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02-Jan-2013

育 て る

 昨年三月号で紹介した「草花は人の”まなざし”を滋養にし、その足音を聞いて花を咲かせる。人を育てるのも同じ・・・」という話が好評で何人かの人から、”あの部分をコピーさせてもらいました”と言われた。そしてまた今年も各職場に新人が配属される四月がきた。・・・という訳で、再び”人を育てる”について」の片々。

 ある機関で「社員はどんな条件がある時に伸びるか?」というテーマで、新人の追跡調査を行った。なかなか”これだ”という決め手が掴めなかったが、いろいろ調査して十五年がかりでやっと分かったことは「その新入社員が入社して、最初の三年間で仕えた上司との相互作用がよかったかどうか、つまり、最初の三年間の直属上司が、人を育てるという点でうまくリーダーシップを発揮したかどうか、ということが、その後のその社員の伸びに非常に影響している」という簡単なことだったという。

 土筆生の長い社員生活を振り返ってみても”自分自身の事を含めて、そうだ”と思い当たる例が随所にある。今四月ーーー前途有為のフレッシュマンを迎えて、上司・先輩のその新人との関わり合い方が、その人の一生を大きく左右するということを、日々肝に銘じて接する必要がある。

          観   察

 ある医大で、医学部の学生に ”ニワトリ”の絵を描かせたら、足を四本描いた学生が六十%近くもいたという。我々も牛の耳と角はどちらが前にあるかと言われればとっさに迷うけど・・・。医学部の学生の観察眼・・・「鳥と犬・猫の区別がつかぬ。しかもそれが一人や二人でないところが問題」と当の教授が嘆いていた。ほんとにそういう人がメスを持ち、それをこちらは選ぶことが出来ないでベッドの上のコイになるとなるとチト考えさせられるなあ。

          作   品

「自分の作品を眺めている筆者とは、ある時は ”あひる”を孵した白鳥であり、あるときは、白鳥を孵した ”あひる”である」とバーレリーが言ったと言う。 
 やはり”あひる”が”あひる”を孵したのでは面白くもないか。

          モーツアルト

 今年はモーツアルトの没後二百年にあたるという。
 アインシュタインが「死とは」と聞かれて「モーツアルトが聴けなくなることだ」と答えたと言うが、昨日も今日も世界中のどこかでこのモーツアルトの音楽にどれだけの人が慰められていることだろう。

 そのモーツアルトは三十五歳でこの世を去ったというが、その間に残した曲が六百曲という。その短い生涯に、どうしてあれほど沢山のいい仕事が残せたのか?と疑問に思っていたが、小林秀雄の「モーツアルト」という本に、彼自身の次の手紙が紹介してあって氷解した。

 「・・・構想は、あたかも奔流のように実に鮮やかに心の中に姿を現します。しかし、それが何処から来るのか、どうして現れるのか私には分からないし、私とてもこれに一指を触れることは出来ません。
 (略)・・・すると、それはますます大きなものになり、私はそれをいよいよはっきりと展開させる。そしてそれは、たとえどんなに長いものであろうとも、私の頭の中で実際にはほとんど完成される。私はちょうど美しい一幅の絵あるいは麗しい人でも見るように、心のうちでひと目でそれを見渡します」。

 そして、事実彼には構想をまとめるためのノートもなければ、彼の原譜にはほとんど修正の後も残っていないという。
 ことは芸術の領域の ”天才”の話と言ってしまえばそれまでだが、ベートーベンの名曲のほとんどが、彼の聴力がなくなった三十一歳以後のものということとともに、人間には何か判らない」途方もないXがあるんだなあ。
(91・H・3・4)