Pirika logo
JAVAと化学のサイト

Pirika トップ・ページ

Pirikaで化学

ハンセン溶解度パラメータ(HSP):

雑記帳

片々草はじめに

片々草(I) 目次

片々草(II) 目次

悲しき酒(片々草抜粋)

 

 

 

 

 

Last Update

02-Jan-2013

 落 し 物・二題

 上野駅のホームで財布を拾った。それも小額ながら現金である。先を急いでいたが、一緒に印鑑が入っていたことでもあり、とにかく早く・・・と駅員に届け出た。そしたら「何番ホームの向こうの階段を上がって、その向こうの角を右に曲がって、それから・・・」と届け先を教えてくれたが、これが中々見つからない。雑踏の中やっと探し当てた薄汚い部屋のカウンターの中に、とうに現役を離れたと思われる爺さんがぼんやり座っていた。

 「何時何分の列車で駅に着いて、何番ホームのどこのところで・・・」と詳しく説明したら「いまどき現金を落としたのでは、落とした方も諦めて取りにこないだろうが、ハンコが一緒なら或いは現れるかもしれない。この紙にお前さんの住所と名前その他を書いておくように」という。 ”有難う”と言うでなし、”ご苦労さん”と言うでなし、事務的にボソボソと「預り証」を渡してくれた。

 数日経ったら駅長名で手紙が来た。曰く「預かったものは、駅として所定の手続きをして警察に届けておいた。落し物拾得の期日の計算は、○月X日からである」。という意味の印刷物。これに警察からの手紙が同封してある。曰く「表記の物件はXX署において預かっている。公示後六ケ月と十四日経過しても,遺失者が判明しない時には、あなたが所有権を取得することになるので、公示期間が満了した翌日から二ヶ月以内に引き取りにくるように・・・」。さらにご丁寧に付記して「この書類は上記物件の所有権を取得し、受取る場合大事なものだから,失くしたり汚したりしないように云々」。

その後日談。六ヶ月と十四日の期日が過ぎて、「持ち主が現れなかったので、お前さんに渡す。ついては印鑑と証明書を持って、取りに来られたい・・・」という通知が来た。上野駅での拾得物の所管は大宮警察だという。何と新幹線リレー号の終点ではないか。それに大宮駅からどう行けばその警察署に辿り着くのか、来い、というのなら少なくとも地図くらいは同封しとくべきだろう。それに国鉄だって、警察だっていろんな連絡網を持っているだろう。これを通じて、せめて届けてくれた人の最寄りの駅や交番まで配送するくらいの親切心はないものか?。
 結局、大宮の警察までの電車賃と半日は要する時間のロスに、有りがたくご辞退申し上げた次第。。

 しょうもない、こんな話を長々と書いたのは、実は次の話と比較したかったからである。
 恥ずかしながら、土筆生は落し物の名手?である。
 ある夜、タクシーの中に定期入れを落とした。現金は入っていなかったが、半年間・数万円の定期と名刺、クレジットカード数枚に家の鍵が入っている。その夜はタクシーで帰宅するくらいだから、当然飲んではいたが、意外に記憶がはっきりしていて、珍しく乗ったタクシーの会社名・乗った場所・通った道順も正確に覚えていた。

 もう夜十時過ぎだった。たぶん駄目だろうとは思いながら、念のため営業所へ電話して、当直らしい係りの人へ一件を詳しく連絡した。次に乗った人が気がつくか、運転手さんが車庫に戻って次に引継ぎの点検で気がついてくれるか・・・まあ、打つ手だけは打っといて、後は神頼みという気持ちだった。

 ところが、何と二時間も経った頃だったろうか、その係りの人から電話があり、「お尋ねの物件が見つかった。ついては池袋の本社へ届けるように手配してあるので、明朝九時過ぎに、この電話番号の総務課の方へ連絡願いたい」。とのこと。

 翌朝、早速電話したら「車が浅草車庫のものだったので、そこから回して来て、現物は午後本社に上がってくることになっている」とのこと。・・・「実は昼から出張することになっているので、午後は取りにいけない。申し訳ないが二~三日預かっておいて貰えないか」とお願いしたところ、「それじゃ、お宅まで送るから住所を知らせてください」という。恐縮しながらお願いして、送料の届け方を尋ねたら「会社の、お得意さんに対するサービスだから不要」とのこと。・・・そして三泊四日の出張から帰ってきたら、あの名刺入れが落とした時の姿のままで家に届いていた。

 何という行き届いたサービスだろう。落したその日、然も夜中に何百台の車の中から無線で該当の車を探してくれた人。すぐに答えてくれた運転手さん。本社との連絡。連絡を受けた本社の処理。ーーースピーディで、正確で丁寧で何とも気持ちのいい話である。

 さて、この二つの話。
 自分の不注意で落したものが、労せずして電話一本で戻ってきた処理のしかた。自分が拾って善意で届けた落し物の処理のしかた。・・・民間とお役所仕事のサービスの差、かくの如し。
(84・S・59・10)