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02-Jan-2013

こうもり・(H・元・十月)     日石情報システム・生 野  實

           安   全
 
 こんなことがあった。さる大銀行のコンピューター部門での話。
 チエック機能のお手柄で、作成した一000件ほどの”帳票”の誤処理が発見され、直ちに再処理を行って修正し発送した。ところが、この正しいはずの帳票にユーザーからクレームがついた。”そんなことがある筈がない”・・・と調べてみたら、何と処理しなおした ”正しい納品帳票”の束と、”誤処理破棄帳票”の束を間違え、正しい方の帳票を残して、破棄するはずの一000件を発送してしまっていた。・・・という笑えない話。

 我々の生活でも、晩酌も終わり ”そろそろ飯にするか・・・”と電気釜の蓋をあけたらまだ米のまんま、そんな筈は?とよく見たらスイッチは入れてあったがコンセントガさしてなかった・・・・。
 書き終わった原稿をやっとの思いで清書し ”よーし、これで一杯飲める!”と、勢いよく古い原稿を破いたら、それが清書したばかりの方だった・・・。
 苦心して出来上がったワープロの画面を保存しようとしているうちに、ウッカリ操作ミスで ”あっと言ったが、この世の別れ”一瞬で画面が真っ白・・・。といった泣くに泣けない経験はゴマンとあるが・・・。

 アメリカの安全技師ハインリッヒによれば、「一人の重傷者が出た事故の背後には、類似した原因で二十九人の軽傷者があり、さらに三00件の無傷の事故が隠されている」というが、安全無事故についてTQCだZDだと、いろいろ工夫をこらして、立派なスローガンを掲げてみても、これら「ウッカリミス」をどうやったら防げるのか?。

 外国の有名な写真家に「いい写真を撮るのに一番大事なことは何でしょう?」と尋ねたら「先ずレンズの蓋を取ることです」と真面目に答えられた、という話があるが、我々は目的である仕事そのもののことはあれこれ真剣に考えるが、その足許の一番手近かなところへの注意がおろそかになる嫌いがある。
 JRの指差し称呼じゃないが、一つひとつの作業ごとに ”それでOKか?”と疑い ”よしっ!”と確認しながら、結局一つひとつのことを、一つひとつ振り返って確かめていくより方法はない。

 科学の粋を集めた旅客機が大勢の客を乗せたまま墜落し、潜水艦が浮き上がって漁船に衝突する。安全率6・9(シックスナイン)と豪語したスペースシャトルが衆人環視の中で打ち上げ直後に爆発する。
 ・・・まさか、と思うことが現実に起こる。そして、幼児が池にはまって水死すると、翌日囲いが立てられ、取材の新聞記者が暴走族に殺されると、次の日から警察の取締りが厳しくなり嘘のように静かになる・・・。
 事故が起こると、何故そのことが起こったのか原因が調査され、これが原因だったと発表されれば、何だその原因に気がついていれば・・・と対策が立てられる。
 「焼けてから ぞろぞろと出る 焼けぬ知恵」という川柳があるが、「焼けぬ前 ぞろぞろと出る 焼けぬ知恵」というわけにはいかないものか。

 記憶に新しい中国の天安門事件で李鵬首相が「疾風で勁草を知り、遠路で馬の力を知る」という後漢・武帝の言葉を引用して味方を励ましたというが、日本にも「船乗りの良し悪しは、嵐の時分かる」という例えがある。

 ある製油所で大事故が発生した。誰もが動転してただ右往左往している中で、一人テキパキと的確な指示を出している男がいた。普段はあまり目立たなかったその男が事故後抜擢されたという実例がある。「疾風で勁草を知る」である。

 起こったミスは仕方がない。その事の責任の一半は、そこにそういう男を配置した上司にもある。問題はその時そのミスをどうリカバーし、今後同じ事故を絶対に起こさないための処置をどうとるかである。
 「禍を転じて福となす」その時のそのミスを貴重な体験としてどう生かすか。
 「船乗りの良し悪しは嵐の時分かる」である。

 最後に箴言をひとつ。
 「・・・よく考えてみると、この世に問題のない会社(組織)などある筈がない。ただ,問題を感じない社員がいるだけなのである。
 およそ組織と言うものは、言ってみれば”問題を解決するためのシステム”なのである」。