スランプ
”初日記 いのちかなし としるしけり”
久保田万太郎の句である。万太郎のように綺麗には表現できないが、このところ人のせいではない、人に言ってもしかたがない諸々の事どもが波状的に押し寄せてきて気が晴れない。
”捨てきれぬ 荷物の重さ 前うしろ(山頭火)”というわけで、スランプの大波をかぶってしまった。
*
”何だか知らないがそんなに気が重いんなら、いっそスリーラインから降ろしてもらったらどうだ?。楽になるぜ”と一方でささやかれ ”そんなこと今までだって何度もあったじゃないか、気楽に行こうぜ”と、一方でささやかれる。
草柳大蔵さんによれば、人間生きていくのに「経済・健康・気力」の三つのKが必要だと言う。そうだその「気力」の問題だと、そこまでは分かるのだが、その「気」が何ともはずまない。ならいっそのことその「スランプ」と向かい合ってみるか。
*
「スランプこそチャンスと思え」と言ったのは確か川上哲冶。「普段何もかも上昇気流で調子がいい時には、少々の欠点はそのツキの蔭にかくれてしまって表には出てこない。だがアカは徐々に溜まっている。逆に不調の時は,、いい時には気がつかなかったそれらの小さなアカが固まって出てくる。その時こそ自分の欠点を見据えるいいチャンスではないか」ということだろう。
*
「心に太陽をもて・・・唇に歌をもて・・・」という。
人間は感情七分で理性が三分。だから理性は感情にかなわない。理性で感情を変えることはできない。しかし理性で態度の方を変えることは出来る。態度を変えることによって徐々に感情の方も変わっていく。何かのことで感情が激したとき、そっと好きな歌を口ずさんでみる。そのうち激していた感情が少しずつ治まっていくのだという。
*
これを精神医学の方で実験した結果が報告されている。
「心を明るく持っことにより仕事がはかどり、成功する確率が高くなる」。
ではどうすれば心を明るくすることができるか?。・・・人は「笑顔をつくれば、心が浮きたち」その反対に「暗い表情を浮かべれば精神状態も暗くなる」という。
これを証明するために、百人の学生を使って、一方のグループには口を尖らせて鉛筆をくわえさせ、もう一方のグループには鉛筆を横にしてくわえさせた。
この両者についていろいろ心理テストをした結果 ”前者は精神状態が暗くなり、後者は明るくなる”という「顕著な」効果が見られたという。
*
「気のふさいだ馬を見たことがあるか。しょげかえった小鳥を見たことがあるか。馬や小鳥が不幸にならないのは、仲間に ”いいかっこう”を見せようとしないからだ」といったのはアンドリュー・カーネギー。
”身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ”という。人間見栄や外聞を捨てて裸の原点にかえってしまえば、ずっと身も心も軽くなるということだろう。
見る人の心こころに任せおきて
雲井に住める秋の夜の月
昭和の初め、日米開戦論に反対して非難を受け、少数派のトップとして悩んだ山本五十六の句である。
*
何か話がまとまらないが、「せわしい蜜蜂は悲しむ時をもたぬ」という。ぐだぐだといろんなご託を並べられるうちは、まだ贅沢で余裕があるということだろう。
「雲外に蒼天あり」ーーーしばし身をかがめて時を待つとするか。
*
さらりと 流していかん 川の如く
さらりと 忘れていかん 風の如く
さらりと 生きていかん 雲の如く
(青 木 雨 彦)