生物濃縮性と経口避妊薬のHSP

HSPiP ver.6にはBioconcentration Factor(BCF)を予測する式を搭載する予定だ。人類は多くの化学物質を作り出し、海はマイクロプラスティックのスープになっている。プラスティックから可塑剤などが、ミジンコ、魚に濃縮されて最後は人間に戻ってくる。

BCFは脂肪などに蓄積される度合いなのでハンセンの溶解度パラメータで整理できるかもしれないと考えたが、そう簡単では無いようだ。
データを集めているが、非常に限られてしまう。
BCFのデータが無い場合にはオクタノール/水分配比率、logKowで代わりにする事が多いが、これは明らかに間違いだ。

例えば変異原性の有無が分かっていて、かつ、BCFが分かっている化合物を300以上集めた。
横軸は化合物の番号なので意味が無いが、変異原性のある化合物を250番以降に置いている。そして縦軸はlogBCFにとっている。

すると、logBCFが1以上であれば、80%の確率で変異原性がプラスになる。

しかし、縦軸をlogKowにしてしまうと何もわからない。

昔(1993)の論文を見ると、少ないデータで、logKowとlogBCFに相関があると記載されてもいる。

Pharmaceutical Society of Japan 1993, vol39, pp494

直線関係を満足するMackay式は活量係数が等しい時のみ成立するとか、多ハロゲン化合物では大きく乖離するとか、論文で指摘されている限界はいつの間にか忘れ去られている。

そこで、logBCFが推算できる機能は重要だ。

ここに環境ホルモン(Endocrinedisrupting chemicals)とされている化合物のリストがある。この構造に対してY-MB2021を使ってlogBCF, logKow, logSを推算した。

logBCFは文献によっても値が異なっていたりするので、精度がまだ十分ではない。しかし、構造のみからこうした計算ができるので利用価値は高い。

こうした内分泌攪乱物質は、海中生物を雌化してしまうことが懸念される。それは、こうした化合物が女性ホルモンとよく似ているからと言われる。そこで、様々な化合物が規制されている。

例えば、ビスフェノールAは、エストロゲン受容体α(ESR1)に作用して、エストロゲン様作用を示す活性物質アゴニストであると同定されている。そこでポリカーボネート製の哺乳瓶は使われなくなった。

Bisphenol Aと17β-estradiol(女性ホルモン)のHSPを計算してみると、とてもよく似ていることがわかる。分子の全体的な感じや両端に水酸基を持つこともよく似ている。エストロゲン受容体αに作用するのもわかる。

また、フタル酸のエステルは様々な高分子の可塑剤に使われている。

フタル酸のジブチルエステルはProgesterone(妊娠ホルモン)とHSPがほぼ同じになる。

経口避妊薬(ピル)の構造とHSPもまとめると次のようになる。

大事な点は、経口避妊薬はほとんどが、人工の黄体ホルモンである点だ。
これらは、「内分泌攪乱物質として疑われる」のレベルでは無く、内分泌攪乱物質そのものだ。つまり、欧米のようにピルを使用するのが当たり前の環境では、排泄された人工の黄体ホルモンが川を下り、海に注がれ、海中生物の雌化が進む。
こうした黄体ホルモンと環境ホルモンをハンセン空間にプロットしてみた。
青い球は黄体ホルモン、赤い球は環境ホルモンを示している。
Drag Shift-Drag option-Dragして動かし表示されている球をクリックすると名前が表示される。

魚がメス化してしまったら卵が孵らなくなり、魚が食べられなくなる。
そうならない為には、このHSPの領域の化合物を吸着する吸着剤が必要になる。
同じくらいのHSPを持つ、表面積の大きな物質が適している。

それはそうとして、BCFの推算精度がさらに高くなるように、データを提供してくれる方が増えることを願っている。

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