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悲しき酒(片々草抜粋)

 

 

 

 

 

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02-Jan-2013

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 昔は ”ブタもおだてりゃ木に登る”といったものだが、最近は”ブタもおだてりゃ空を飛ぶ”というのだそうだ。
 
 原稿がはかどらず悩んでいたら、編集部から、日石スリーラインの「企画別人気順位・年間集計」というのを見せられた。それによると、反応は月づきの出来栄えで異なるが、この「片々草」が年間で上位五番目だそうで、スリーラインでは外せない企画だという

 十二月号の伝言板で、J石油のT・Kさんから、横綱千代の富士にたとえて「休場・引退はまだまだ先のこと・・・」と励まされたことでもあり、空を飛ぶほどおだてられた訳ではないが、編集部じきじきにヒザを折られたのでは引くわけにも参るまい。

 ・・・と言うわけで、昭和六十二年正月。明けましておめでとうございます。 
 本年もよろしくお願い申し上げます。

            男

 男には二つのタイプがあるという。花のある男とない男。
 花のある男と言うのは、その人が入ってくるとパーツと回りが明るくなる。例えば寅さんが入ってくると、何か知らないけれどもお通夜まで賑やかになってしまう。別の人が入ってくると、祝賀会なのにお通夜みたいになってしまう、ということである。

 人間には、何となくその人が醸し出す雰囲気というものがある。子供の仲間でも,三~五人で歩いているうちに、いつとはなく真ん中になってしまう子がいる。ハンサムとか成績がいいとかいうのではなく、何となく人気がその子を中心に形成されてしまうのである。

 会社では、例えば随分前に転勤したり退職していった人が、元の職場にふと顔を出した時、知らぬ間にその人の周りに人が集まっている人と、そうでない人がある。
 ふだんの仕事でも然り。その人がそこに座っているだけで回りが明るくなる人と、その人がいるだけで何か気がかりで、今日は何か違うなと思ったら、その人が休みだったり・・・ということがある。

 男には、二つのタイプがある。さてあなたはーーー。

          軍  歌

 新橋・小さな居酒屋。カウンターを入れて十席くらいかーーー。
 客ーーーこちら三人。他に初老の紳士ひとり。店の割には立派なカラオケビデオがある。

 例によって蜂のケンカ(さしつさされつ)で盃を重ねる。そのうち”三合の酒が 天下を取らせけり”・・・というわけでカラオケが始まる。

 ひとつ覚えの軍歌を歌う。ーーー麦と兵隊。一曲終わったところで、あちらの席で静かに盃を傾けていた紳士に声をかけられる。 ”お金は自分が払うから、今の曲をもう一回歌ってくれないか”という。
 お安いご用と繰り返す。ーーー歌とともに画面に昔のニュース映画がナマで流れる。…軍靴・ゲートル・戦闘帽・鉄カブト・三八銃・軍馬・ぬかるみ・日の丸・・。

 ふと見るとその紳士、無言でひとり盃を傾けながら、ほほに涙が流れている。
 何故ともなくこちらも歌いながら目頭がうるんでくる・・・。

     往けど 進めど 麦また麦の・・・

     友を背にして 道なき道を
     征けば戦野は 夜の雨   
     すまぬすまぬを 背中にきけば
     馬鹿をいうなと また進む
     
     遠く祖国を離れ来て・・・

 嗚呼・昭和ヒトケタ 万歳!。

(87・S・62・1)