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悲しき酒(片々草抜粋)

 

 

 

 

 

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02-Jan-2013

運 

 K・Iさんから聞いた話。
 戦時中、召集を受け内地での訓練を終わり、輸送船の船倉にぎゅうぎゅう詰めにされて戦地に送られた。何日か航行して、間もなく目的地に着くという真夜中、ゴツンと何かが船体にぶつかった。何とそれが敵の潜水艦の魚雷で、命中したのに不発だった為に命拾いをした。
 ところが、船を降りる時その船長が皆に「魚雷が命中して、不発で助かる確率は一万分の一もない。私はこの船に乗っていたあなた方の強運に助けられた ”有難う”」と礼をいったと言う。

 この話を聞いて考えた。・・・乗員も船長もどちらも助かったのだから、乗員・船長どちらが ”強運”の持ち主だったのかは誰にも分からないことである。 
 多分これは、これから船を降りて戦地の第一線で戦う兵士達それぞれに、「強運」を譲ることによって ”俺は一万分の一の強運の持ち主なんだ。ほんとはあの時死んでいても仕方がなかったのだ”と暗示をかけ、皆に自信を持たせようという船長の思いやりだったのではなかろうか。

          愛  称

 労働力節約のため、ロボットが工場に取り入れられ始めた頃、外国の労働者は自分達の職場を奪うもの、とこれを排斥したそうだ。ところが日本では、自分達が休んでいる時も、文句も言わず働いてくれるこのロボットに「百恵ちゃん」とか「郁恵ちゃん」とか愛称までつけて仲間にしてしまった。そしてそのロボットに声を掛けながら共存して、世界に冠たる生産性を挙げていった。

 愛称についてこんな話を聞いた。東京ディズニーランドは、どこに行っても塵一つ落ちていないという環境整備がつとに有名だが、ここのトイレの掃除のおばさんの中に、便器の一つひとつに愛称をつけ「ああ、ジョニイこんなに汚されてしまって、可哀そうにね」とか「スーザン、いますぐ綺麗にしてやるからね」と声をかけながら掃除をしている人がいるという。

 仏頂面でいやいや働かされている仕事と、無機物の対象を擬人化しその主人になって、これに語りかけながら、愛情と一緒にする仕事の出来栄えもさることながら、働く方もこの方がどんなにか気持ちがよかろうではないか。

          電 信 柱

 蜂の喧嘩(さしつさされつ)より,S・I氏の話。
「”馬鹿と雪隠虫は高いところへ登りたがる”っていいますけどねえ。昨日Bさんたちと飲んだ帰り、何を思ったのか突然Bがさん電信柱に登り始めたんですよ。そしたらどう言う訳か、その後をDさんもFさんも登りだしましてね。     上の方で三人で何かわめいているんですよ。そのうち近所のおばさんが出てきて、上を見上げながら ”あの人たちは何をしてるんですか?”って、怒るでもなく不思議そうに聞かれた時には、何と答えていいのか,恥かしくって返事が出来ませんでしたねえ」。

          落  首

 いきなり尾篭な話で恐縮だが・・・。
 ”丸く出て 四角ににおう こたつの屁”
という川柳に、こりゃ傑作だと思っていたら、さる飲み屋でI君 ”ここの厠は汚くていかん。注意の貼り紙をしよう。紙と筆を取り寄せて曰く・、
 ”朝顔の 外へこぼすな 米の水”
 横にいたS・N君、それじゃあ俺は大のほうを書こう・・・筆を走らせて曰く・
 ”頼む神なくば 運は手でつかめ”

 尾篭ついでにもう一つ。
 東大の学内で使用する紙。ーーーコンピューター・ワープロ・論文・もろもろの書類・・・莫大な量のそれらの不用になった紙を、これまではただ無意味に焼却していた。

 地球環境問題がかしましく論じられている時代に、そんなことでは最高学府の面子が泣く、とこれをリサイクルしてトイレットペーパーに再生しようということになった。
 そして、このトイ・ペに、いちょうのすかしを入れ”トウダイナンカ クソクラエ”というネーミングで売り出してはどうかーーーという、近頃珍しく楽しい話。

(90・H・2・7)