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2021.2.2改訂(2014.7.30)
界面活性剤については、pirikaのこちらのページも参照してください。
界面活性剤というのは分子中に親水部分と疎水性部分の両方を持つ化合物です。
こうした化合物を水へ入れると、ある濃度以上でミセルを作り始めます。
左:CMC以下 右:界面活性剤がミセルを作り始める
疎水性の部分は水中には居たく無いので集まろうとします。
そのエネルギーは疎水性相互作用と呼ばれます。
それではどんどん集まって油滴となって分離するかというと、そうはなりません。
親水部分は多くの場合、カルボン酸やスルホン酸の塩で、電荷を持ちます。
そこで界面活性剤が集まってくると、親水部分の電荷によって静電反発を起こし広がろうとします。
「疎水場は疎水性相互作用で集まろうとし、親水場は静電反発で広がろうとする」それらの力のバランスで様々な形状のミセルが形成されます。
最も一般的なミセルは球状です。
それは、球というのは体積あたりの表面積が最小だからです。
これらの界面活性剤がミセルを作り始める濃度を臨界ミセル濃度(CMC)と呼び、様々なデータ集にCMCの値が記載されています。
界面活性剤CMCデータ
テーブルには親水基の違い(Py:ピリジン)と疎水基の違いによるCMCの値が記載されてあります。
同じ疎水基であっても、親水基の構造によってCMCの値は異なる事を確認しましょう。
各疎水基の分子構造を表すSmilesの構造式があるので、YMBを使って物性を計算しておきましょう。この場合のSmilesは先頭がX(ダミー原子)になっている事を注意してください。
準備ができたら、データを次のようにまとめ直してください。(フッ素系の界面活性剤は含めなくてよいです。)
このようなテーブルに変換するには、1-22行目を全部コピーして、親水基の数(10)個分ペーストします。
Aのカラムの疎水基の名前を親水基と同じ色にしておくと区別しやすいです。
そしてCMCの値をB列に集めます。
CMCの値の無い行を消去します。そしてCMCのlogを取ります。
準備ができたらlog(CMC)と物性値のグラフを書いてみましょう。
液晶の所でも説明したように図示するカラムを移動させて、log(CMC)と相関のある物性値がどんなものか確認しておきましょう。
例えば分子量(MW)とlog(CMC)をプロットすると以下のような相関が得られます。
この場合のMWは疎水基の分子量なので、同じ疎水基では同じ値になります。
しかし、CMCは親水基ごとに異なった値になるので、横方向に広がったものになります。
他の物性値でも、例えば、沸点など分子量と相関がある物性値とは同じように相関があります。
このように、多少の誤差はありますがが、CMCの値は分子量と相関があることは、昔から知られています。
界面活性剤のHLB(Hydrophile-Lipophile Balanc)値は、界面活性剤の水と油(水に不溶性の有機化合物)への親和性の程度を表す値として、1949年にウィリアム・グリフィンによって提唱されています。
グリフィン法:
HLB値=20×親水部の式量の総和/分子量、で定義されます。
HLB値によって次のような使い方がされます。
親水基が同じであれば、CMCとHLBには下図のような相関が得られます。
そこで、HLBとCMCは同じ事を言っている事が判ります。
ところが、このデータにフッ素系の界面活性剤をプロットすると赤四角で示すように全くラインに乗らなくなる事がわかります。
フッ素は原子量が水素より大きいのでこうした結果になります。
フッ素系でも同一の線上にのる物性値を探してみると、分子体積とプロットすると全く同一の直線に乗る事がわかります。
そこで、フッ素系でも炭化水素系でも同一に扱える、Pirika法のHLBとしては
Pirika HLB=20*親水部の式量の総和/疎水基の分子体積
が新たに定義されます。
すると,Griffin法ではHLBとCMCの相関でフッ素系と炭化水素系で合わないものが、Pirika法では同一になります。
それでは、YMBで計算される分子体積と、親水基の構造からCMCを予測する計算式をYSBを使って構築してみましょう。 次のように、C列にYMBの分子体積の値を入れ、D列以降は用いた親水基の所に1を入力します。
準備ができたらYSBを使って重回帰計算します。
結果を図示すると非常に良好な相関が得られることがわかります。
課題:
テーブルの重回帰係数を埋めましょう。そして、各親水基のCMCに与える影響を考察してください。
COONa | COOK | COOCs | SO4Na | SO3Na | |
factor | |||||
NH3Cl | NMe3Cl | NMe3Br | PyrBr | PyrCl | |
factor |
以上の重回帰式が得られると、疎水基の分子体積をYMBで計算し、親水基を選べばどんな構造の界面活性剤であれCMCが計算で求まる事になります。
CMCやHLBについで、界面活性剤の重要な値として会合数があります。これはミセルを作った時に何個の界面活性剤でミセルを作っているかの値で、レーザー散乱などによって測定されています。
会合数データ
ミセルの疎水場の全体積はMol Volume*Aggregation#で計算する事ができる。
SO4Naの場合
Mol Volume | Aggregation# | Total-Volume | Surface | Surface/Aggre# | |
C6H13 | 120.0 | 17 | 2040.3 | 777.8 | 45.8 |
C7H15 | 136.7 | 22 | 3008.0 | 1007.5 | 45.8 |
C8H17 | 153.4 | 27 | 4141.6 | 1247.0 | 46.2 |
C9H19 | 169.2 | 33 | 5582.8 | 1521.6 | 46.1 |
C10H21 | 185.9 | 50 | 9295.6 | 2137.6 | 42.8 |
C11H23 | 202.6 | 45 | 9118.0 | 2110.3 | 46.9 |
C12H25 | 219.3 | 62 | 13595.6 | 2754.3 | 44.4 |
Ave | 45.4 |
ミセルが球だとすると、球の体積の公式から球の半径が求まります。
球の半径から、球の表面積が計算されます。
その表面積をAggregation#で割ると、界面活性剤1つあたりの親水基が占める表面積が計算されます。
親水基がSO4Naの場合、上のテーブルに示すようにこの値はほぼ一定の値になります。
課題:球の体積、表面積の公式を確認しましょう。他の親水基の占める表面積を計算し、テーブルを埋めましょう。
surface/Aggregation# | |
SO4Na | 45.4 |
COOK | |
COONa | |
SO3Na | |
NH3Cl | |
NM23Cl | |
NMe3Br | |
PyrBr | |
PyrCl | |
Phenyl-SO3Na |
親水基の違いによる、界面活性剤1つあたりが占める表面積の違いを考察してください。
水の水和が球形であると仮定して、分子体積(18.0)の水が何個集まると水和面積に等しくなるか求めてください。
炭化水素に付加したSO3Naと芳香族に付加したSO3Naで水の配位数はどれだけ違うか求めてください。
このように、例えば医薬品であっても、分子中にCOONaを持つような化合物はCOONaの部分に水がX個配位していると考えると合理的である事がこの結果から示唆されます。
それでは、構造が単純なこれらの界面活性剤に対して、複雑な医薬品に同じ事が言えるのか?という問題が残ります。
事実、界面活性剤の尾が2本あるスルホサクシネート系の界面活性剤は、CMCが分子体積だけでは整理できなくなります。
実は分子体積ではなく、分子表面積で、2本の尾がある場合は2つの尾が作る面積が足し算以上に大きくなっているのかもしれません
しかも、医薬品の水中での会合数のデータはほとんど得られていない事を考えると、水和面積を計算するのも難しくなります。
それでは手が無いのかというとそうでもありません。
国立衛研報第 127 号(2009) にアトピー性皮膚炎用ステロイドの、HPLC一斉分析という論文があります。
HPLCの解析では、Octadecylへの溶解性が高いと保持時間が大きくなり、分子が大きいと溶解しにくく保持時間が小さくなる傾向にある事が判っています。
そこで溶解性の指標としてYMBが計算するtotHSPを分子体積で割ったものとRetention Time(RT)は高い相関がある事が判っています。Pirikaのこちらのページ参照してください。
そこで、これらのステロイドについても同様に解析を行ってみましょう。
ステロイドのHPLCデータ
そして、totHSP/MVolというカラムを作って保持時間(RT)との相関を取ってみましょう。
するとまずまずの相関が得られる事が判ります。
「Octadecylへの溶解性が高いと保持時間が大きくなり、分子が大きいと溶解しにくく保持時間が小さくなる傾向にある」はおおむね正しいと言えます。
ただし、実はステロイドに芳香性のOHを持つもの、パラベン類と呼ばれるパラヒドロキシ安息香酸エステル類のRTまでプロットすると線は3本になります。
このパラベンは防腐剤として添加されています。
これは、芳香性のOHを持つステロイド、 芳香性のOHを持つパラベンの「Octadecylへの溶解性が変わったのか?」「 分子が大きさが変わったのか?」本来もっと早くでてくるはず(RTが小さい)はずであるのにtotHSP/MVolから考えられるよりずっと遅くでてきている事になります。
totHSPの値はフェノール性のOH基がある段階でYMBで折り込み済みですので、これはフェノール性のOH基に水が配位して分子体積が大きくなったと仮定して、何個の水が配位したらこの保持時間を説明できるか計算してみましょう。
課題:
水の配位数を仮定して曲線が一つになる配位数を求めテーブルを埋めなさい。
(配位数*水の分子体積18を化合物の体積に加える。エクセルで絶対位置指定で配位数を入れ、その値を変更するようにすると探しやすい。)
solvation# | |
beta-Estradiol | |
Estrone | |
Ethinylestradiol | |
Diethylstibestrol | |
Hexestrol | |
Phenoxyethanol | |
Methyl p-hydroxybenzoate | |
Ethyl p-hydroxybenzoate | |
Isopropyl p-hydroxybenzoate | |
n-Propyl p-hydroxybenzoate | |
Isobutyl p-hydroxybenzoate | |
n-Hexyl p-hydroxybenzoate | |
2-Ethylhexyl p-hydroxybenzoate | |
n-Butyl p-hydroxybenzoate |
実際には親水基に水和が起これば溶解性も変わるでしょうし、HPLCの分析もたいていの場合は溶媒組成のグラジエントをかける、pH調整にバッファーを使うなど単純ではありません。
しかし、芳香属系の水酸基を持つ化合物は、水が10個余計に配位した分子体積をもつとすると、保持時間は溶解度パラメータから説明できてしまいます。
私が学生だった時、平井先生から受けた、生物化学の授業でいまだに忘れられない講義があります。
それを、この水和とHSPで表現すると次のようになります。
生体の中で特異的に反応が加速されたりするのは、この誘電率変化によるものだと先生は教えてくださいました。
この2枚のスライドは、2017年に東大の3年生に行った「分子集合体の化学」の講義から持ってきました。
卒業してから32年ぶりに、東大の、全く変わっていない講義室で、最も忘れられない講義の自分なりの解釈を話せたのはとても感慨深いものでした。
今後こうした研究が進み、界面活性剤や医薬品の水和数が定量的に行われると、医薬品の分子設計も多いに進歩すると考えられます。
現状のMDやドッキングではこうしたものは無視されているような気がしてなりません。
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