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悲しき酒(片々草抜粋)

 

 

 

 

 

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02-Jan-2013

酒  

 唱和六十年元旦。
 何はともあれ明けましておめでとうございます。今年も片々草をよろしくお願いします。
 先ずは本年の第一弾は正月に因んで??またまた酒・・・といきましょうか。

 近頃は、すし屋・小料理屋・縄のれん・赤提灯・・・どこへ行ってもウイスキーのキープボトルが酒屋然と並んでいる。これに最近は焼酎の瓶まで加わって、”ウンカイ”だ ”キッチョム”だと賑やかなことである。
 (余計なことだが、それにしても、焼き鳥ならともかく、ウイスキーでいかさしやとろのさしみというのはどうなのかなあ?)

 先日、小料理屋で熱かんを注文したら、何とお燗をするお湯がまだ沸いていないという。近頃の客は、とりあえずビール、それから焼酎の水割りかお湯割り、酒も冷用酒というのばかりが出て、不覚にお酒のお燗のことを忘れていたという。
 酒どころの秋田の老舗の酒蔵が、焼酎の波に抗しきれず、自分のところでも焼酎を造り出したという、その名が”ブラックストーン”嗚呼・・・。

 盃は消耗品みたいなもので,なくなったり、こわれたり、欠けたりするのだろう、行きつけの店で ”盃の絵柄が揃っていなくてすみません”と恐縮するので、いい方法を伝授しておいた。
 気の利いた盃をあるだけ・・・模様・大きさ・焼きに関係なく、一寸したお盆にずらりと雑多に並べて客に見せる。そして ”今日は、どれになさいますか?”とその中から客に選ばせる。呑み助というものは可愛いもので ”俺はこの萩焼””オレはこの小さいの””お前はそれじゃ小さすぎるよ”・・・てな具合で結構楽しみながら選んでくれる。それが又呑み助への巧まざるサービスになるところが面白いではないか。

 時に飲み屋で、どこの誰かは知らないが、せいぜい三十歳台の若いのが横柄な態度で真ん中に座り、初老の二~三人がとりまいて、”ハイおしぼり、はい煙草にライター”と揉み手せんばかりにサービスこれ努めているのに出くわすことがある。傍らから見ていて、よくもまあ、どちらもてれくさくないものだと感心する程のものなのだが、当人は盃を持つ手つきまで殿様風で、事もなげに振舞っている。
 全く見ているほうが悪酔いしそうな光景だが、こんな奴に限って、先の割れた給食スプーンで育てられたマザコンなのだろう、・・・ほれ、親指をおっ立てて箸がまともにもてないで湯豆腐がつかめない、ザマーみろ。

 飲み屋は、女将に、気の利いた無口な板さんひとり。カウンターに四~五人後ろに四人がけののテーブルが二ケくらい。気分によっては小あがりが一つ・・・といった店が手ごろでいい。

 こういう店は、真面目にやっていると何となく常連がふえて繁盛するものだが、その気になって客を詰め込んだり、店を拡張したりしてはいけない。たまたまその日、入りきれない客が来たら断ればいい、そして今までどおりのサービスを確実にやっていればいい。客は、そのサービスを期待して来ているのだから・・・。

 枝豆を頼んだら、注文に応じた分量を目の前でゆでて、 ”へい、お待ち”と出せるくらいでなけりゃあ。デパートの食堂じゃあるまいに、ベタッとした冷たい奴を、ワシ掴みにして盛ってだすようになっちゃ駄目なんなあ。

 そんな気の利いた店のその日の献立は、和紙やうす板に”お品がき”などと毛筆でさらさらと書いてあったりするのが嬉しい。こんな店は請求書もそのものぽっきりでなく、時候の挨拶などが達筆で添えてあったりする。

 それに引きかえ、学校の運動部の後輩から定期的に送ってくる戦績報告の字は、ありゃ何だ。例外なしに読むに耐えない字で、おまけにいきなり”拝復”と書いてあったりする。その上、転勤で住所が異動したと通知してあるのに、執拗に付箋をつけて旧住所から転送されてくるのはどういう訳かーーー。

 少し八ツアタリが過ぎたか、おつもりは気を落ち着けて、きれいにいこう。
 
      湯どうふの こんとんとして おわりかな

((85・S・60・1)