上 下 (74)
「上」という字をひっくり返すと「下」という字になる。われわれサラリーマンの人間関係は、自分を中において、上と下と横との関係に大別されるが、横との関係はさておき、大切なのは上ー下の関係である。
ところで、この上・中・下という字を三つ縦に並べてみると、上と言う字は下の横棒が邪魔で下が見えないし、下と言う字は上の横棒が邪魔で上が見えないようになっている。
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我々の日常の人間関係を振り返ってみても、この字の通りで上・下の関係に思い当たるフシが多い。とくに、上を見るのに一生懸命の人は部下に気を回す余裕がなくなるのは当然だが、意外にこの傾向の管理・監督者は多いものである。
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ところが、面白いことに「中」という字は真ん中が突き抜けて上・下につながった形になっている。すべからく我々サラリーマンは、すべてこの「中」の字の心構えで、上下のパイプ役に徹すべしという教訓であろうか。
情 報
「テレビ・ラジオでおなじみの・・・」と、わざわざ司会者が断るのは、大体キャバレーか場末の芝居小屋に出てくるドサ回りの芸能人と相場が決まっているが・・・。
このTV・ラジオ ・新聞・週刊誌といったマスメディアの一般大衆に与えている信用度というものは意外に大きいものである。だからこそわざわざ ”ラジオ・テレビで・・・ ” と、断るのだろうがーーー。
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大方の人の話を聞いていると、その人の意見としてではなく大抵「TVで云っていた」、「新聞に載っていた」という前置きの話が多く、そして我々は意外にその人自身の話よりそのような「・・・が云っていた」、「・・・に載っていた」ことによって、その話を信用しがちなものである。
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それが新聞の、あるいはTV局の、それぞれの色合いを承知の上で、或いはいろいろなものを見比べた上で、その人の考え方の中で消化して話すのならいいのだけれど、われわれは得てしてこれらをダイレクトに受け入れて、なまかじりの話をしたがるものである。
ーーー情報過多。マスコミの渦ののなかで余程しっかりせなアカンと思う。
自己紹介
我々はよく ”自己紹介”という機会にでくわす。転勤したときなど特にその機会が多い。そこで、自分の略歴を紹介するのに、「・・・年から・・・年まで00でXXをやり・・・」ということになるのだが、ここで感心したことがある。彼はこゝで、いとも当然な顔で「・・・で・・・をやらせて頂き・・・」と云ったのである。今まで聞いた自己紹介は例外なく「・・・で・・・をやり」・・・で、ひどいのになると 「・・・で・・・をやらされ・・・」というのさえあった。
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仕事を「やらされる」のか「やらせて頂く」のか、思わず口をついて出る言葉を聞いただけで、その人のやる仕事の出来栄えが分かるような気がするのだが・・・。
窯
佐賀。・・・鍋島藩の時代から今に伝わる伊万里焼。壷や皿や花瓶を一つひとつ粘土で造り絵を描き釉薬を塗りーーー窯に入れて焼く。
焼きあがって窯元の主人が窯口の粘土をはがし、中から作品を一つひとつ大事そうに取り出す。その時の不安と自信と期待が入り混じった何とも表現しようもない主人の目。ひとつひとつ窯から取り出してくる度に主人がつぶやく・・・。 ”うん、よかよか、よう焼けとる”というのもあれば、 ”うーん、こりゃいかん”とさらに詳細に観て ”やっぱり、いかん”と惜しげもなくその場で金槌で割っていく・・・。
その主人に尋ねる。
「同じ人が同じ材料で作っておなじ窯で焼くのにどうして出来・不出来があるんですか?」。
「そいがわからん。何十年やってもまあだ判りまっせん。要するに、まあだ焼き物にワシがなめられとるとですよ」。