蜂 の ケ ン カ（さしつさされつ・から）
ＫＩさんの話。
（陸 軍）
「お前、スリーラインの八月号に、えらい海軍の肩もった話を書いとったがのう、海軍出身の結束が固いんが ”危険物の固まりの上での一蓮托生の生活じゃったから ”ちゅうお前の言うことも一理ある。。しかし、ありゃ尉官・佐官のエリートコース連中だけの話じゃないか」。
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「そりゃお前、陸軍と海軍とどちらの苦労が多かったかといやあ陸軍でよ。第一海軍の奴らはのう、歩く苦しみと、食べることの苦労を知らん。言ってみりゃ三食、上げ膳・据え膳じゃないか」。
「ワシラはのう、ジャングルの中で這いずり回って、ヘビやトカゲはご馳走の部類じゃ、栄養失調で動けんようになった兵隊がのう、目の前を横に這っとるカニを掴まえようとしてのう、そのカニの動きに指の動きが追いつけんのじゃ、そいでみすみす目の前のカニを逃して死んでいった兵隊もおるんぞ」。
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「歩く苦労？、お前な、何日も何日も歩いてな、何度も何度も首までつかって川を渡っては濡れたままで歩くんじゃ、マラリアでばたばた倒れてなあ。結局、距離にして日本縦断くらいの距離を歩いたことになるかのお。人間とことんまで行くとな、歩きながら眠れるようになるんぞ、馬のシッポを持って歩いとるとな、ホントに歩きながら夢をみたりするんじゃ」。
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「海軍のもんにはこんな苦労は分からんじゃろうが、今度の片々草に、そう言うて書いといてくれや」。
（女アンマ）
「この前、旅館でアンマをとったらの、このアンマが揉みながら ”お客さん、私の年は幾つくらいに見えますか？”と聞くんじゃ、軽い気持ちで ”そうだな、大正の初めくらいかね”と言うたら ”そうですか、私はいつもお客さんに年より若く見えると言われるんですが、大正の初めに見えますか。本当は大正の末なんですよ”、と言うんじゃ」。
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｛そこで、はっとしたのう、聞けばその人は八歳の時高熱を出して盲目になった。苦労を重ねて、今も病の夫を養っとる、そりゃあ年よりふけて見えるのは無理もないわけじゃ。然も本人は八歳の時から自分の顔を見たことがない、人から見てもろうて言われることが全てじゃ、何もわざわざ年を余計に言うこたあない。しもうた、と思うたんで、言うといてやんたんじゃ ”あんまさん、、すまん、さっきは暗かったんでよう見えんかったが，明るうしてよう見たら、ほんとに年より若う見えますぜ”・・・そしたら ”そうですか”と言うて嬉しそうな顔をしたので、ほっとしたのう」。
