2024.9.14
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共重合ポリマーの物性推算
複雑なポリマーのデータベース化 -2018.9.7も参照して欲しい。
ポリマーがつぎのようにシーケンスに違いがあった時にポリマーの物性はどうなるのだろうか? レジスト用のポリマーは特にガラス転位温度(Tg)や結晶融解温度、ファンデルワールス体積がシーケンスによってどう変わるのかが知りたい所だ。
AAAAAAAAAABBBBBBBBBB (ブロック)
ABABABABABABABABABAB(完全交互)
AABABBBABABAABABBBAA(ランダム)
これには修正Gibbs-Dimarzio式が使える。これはAの単独ポリマーのTgをTgA、B単独ポリマーのTgをTgB、そしてABの完全交互共重合のポリマーのTgをTgABとする。シーケンス(ダイアッド%)が分かって入ればそのポリマーのガラス転位温度は次のように書ける。
Tg = TgA*faa + TgB*fbb + TgAB*fab
通常はこのfaa,fab,fbbはNMRなどの分析の結果からきめる。しかしB3LYPの遷移状態から頻度因子、活性化エネルギーを得て計算するシーケンス解析を利用できるので、シミュレーション結果を使う事にする。
ここでMaleic Anhydrid(無水マレイン酸)とStyrene(スチレン)を50:50、60度で重合してみる。
簡単にポリマー中のシーケンスが得られる。(本来は、重合に従って組成も分子量も変化するがここでは無視)
Diad %
A-A: 1.39% A-B: 40.52%
B-A: 40.52% B-B: 17.58%
単独のポリマーのTgは実験的に求まっているものが多いが、全交互共重合のポリマーのTgは実験的には求める事ができない。そこでfaa,fab,fbb、TgA,TgBが既知のポリマーのTg点から逆にTgABを決定すると言う事が一般には行われている。
ここでは、Van Krevelen法を使ってポリマーのTg点を推算する。
PCode=50107 Poly(maleic anhydride)
O=C1OC(=O)C([X])C1[X]
Tg Calc [K]: 285.54
PCode=50138 Polystyrene
[X]CC([X])c1ccccc1
Tg Calc [K]: 372.54
Poly(maleic anhydride – styrene)
O=C2OC(=O)C(CC([X])c1ccccc1)C2[X]
Tg Calc [K]: 344.69
Tg = 0.0139*285.54 + (0.4052+0.4052)*344.69 + 0.1758*372.54
=349
無水マレイン酸の共重合に関しては次に論文を参照して欲しい。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/koron1944/27/300/27_300_276/_pdf
推算結果は大きくずれている。
Van Krevelen法の無水マレイン酸、Tg推算結果が悪いのだと思われる。maleic anhydrideは単独重合しないので、パラメータが悪いのかもしれない。
HSPiPユーザーはY-PBで計算してみて欲しい。
以降、2005.1.14の古い記述。
ここでは原子団寄与法にもとづく物性推算アプレットを利用します。このプログラムを使うと分子を描くだけでTgや結晶融解温度、ファンデルワールス体積を推算します。
水色の部分に無水マレイン酸の構造を描きます。そして末端をXで閉じます。このXからXの間がポリマーの繰り返し単位になります。マウスを画面上で押し、押したままずりずり動かして離します。離した所に炭素が現れます。原子を変えたい時は同じ原子上でマウスを押して離します。原子(原子団)のボタンがあらわれるので押して下さい。2重結合は結合をなぞって下さい。描き終わったらCalcボタンを押すと推算値が現れます。
同じようにポリスチレンの物性推算です。
このように描けば無水マレイン酸とスチレンの完全交互強重合体の物性推算になります。
この結果とシーケンス解析の結果を使うと、無水マレイン酸とスチレンを50mol%づつ60度で反応させたポリマーのガラス転位温度は
Tg= 285.5*0.01413 + 372.5*0.1746 + 330.3*0.81126
337度という推算値になります。
もともとかなり完全交互共重合に近いのでその330.3度に近い答えになっています。
この結果がどのくらい実測値に近いかどうかはさておき、こうしたことがデータベースを一切使わずにできる事をここではアピールさせて頂きたいと思います。
データベースを使った場合、反応性比も溶媒が違う、反応温度が違うなどで中々ぴったり自分の系にあったものを見つけるのは大変です。例えば成長反応速度がほとんど同じ値でも溶媒にDMSOを使ったものとDMFを使ったものではモノマー自体の活性はどちらが上なのでしょうか? ぴったりした値が結局判らずにデータベースを利用できずに実験を繰り返すといったポリマー設計が非常に多いです。
今回もポリスチレンのTgを調べようとPOLYINFOというデータベースへアクセスしたのですが、これだけシンプルな単独ポリマーであっても物性値はばらつきが大きくどれを使うかは悩ましい所です。ましてや共重合のデータやシーケンス情報まで含めた物性はほとんど見つかりません。
そうした時にこうした遷移状態データベースとその推算システムがあれば容易にスクリーニングを行う事ができます。推算結果は真空中の誘電率1の時の十分希薄な系でのシミュレーションです。温度を変える事はできますが溶媒の種類を変えたり重合方法を変えたり(溶液重合、バルク重合、乳化重合、懸濁重合)した時の予想値はまだまだ研究者の資質に頼るところがあります。
しかし、ニューラルネットなどはあわなければそのデータをフィードバックしてあうように変えて行く事ができます。そうした事を繰り返して行くとだんだん賢いシステムが出来上がって行きます。
もしチャンスがあれば次にはそのような系について調べてみようと思います。
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