化合物の皮膚透過のPathwayについて、一緒にHSPiPを開発しているAbbott先生とメールのやり取りをした。先生の意見ではそんなに単純ではないと。
もともとは化合物の生物濃縮性(log Bio Concentration Factor)を自己組織化ニューラルネットワーク(SOM)で調べていた。ダイオキシンみたいなものが集まるHSPの領域やステロイドが集まる領域が見えてくるので、logBCFとして化合物が蓄積される場所のHSPは1つでは無いと思っていたので、同じことを皮膚でもやってみただけだ。
ところで、動物実験でうさぎが、よく使われるのは、どうも可哀想だ。
特にうさぎは、経口毒性や経皮毒性だけでなく、目への刺激性などもよく調べられている。
早く動物実験の代替法が確立すると良いと思う。
動物実験でも動物種によって毒性は異なる。ラットやウサギでは毒性が低くても猿や豚には毒性が高いことがあるから難しい。
HSPiPには、現在10,000化合物以上のデータベースを備え、LD50の情報も集積されている。
経口のLD50で最も一般的なのはラットに対するもので、皮膚に対する物ではうさぎが一般的である。
データベースから、LD50(oral, Rat)<180になるものを取り出してみた。
その中で、oral, Ratもskin,rabbitも毒性の高いものを抜き出すと次の様になる。
CAS | name | LD50(oral,Rat) | LD50(skin,rabbit) | logP | logS |
75-86-5 | acetone cyanohydrin | 18.65 | 15.8 | -0.03 | 2.00 |
107-19-7 | propargyl alcohol | 20 | 16 | -0.38 | 2.00 |
107-11-9 | allylamine | 102 | 35 | 0.03 | 2.00 |
107-18-6 | allyl alcohol | 64 | 45 | 0.17 | 2.00 |
107-07-3 | 2-chloroethanol | 71 | 67 | 0.03 | 2.00 |
1464-53-5 | Butadienedioxide | 78 | 89 | -0.28 | 2.00 |
111-44-4 | Di-(2-Chloroethyl) Ether | 75 | 90 | 1.29 | 0.24 |
Average | 0.12 | 1.75 |
ほとんどの化合物がlogS(水への溶解度g/100g)が2なので、完全に水溶性の化合物だ。
また、logP(オクタノール/水分配比率)も非常に小さい事がわかる。
私はどんな毒物であれ、境界を透過して血中濃度が高くなることが毒性発現の条件だと思っている。
うさぎの皮膚に塗った時に、水溶性の化合物が毒性が高いというのであれば、皮膚のどこかに水溶性の化合物を透過させるPathwayが存在していると考えても不思議ない。
それが穴のない親水膜なのか、汗を放出させる穴、毛根沿いの穴なのかは分からない。
これらは特にアルコールなどの化合物なので、HSPのうちδH,水素結合項が効くようなPathwayだろう。
次にoral, Ratは毒性が高いが、skin,rabbitは毒性が低いものを抜き出してみた。
CAS | name | LD50(oral,Rat) | LD50(skin,rabbit) | logP | logS |
591-87-7 | allyl acetate | 130 | 1021 | 0.97 | 0.31 |
109-75-1 | vinylacetonitrile | 115 | 1410 | 0.40 | 0.53 |
13952-84-6 | sec-butylamine | 152 | 2500 | 0.74 | 1.05 |
79-22-1 | methyl chloroformate | 60 | 7120 | 0.14 | 0.97 |
126-98-7 | methacrylonitrile | 120 | 12500 | 0.68 | 0.41 |
Average | 0.59 | 0.65 |
その様な化合物群は、水溶性が低く、logKowも大きめになってくる。
脂溶性という言葉はいい加減で、嫌いだが、このぐらいの脂溶性の化合物は胃や腸から吸収されて血中濃度が高くなると高い毒性なのだが、うさぎの皮膚に塗ってもPathwayを持たないのか毒性が低いという事だ。
最後に、Skin rabbitは毒性が高いが、Oral ratは毒性が低いものだ
CAS# | name | LD50(Oral Rat) | LD50(SkinRabbit) | logP | logS |
91-17-8 | Decalin | 4170 | 6 | 4.2 | -4.05 |
140-67-0 | Benzene, 1-methoxy-4-(2-popenyl)- | 1230 | 5 | 3.47 | -1.75 |
3680-02-2 | Methyl Vinyl Sulfone | 570 | 32 | -0.75 | 1.69 |
930-68-7 | 2-cyclohexenone | 220 | 70 | 0.61 | 0.56 |
107-14-2 | Chloroacetonitrile | 220 | 71 | 0.45 | 1.00 |
Ave. | 1.596 | -0.51 |
この場合のlogPとlogSは大きく変動する。
胃や腸から吸収されにくく、皮膚からは血中に移行して毒になるというのは、どういう意味なのかは私には良くわからない。
私に言えることは、こうした化合物のHSPを使って毒性のSOMを描くと、ものすごく考える足しになるということだ。
それは、両動物のLD50が存在する化合物は限られるが、片方だけでもデータがある化合物はもっと一杯あるからだ。
この道の専門家がSOMを使って解析して、動物実験削減に繋がれば良いと思う。
「ラットやうさぎのLD50, 経口と経皮の違い」への1件のフィードバック