フルゾーン翼の攪拌動力

2004.5.10

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フルゾーン翼の攪拌動力 

ながれ22(2003)201-207.

「ながれ」なんて雑誌取っている図書館なんてそんなに多くはないでしょうが、この論文はインターネット上からもPDFファイルで入手できました。

高効率攪拌翼の開発、神鋼パンテツク、高 田 一 貴
(KEY WORDS): Mixing, Numerical Simulation, Mixing Time, Paddle Impeller, Double Herical Ribbon

この論文もどちらかというと論文というよりは技術資料のような物です。神鋼パンテツクが開発したフルゾーン翼について解説しています。

化学工学で、特に高分子の合成では最初しゃばしゃばな液体から最後は水飴のような物を撹拌しなければなりません。そうした粘度が最初と最後で大きく変わるモノを撹拌する撹拌翼にどのようなものを使うかは自分も悩みの種でした。

このフルゾーン翼は上の図から広いレイノルズ数(Re)で利用可能であることがわかります。このレイノルズ数は

Re=d(nd)ρ/μ 
d:撹拌翼の翼径、n:回転数、ρ:密度、μ:粘度

で表されます。粘度が高いほどRe数は小さくなり、液体の流れは層流になります。
粘度が低い所ではRe数は大きくなり流れは乱流になります。

この図の縦軸は動力数です。アンカー翼、インペラー翼では低粘度の液体(Reが大きい)を撹拌するにはいいですが、Re数が100ぐらいになるととたんに撹拌動力が大きくなって行きます。

これは同じ回転数を保つ為にエネルギー(モーター出力)がものすごくたくさん必要になるという事を示しています。
自分はそんな事も知らずにアンカー翼でポリマーを合成している際に中が高粘度になりすぎて、そして回転数をキープしようと出力を上げすぎてシャフトをひん曲げてしまった事があります。

この時にフルゾーン翼を使っていればそんな事にはならなかったでしょう。

今回、ニューラルネットワークにはこの図4の線図を学習してもらいます。

例えば動力数を定式化したものとして、翼幅 b の2枚羽根パドル翼に関する永田の式があります。

これは動力数を求めるのに非常に複雑な数式をくみ上げます。
邪魔板があったり無かったりで数式が微妙に変わってきます。
しかも翼が変わったらもう使えなくなってしまいます。
そして実際には装置の形状因子などの問題があってリアクターごとにこうしたReーNp(動力数)線図は作り直さなければなりません。

すると解析的な動力数を計算する式は無くいつもボロボロになった線図と首ったけで回転数をコントロールしなければならなくなります。

こうした問題に対してこの線図のRe数とNpを読み取ってニューラルネットワークに学習させてしまえばReを入れるとNpを返してくれるネットワークが出来上がります。

具体的には図4をTiffでセーブしてマック用のソフトGetPointXというソフトにかけます。
このソフトは(先にX、Y軸を設定し)任意の点をマウスでクリックするとRe数とNpを読み取ってくれます。

そうして目的変数であるNp(動力数)に対して説明変数としてレイノルズ数(Re)とどんな翼を使ったかを0,1で入れた上のようなテーブルを作りニューラルネットワークで学習します。

学習した結果は図4とほとんど完全に一致しているのがお判りいただけると思います。

こうして学習が終わると任意のRe数と撹拌翼のタイプを入れると動力数を返すアプレットが出来上がります。

JavaScriptのプログラムを使って実際にやってみよう。

最初はReに直接数字を入れてみてください。
10,100,1000と入れて撹拌翼を変えて動力がどう変わるか試してみてください。

Re数が10ぐらいだとフルゾーン翼でなら撹拌できるけどアンカー翼では撹拌できないのがお判りいただけると思います。

さらに粘度や翼径、回転数をいじってRe数がどう変わるか試してみて下さい。
スケールアップによってReがどうかわるかおわかりいただけると思います。

http://irws.eng.niigata-u.ac.jp/~chem/itou/ce/pown.html

に撹拌に必要な動力数に関して非常にいい解説が載っているのでぜひ参考にしてください。

ニューラルネットワークによる学習は、Big Dataが必要だったり、過学習が起きたり大変なことが大い。
こうした範囲が決まっていて外挿する必要がない。
粘度などの条件が逐次的に変化し、その時の計算値を得たいなどという時にはNN法もとても便利に使える。


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