気 流
こんな話を聞いた。
空軍の飛行訓練で、えてして失敗するのは、新任の張り切って一生懸命にやりすぎる士官だという。
何故かーーー。飛行機を安全に飛ばすためには、まわりの気象との調和が必要なのに、新任の気負いすぎる士官は、乗るべき気流を無視して自分だけで飛ぼうとするからだーーという。
飛行機の話と言わずわれわれサラリーマンの世界にも通ずる話ではないか。
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これと話の趣はやや異なるが、”気流”というのでこんな話を思い出した。
「滝つぼに呑まれたときは息を詰めて、その水流のまま沈むだけ沈んでいく度胸が肝心だ。沈む流れは必ず浮かぶ流れに変るからだ・・・」というのである。
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実際に、取りあえずの不遇に目がくらんで、みにくくじたばたすることで、かえって当人の品格を下げてしまい、折角の浮くチャンスさえも自らボツにして、先ずはそれまでという人もある。
人間、時たまの不遇をかこってじたばたするよりも、むしろ悠然とその不遇を横において眺めるくらいの度胸が必要だという教えである。
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我々はお釈迦様ではないのだから、この世の中で大勢の人の中で生きていくのに、「天上天下唯我独尊」という訳にはいかない。
自らを律して独立独行わが道を往くーーー気概も必要なことでではあるが、一方「流れに身を任せる」「回りに合わせる」「流される」ーーー度量というものも必要なことではないか。
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見る人の 心こころにまかせおきて
雲井に澄める 秋の夜の月
自分の意見が容れられなかった不遇時代の山本五十六提督の歌である。
(81・S・56・9)