翻 訳
イタリアの諺に「翻訳は女に似ている。美しい時は忠実ではなく、忠実な時はぬかみそくさい」というのがあるそうだ。
翻訳と言えば、レイモンド・チャンドラーの小説「プレイバック」で私立探偵フィリップ・マローが「あなたのようなしっかりした男が、どうしてそんなに優しくなれるの?」と女に聞かれて答えたセリフの翻訳ーーー。
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清水俊二訳は「男はしっかりしていなかったら 生きていられない。優しくなかったら生きている資格がない」。
ーーー二つを比べて読んだ訳じゃないが,小鷹信光訳では、ここのところが「情に流されていたんじゃ、命が幾つあってももたねえんだ。だがよ、情けのひとつもかけられねえようじゃ、生きていたってはじまらねえ」。と訳されているそうだ。
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中学生の頃、森鴎外の訳した「即興詩人」は原作よりも翻訳の方が名作だ、と国語の教師から聞かされて ”原作よりも?”・・・そんなことがあり得るのか、と首を傾げたが、こうやって二つの訳を並べてみると、なるほど原文は一緒でも、随分とニュアンスが違うものである。
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ところで昔見たフランス映画カサブランカの中で、まだ記憶に残っているハンフリーボガードの名セリフーーー。「昨日?。・・・そんな昔のことは覚えていない。今夜?・・・そんな先のことは分からない」。・・・なんとカッコいいじゃない。
これくらいの、言葉がすらすらと吐けるようになれば、俺もも少しモテるのだろうがなあ。「君の瞳に乾杯!」。
飯 と 酒
再起巨人軍を背負った藤田監督が最初にコーチ陣に申し渡したこと「選手と一緒にめしを食うのはいいが、酒を飲むことはまかりならん」・・・。
酒を飲むと、どうしても人間関係がナアナアになりがちだ。コーチと選手は仕事で厳しく一線を画さねばならん。そのためには酒をはさんだ人間関係はかえって邪魔になるということだろう。
煙 草
許せないもの・・・・。
板前が、料理に手が一時空いたからといって、厨房の中で吸う煙草。
自分本位でお客の心情に思いを回すゆとりがない。こんな板前にうまい料理が出来る訳がない。料理と言うものは、もっとデリケートなセンスが必要だと思うのだが。
酒
あるパーティでK・S氏。
「あなた方は飲めるからいいですよ。私に言わせりゃ酒にはいくらでも恨みがありますね。大体世の中、全てのことが最初に酒飲みを肯定して、その上に成り立っているんですよね。その裏で、酒の飲めない我々”少数民族”が、どんなに苦しい情けない思いを味合わされていることか、その悲哀は全く無視されているんですよ。
人間関係・・・職場旅行・・・ゴルフ・・・冠婚葬祭・・・世の中どれをとってみても、何はともあれ、先ず”酒ありき”でしょう。そうは思いませんか?」。
桜
桜が散るーーー。梢にたわわな花のどこからともなく、とめどなく花びらが降ってくる。路上に雪と見まがう花びらがはらはらと舞う。
咲くことよりも、散ることにアクセントをおいた桜の美意識。
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その散りぎわの見事さから、桜はいろいろなところで使われてきた。
万朶の桜か襟の色/花は吉野に嵐ふく/大和おのこと生まれては/散兵戦の花と散れ・・・。花は桜木、人は武士ーーー。日本陸軍の徽章も「桜」だった。
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「散る桜 残る桜も 散る桜」と遺書を残して知覧から飛び立っていった若き特攻隊士ーーー。
今年の桜ももう終わってしまった。
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さまざまの こと思ひ出す 桜かな (芭 蕉)
(89・H・元・5)