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02-Jan-2013

売  る

 地方都市N市の大手特約店、S常務の話。

 ”私の町にIデパートが進出してきたんです。ご存知でしょうがN市には以前からMデパートもあるし、スーパーDもあります”。
 ”そこに、東京からIデパートがなぐりこみをかけてきたんですネ。それが進出早々なのに大変な繁盛なんです。開店のときなど近郷近在から繰り出したマイカーで市中の交通がマヒしたくらいです”。
 ”何しろ、開店準備期間中に係員が手分けして、回りの衛星都市を含めて十万軒を戸別訪問して、粗品とチラシを配って挨拶したっていいますからねえ”

 ”先日、ゴルフ用品のバーゲンセールだというので、ひやかし半分にのぞいてみたんですが、安い上にその品揃えの豊富なことーーー.大抵バーゲンというと目玉商品を置いて、お目当ての品はすぐに無くなるものでしょう。それが特定の物がどんなに売れても、どんどん補充して品切れなしなんです。他のデパートもスーパーも負けじとバーゲンをぶつけたんですが、品数の豊富さで勝負にならないんですね”。

 ”それに売り場が工夫してありましてね。広い売り場の真ん中に昇降エスカレーーターがあるだけで、売り場中に柱がありません。そしてショーケースがその階段を中心に放射状に配置してあり、その形も四角ではなく亀の甲型で、ずっと見て回っているうちに、自分がどこにいるのか判らなくなるんです。そうして、同じ品物を別の方向からも何度も見せるようになっているんですねえ”。

 ”デパートですから、食堂・喫茶店・老舗・名店・・・いろんなテナントが入っているわけですが、これを誘致するのに「新しくデパートを作るので、入りませんか?」という勧誘ではなく、その地方近在で既に流行っている有名店を選んで、デパートの方から「是非出店してください」と頼みに行ったというんですねえ。いい考えですよね、すでに評判がよくて名前の売れている店がまとめて軒を並べていれば、ネームバリューによる宣伝効果もさることながら、衛星都市でその店を使っていた客を一気に吸収することになるんですもんね”。

 ”知り合いに、そのデパートの女店員さんが居るんですが、採用が決まってから開店までの間、東京の本店で商品知識・接客態度など研修するのはまあどこでも同じでしょうが、売り上げの目標意識についての教育が徹底しているんですね。とにかくその娘さんと話していると、自分の売り場で「今日は何がどれくらい売れたか」それが目標と比較してどうだったのか、で毎日一喜一憂するんです。その上自分の売り場だけでなく、店全体の「売り上げ」に対する関心がすごく高いんです。売り場の一女子新入社員がですよ。”

 ”ことほど左様に、ここでは全部門の関心が業務や総務だけではなく、自分達が全体の売り上げにどう関与したかーーーということに集中されているんですね”。
 ”どうやって既存の商圏の中に入り込んで利益をあげていくか・・・そのためには、売れるのを待ってはおれない。売らなければならない訳ですよね”。

 ”ひるがえって私達ーーー石油・S/Sの商売はどうでしょう。明治から百年,同じ商品を置いて、店を開いて寄ってくれるお客をじっと待って、言ってみれば、客が持ってきた容器に油を注ぐ・・・単なる注ぎやですものねえ。いくら売るかではなく、店を閉めてみて、いくら売れたか、ですもんね。”
 ”あのデパートの新人女店員さんの話を聞いて、目からウロコが落ちる思いでしたが、なんとかしなくちゃなりませんね”。
(84・S・59・11)