Wikiにあるハンセン溶解度パラメータ(HSP)の記事の翻訳、初心者の為のHSPを一読しておきましょう。
それでは、液晶のdE(誘電率異方性)を例題に複数物性を組み合わせて物性推算式を構築するやり方を説明しましょう。
dEを横軸としたときの各物性値の相関がどうなるか、カラムを移動させながら検討してみましょう。
相関の高そうな物性値はタイトルを塗りつぶしておくといいでしょう。
そしてdEに対してdD,dP,dHdo,dHacをペーストして次のようなテーブルを作成します。
テーブルが準備できたら、A1-F17までを選択してコピーします。
それをYSBのInput Dataにペーストして、計算します。
計算結果のうち=の式をコピーし、G2へペーストします。
ペースト範囲を広げるとハンセンの溶解度パラメータ4つを使った場合の重回帰式とその図が得られます。
(生成された計算式は2行目にペーストされるという前提で作られています。また、目的とする値(この場合はdE)は2列目に入れ、1行目はタイトルである必要があります。)
次に行う事は、どのような物性値を付け加えたらこの相関がより高くなるのか?ということです。
お世辞にもR2 =0.46416は高くありません。
そこでGのカラムに単相関の高い物性値を持ってきてYSBで計算してみましょう。
Gカラムにどの物性値をペーストした時にR2 が幾つであったか控えてお来ます。(CーFは動かさないでください)
課題
例としてXXXXを選択すると上のようになります。いろいろ試してこれよりも高いR2 となる物性値を探してみよう。 何故XXXXXは相関係数を上げるのだろうか、考察しよう。
カラムを2つ継ぎ足すのであれば、もっと良くなる解は無数に存在するかもしれません。しかし、先にクロスタームを導入するとどう変わるか?を見てみましょう。(クロスタームについては、重回帰法の基礎を参照してください。)
YSBでCross Term の数を指定してCalcボタンをクリックするとクロスタームを導入した数ごとの重回帰式が生成されます。
クロスタームを2つ導入すると、次の図のようにR2 は平均的に改良されます。
この場合導入されたクロスタームは、dD*dDとdD*dHdoの2つでした。
以上のように、ある物性推算式を構築する時には、
* 単相関が高いものをチェックする。
* そしてそれらをいくつか組み合わせて重回帰計算を行う。
* 最後にクロスタームも含めた推算式を構築し、検証を行う
という流れになる。
課題
Cr相転移とN相転移温度の推算式を構築せよ。
ハンセンの溶解度パラメータ(dD, dP, dHdo, dHac)は必ず使うものとし、後2つ物性値を付け加え、より良い推算式を構築してみまよう。
予測用データ
予測用の液晶をYMBで計算し、先に構築した推算式を用いて予測化合物のCr相転移とN相転移温度を求めてください。
(ちなみに授業で求めた2つカラムを追加し予測した結果は各々以下の図のようになりました。)
自然現象はただ2つの基本的な力で説明できる。それは愛と憎しみで、愛は物を引き寄せ、憎しみは物を引き離す。(紀元前450年、ギリシャ, Empedocles)
愛と憎しみをHSPに変えると現象を定量的に理解できます。
YMBは分子構造から物性を推算します。それらの物性のうち分子間力を表す、Antoine定数やHansenの溶解度パラメータ(HSP)を利用すると、相転移温度や誘電率異方性など液晶独特の物性がどう働いているのかを理解できるようになります。
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