コ ラ ム
どの新聞にも、ひとつのスペースを何人かで担当して、毎週一回・何曜日は誰、と決めたコラムがある。大抵そういうところに登場する人は、かって何とか賞を受賞したりして有名になった人。名前を見ただけで ”おや?”と読んで見る気を起こさせるほどに知名度のある人である。
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ところが、何回か読んでいるうちに、相当高名な作家・エッセイストでも ”まずは、今週担当の枠は埋めた”・・・とホッとした顔がみえるような文章・内容に出くわすことがある。いわゆる書きたいことがあって、それをほとばしる勢いで書いたという書き方ではなく、与えられたスペースをどうにか引きずりながら埋めた。取り敢えず今週のノルマは果たした、という書き方である。
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大体そういう売れっ子の作家・エッセイストは,他にも、月に(週に)何本という量をこなすのだろうから、やむを得ないと同情もするけれど、 ”売文”を業としているのであれば、それで食っているのであれば、も少し真剣にやってくれと言いたくもなる。
尤も、名前につられて、そんなものに興味を持つ方が悪い・・・と言われてしまえばそれまでだがーー。
ト イ レ
一杯飲んで皆と別れて、いい気持ちでS駅のトイレに入った。丁度、赤提灯の第一陣のひけどき時間,満パイである。。
横一列にずらりと並んだ頭が、どれも前壁のやや上の方を向いて、しばし放心状態。空いている朝顔を探しながら奥の方へ足を運んでいたら、背格好、頭の形、薄くなり加減から、ついさっきまで一緒だった、Y・A氏。・・・ちょうど終わり時で越を上下にゆすっている。気易く肩をたたいて ”やあ”と声をかけてギョッとした。振り向いた顔は別人だった。”しまった”と思ったとたん、何とそのストレンジャーが ”やあ、しばらく・・・お元気ですか”といいながら、ニッコリ笑って場所を譲ってくれた。そして実に自然に人ごみの中に消えていった。
あのくらいの、大物になれたらなあ。
タ ク シ ー
終電間際。TAXIが、この時間帯を外しては・・・と猛スピードで走り回っている。どの車も歩道に立って手を上げたくらいでは止まってくれない。 ”馬鹿だなあ、俺は長距離の客なのに・・・”と思っても相手に伝わる訳がない。そうこうして何台も駅のほうへ走り抜けた後、すうと一台が近づいてきて止まってくれた。
”よく止まってくれたねえ。助かったよ”と言ったら、その運転手さんがこんな話をしてくれた。
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「自分は、手を上げた客がいたら、いつどんな時でも、どんな人でも ”必ず止まる”ことをモットーにしています。運転手のほとんどは、手を上げた客のあらゆる状況を一瞬のうちに判断して、どうするかを決め、そうして素通りしても乗車拒否にはならなりません。自分もかってはそうでした。それで確かに判断どおり、長距離にあたったりすることもあるし、勿論見込み外れのこともあります。そして外れると、自分の判断ミスなのに、ついその客の扱いがぞんざいになってしまいます。
それである日決意して、自分では客を選ばず、目についた最初のお客で必ず止まることに決めたんです。そしたら、当たれば ”しめた”あたらなくても自分で決めた ”主義”なんですから、腹も立ちません」。
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「それで、お客さんどうなったと思います?。私の実績ですがね、客を選んで走り回っていたときよりも、結局収入が良くなったんですよ。ーーー私の場合、大体勤務時間中に平均すると四十三回の客にあえるんです。その客をえり好みしないでいけば、初乗り四百三十円でしょう。それに初乗りポッキリと客は何人もいませんしね。月十五回勤務で、五十万円前後は行きますし、ついている月は七~八十万円になるんです。ーーーその上お客さんに喜ばれていい気持で仕事できるし・・・人間、欲得づくより、素直に謙虚になれば、道は向こうから拓けてくるもんですねえ」。
(88・S・63・4)