身体障害者 (84)
サリドマイド禍にあった子供。・・・物心ついてみたら、自分だけ他の子と違って手が短かった。その子のあどけない質問。
「手を短くする薬があるのなら、長くする薬が出来ないものかしらーーー」。
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昼下がり、電車の中ーーー。実に物静かで柔らかい明るさを漂わせた娘さんが座っている。とくに美人と言うほどではないが、軽く微笑んでオーバーにいえば仏像の雰囲気をそのまま近代的な女性にしたようなムードが漂っている。
ところが、その娘さんの脇に松葉杖がさりげなく立てかけられているのを見てはっとした。小児麻痺の後遺症なのだろうか、ソックスも靴もちゃんと履いてはいるが、足の膝から下が、まるで子供のときのままみたいに細いのである。
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隣に子供連れの奥さんが、窓の外を見ている子供の両足を押さえ、何が気に入らないのかマユの根にシワを寄せて座っている。
子供をはさんで、身障者ながら静かに微笑んでいる娘さんと、五体満足な奥さんの不機嫌な顔ーーー二つの極端な対象が目の前に並んでいる。
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足の不自由な娘さんが、これだけの雰囲気を持てるようになるまでに、どれだけの精神的な悩み・葛藤があったかは知るすべもないが、逆に言うとそのような逆境の試練があったからこそ、それを乗り越えた先に、今のような安心立命の彼岸があったのかもしれない。
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上にも千人、下にも千人というけれども、よく考えて見ると、我々は日頃何とつまらないことにイライラし、しょうもないことにあくせくしていることだろう。
報道過多
話はやや古くなるが、例えば今年の春場所千秋楽ーーー。
旭国が内無双で貴ノ花を破り、輪島が北の湖を下手投げで破った。いずれも十二勝三敗、さて優勝決定戦までの数分間。支度部屋にライトとハンディカメラを持ち込んで
”輪島は今四股を踏んでいます” ”旭国は、疲れたと言いながらマゲを結っています”・・・と逐一その一挙手一投足を放映する。
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どうも、こちらが贅沢なのか、優勝決定戦を前にした二人の数分間を、もっと静かにそっとしておいてやれないものか。これでは見る方だって神秘性がなくなってしまう。
相撲に限らず世情すべてのことが報道過多ーーー。過ぎたるは及ばざるより尚悪し、最近、人のカワヤの顔までのぞこうとするような報道が多すぎるのではないか。
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優勝決定戦ーーー。土俵を前に胸を躍らせながらやがて始まる取り組みをいろいろ想像しながら待つこと暫し、どこからともなく現れた二人が、土俵に一礼してーーーという具合にはいかないものか。
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車の中で聞いたラジオで、「最近の映画はみんなカラーである。しかし、映画がすべてカラーであるというのは蛇足ではないか。劇中の女が取り出したハンカチ・・・その色は赤ですよ、というような押し付けがある。観客に、黄・白・桃色・・・とそれぞれ勝手に想像することさえ許さないーーー」といっていたが、全く同感。あまり何でもくまなく知らされてしまうと、想像の働く分野がなくなってしまって、味気ないと思うのだが、如何なものか。
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報道している当人だって、自分のことになると,昨日の夕食のおかずが何だったか、どんなツラをしてヒゲをそっていたか、風呂に何分はいっていたかーーーなんてことを、逐一他人に知らされたら嫌なもものだろうに。
建国記念日
アメリカが、建国二百年になったという。電車の中で女高生二人の会話。
A,アメリカが二百年・二百年って騒いでいるけど、たったの二百年じ
ゃないのよねえ。日本は、明治からだけでも百年でしょう。そのち
ょと前ってことよね。
B、アメリカの学生はいゝわよね。国史の勉強だって、二百年分でいい
んだもんね。日本は神代からだものね。
A,そうよ、それにアメリカの学生は、英語だって勉強しなくてもいい
だもん。楽よねえ。
B,だけど、地理の試験は私達より大変かもね・・・。