コロナ用経口薬のハンセン溶解度パラメータ(HSP)は分子を3つに分けて解釈すると良いという事を書いてきた。分子を分割して部分ごとのHSPを求めるやり方は、アバター・チュートリアルで説明したからもうお分かりだろう。塩野義のエンシトレルビル(商品名:ゾコーバ)も同じように計算してみた。
それでは、塩野義のエンシトレルビルのHSPとメルクのモルヌピラビルやファイザーのパキロビッドパック(ニルマトレルビル/リトナビルの混合薬)のHSPとどんな関係にあるのだろうか?
分子を分割して、部分ごとのSmilesの構造式を作成する。
HSPiPのY-MBを使って各SMILESのHSPを計算すれば、1分でこんなテーブルを手に入れることができる。
No. | Solvent | δD | δP | δH | Color | MVol | SMILES |
1 | モルヌピラビル | 18 | 9.1 | 14.3 | 1 | 246.7 | CC(C)C(=O)OCC2OC(n1ccc(=NO)[nH]c1=O)C(O)C2O |
2 | Mo-L | 15.6 | 5.1 | 6.1 | 1 | 115.9 | COC(=O)C(C)C |
3 | Mo-C | 16.4 | 7.6 | 13.5 | 1 | 140 | CC1OC(C)C(O)C1O |
4 | Mo-R | 20 | 10.1 | 16.1 | 1 | 102.4 | Cn1ccc(=NO)[nH]c1=O |
5 | ニルマトレルビル | 18 | 19.1 | 5.8 | 2 | 379.7 | CC(C)(C)C(NC(=O)C(F)(F)F)C(=O)N1CC3C(C1C(=O)NC(C#N)CC2CCNC2=O)C3(C)C |
6 | PF-L | 15.5 | 9.1 | 5.6 | 2 | 163.8 | CC(C)(C)CNC(=O)C(F)(F)F |
7 | PF-C | 18.4 | 13.1 | 7.5 | 2 | 183 | CNC(=O)C1C2C(CN1C(C)=O)C2(C)C |
8 | PF-R | 18 | 12.6 | 7.2 | 2 | 139 | CC(C#N)CC1CCNC1=O |
9 | リトナビル | 20 | 10 | 4.5 | 4 | 580.9 | CC(C)c4nc(CN(C)C(=O)N[C@@H](C(C)C)C(=O)N[C@@H](Cc1ccccc1)C[C@H](O)[C@H](Cc2ccccc2)NC(=O)OCc3cncs3)cs4 |
10 | Ri-L | 19.2 | 8.7 | 9.9 | 4 | 240.7 | C[C@H](O)[C@H](Cc1ccccc1)NC(=O)OCc2cncs2 |
11 | Ri-C | 18.2 | 10.2 | 7.4 | 4 | 286.8 | CC(C)[C@H](NC(=O)N(C)C)C(=O)N[C@H](C)Cc1ccccc1 |
12 | Ri-R | 17.4 | 4.6 | 4.8 | 4 | 142.9 | Cc1csc(C(C)C)n1 |
13 | Ensitrelvir(塩野義) | 20.7 | 10.6 | 3.4 | 6 | 351.8 | Cn1cnc(CN2C(=O)N(Cc3cc(F)c(F)cc3F)C(=N\c3cc4cn(C)nc4cc3Cl)\NC2=O)n1 |
14 | En-L | 17 | 4.5 | 3.7 | 6 | 118.4 | Cc1cc(F)c(F)cc1F |
15 | En-C | 18.4 | 13 | 5.9 | 6 | 188 | CN=c2[nH]c(=O)n(Cc1ncn(C)n1)c(=O)n2C |
16 | En-R | 19.4 | 5.8 | 4.2 | 6 | 146.8 | Cc2cc1cn(C)nc1cc2Cl |
薬をMaterials Informatics(MI)で扱いたいだけならこれで良いだろう。後はAIが考えてくれる。
しかし、人間が理解しようとすると、ちょっと厳しいかもしれない。
そこで、このデータをハンセン空間にプロットしてみる。ハンセン空間というのは、δD,δP,δHをX,Y,Z軸にプロットしたものだ。(δDのX軸だけ倍に広げてある。)
大きな球が4つ、小さな球が12個表示されているだろう。
赤い球はモルヌラビル
マゼンタの球はニルマトレルビル
水色の球はリトナビル
青い球は塩野義のエンシトレルビルを表している。
大きな球は分子全体のHSP,対応する色の小さな球は分子の左側(L)、真ん中(C)、右側(R)の構造部分のHSPを示している。
画面の中でマウスをクリックしたまま動かし(ドラッグし)て見やすい位置を探してみよう。球の中心あたりをクリックすると画面左上に部分の名称が現れる。
(Shiftキーを押したままドラッグすれば拡大・縮小する)
モルヌラビルは少し離れた位置にいる。
ファイザーのニルマトレルビル/リトナビル混合薬(パキロビッド)と塩野義のエンシトレルビルの位置関係を良く見てみよう。
塩野義のエンシトレルビル(青色)の大きな球はリトナビル(水色)の大きな球と同じような位置にいる。つまり両者の全体としてののHSPはほぼ同じになる。
また、塩野義のLとリトナビル-Rはほぼ同じHSPになっている。
塩野義のCはニルマトレルビル(マゼンタ)のC,Rとほぼ同じ位置にいる。
これらの事を考えると、ぜひ試して欲しいのは、
ファイザーのニルマトレルビルと塩野義のエンシトレルビルの混合薬だ。
塩野義のRが何か役に立っているのか?わかったら面白い。
HSPiPでこのようなプロットを行う方法を模索している。
投票が増えたらアバター・チュートリアル化することも考えるかな。
今のプロットはSphereViewerというJavaScriptの自作ソフトだ。
pirikaの研究会のメンバーには使いかたを教えていたりする。そちらの方が先にチュートリアルになるかもしれない。
読んだ人のリアクション次第だ。
もちろん薬屋さんがネギ背負って来てくれればもっと良い。
HSPiPの開発を一緒にやっているAbbott教授が、日本語のブログを読んで、すぐにプログラムを修正してくれた。
ちょっとやり方を学んでみよう。
「薬屋さんがネギ背負って来てくれれば」の意味がわからず色々調べたようだ。
(Googleではカモネギが出てきて、相手を騙すこととあるようだ)
これが近いのかと聞いてきた。
“To cry with one eye like a donkey”(ロバのように片目で泣く)
“To cry crocodile tears”(ワニの涙を流すこと)
その意味は
“to pretend to be sad about something”(何かを悲しんでいるふりをすること)
ちょっと違う気がする。
ネギ(研究費)持って来てくれたら、美味しい鍋(研究成果)を食べるのに参加させてあげるって事で、騙そうって言う意味はない。ただし、鍋を囲めるのは一業種一社の早い者勝ちだけど。
「塩野義のゾコーバ緊急承認。他の薬とのハンセン溶解度パラメータの関係」への3件のフィードバック