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悲しき酒(片々草抜粋)

 

 

 

 

 

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02-Jan-2013

哀 し き 酒

 正月である。
 こう早く正月が巡ってきては、更まった感懐がわく暇もないが「正月?・・・十二分の一の倦怠の一番目」と、ピアスの”悪魔の辞典”風に白けることもなく、お屠蘇の杯を持ったついでに、久々に”哀しき酒”といきますか。
            *             *
        (豆   腐)
 大岡信さんの ”折々のうた”を愛読している。その中のひとつ、つくづく感じ入ったので ”土筆生、ただ飲んでいるだけじゃありませんぜ”という証しとご紹介をかねて・・・。

      湯豆腐の かけらの影の あたたかし

解説ー「生活をいとおしむ、ということの中には、鍋でゆっくり揺れてい
    る豆腐のかけらへの、このような親しみ方もあるのだった。こんな情
    景はだれでも見たことがあるはずだが、それが一つの詩になるという
    のはまた別の問題。作者の側にそうする意欲・集中力・詩への沈潜が
    あってはじめて豆腐も歌い始める。
    ”影”を”あたたかし”とみる把握の確かさ」。

 ( ”はじめて豆腐が歌い始める”という表現。・・・。われら赤提灯組も、ただ鍋を突つき回すだけじゃなく、冬の夜なが杯を交わしながら「ゆれる 豆腐のかげ」を見つめるくらいの静かさを持ちたいものですなあ)。

        (バーボン)
 久しぶりにT市を訪れ、酒友?H・N氏と飲んだ。
「・・・片々草の魅力は、そこらの取り立てていう程じゃない有り合わせの材料を、手早く料理するその包丁捌きにありますナ。著名な随筆家が大きな材料をもてあまして、結局は材料を切って並べただけっていう随筆も沢山ある中で、片々草はそれなりに立派なものですよ」と煽て?られながら、とあるバーへ案内された。

 天井まで届く回りの棚に、洋酒が壮観に並んでわれらをヘイゲイしている。銘柄で八百余種類。本数にすると千数百本あるという。
 「世界中、大抵のものはお出しできます。お好きなものをどれでもどーぞ・・」という。じゃあ・・・と考えてみたが、瓶に圧倒されてとっさに ”何”と出てこない。・・・「トリスを飲んでハワイに行こうか」などとちゃかしてみたものの さてこの際、と真剣に考えてみても、もともとその方に関心のない悲しさ。
 「そうね、じゃバーボンにするか。ジャックダニエル・・・ロックでね」と覚えたてのTVのCMで取り敢えずの格好をつけたものの、すぐに空いてしまったグラスに「お次は、何になさいます?」・・・「エッ・・・ア・・・うまかった・・・同じものでいいや・・・」。
 冬の夜ながの情けないお話。モッタイナカ・・・。

        (自動改札)
 例によって蜂の喧嘩(さしつさされつ)からY・G氏の嘆き節。
「・・・国鉄がJRになって、かなりの部分で”なかなかやるじゃん” ”やればできるじゃあ”と感じることがあるでしょう。だけど、山の手線の自動改札化ですがネ。ありゃ自分達の合理化のためにお客に不便を強いるJRの傲慢ですねエ。今まではちらりと見せれば済んだ定期を、いちいちケースから抜き出して機械にくわえこまさなければならんでしょう。その度に ”俺の定期、ちゃんと向こうの口から出てくるんかいな?。飲み込んだまま出てこんかったらどうしよう?”という不安に駆られませんか?」。

「そのうえ感情的にもあの改札機の型が許せないんですよね。朝の爽やかな出勤の最初ですよ、あそこに入るとき、嫌がる馬の尻を無理やり叩いて並ばせる競馬のゲートインを連想させられるんですねえ。まるで自分が競馬馬にさせられたような・・・”さあ一列に横に並んで・・・ガチャン・・・ヨーイスタート!。しっかり走れよ”・・・。
 こんなことで一日のスタートが爽やかにきれるもんですかねえ」。
(91・H・3・1)