2022.9.5改訂 (2010.10.7)
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概要
ハンセン溶解度パラメータ(HSP)で考える副生成物の抽出除去:リチウム電池用のカーボネート系溶媒から副生成物を抽出除去する溶媒を探索してみる。副生成物が良く溶け,主生成物が溶けにくい溶媒の探索方法。使い方が分かりづらいというユーザーにハンズ・オンで説明した。その説明の改訂版。最適な抽出溶媒のHSPがわかったら、そうしたHSP値を持つ化合物をデータベースから探索する方法、混合溶媒の設計方法を解説する。
内容
HSPiPのユーザーから相談を受けた。
HSPiPは色々なことができそうだし、導入したのだけど、Tabやボタンがたくさんありすぎて、何をどうやっていいのか分からない。マニュアルも(有償だけど日本語版もある)あるので、それを読めば良いのだろうけど、膨大すぎて取り付きにくい。
猿にでも分かるように簡単に説明してくれないか? というものだ。
そこで、実際にハンズ・オンで使い方を説明した。
実際のターゲットは当然明らかにできないが、副生成物の抽出除去が問題になっている。そこで今回はそのハンズ・オンで行ったことを、別の例題でやってみる。
そこで何か良い例題は無いかと特許を調べたらリチウム電池用の溶媒で面白いものがあった。
このエチルの1の部分にフッ素が導入されたカーボネートは、
「これ を用いて作成したリチウム二次電池が、一般に用いられるジメチルカーボナート(DMC)を用いて作成した電池よりも、リチウム極の充放電効率が高く、サイクル寿命が長く、さらに低温において非常に高い放電容量を有していることが示されている」
「高い放電容量残存率が発現」「高い保存特性が得られる」と特許に記載されている。
ところが、作り方によっては、ジフルオロ体やトリフルオロ体が生成し、これらは物性を下げるので好ましくないとある。
(特許自体は選択的に1の位置を1つだけフッ素化するものなので関係ないが)こうした副生成物を抽出除去したいと仮定してHSPiPをどう使うかを説明する。
(当然,最初に考えるのは蒸留分離だろうけど,そこは目をつぶってください。)
抽出の基本的考え方は、ある溶質があったときに、そのハンセン溶解度パラメータ(HSP)と溶媒のHSPで、そのHSPベクトルがどちらに似ているかを調べることから始める。
これらの構造のSmilesの構造式を得るのが最初の作業だ。
HSPiPにはJSMEという分子のお絵描きプログラムが付属している。JSMEでお絵描きすると簡単にSMILESの構造式を得ることができるのでぜひ使い方は覚えておこう。
それをスプレッド・シートにコピーして次々に副生成物と思われる構造を書いてSmiles構造式をC/Pしてスプレッド・シートにまとめる。
実際に描いてSmilesを得るのが望ましいが、忙しい方のためにデータを提供しよう。エクセルなどにコピペして使って欲しい。
ここまでの所用時間は、10分程度だろう。
これが準備できたらHSPiPを立ち上げる。
バージョンによってメイン・パネルに表示されるGUIは異なる。
初期画面に何が出ているかは、ユーザーごとに違うだろう。最後に読み込んだファイルが表示されている。ここで赤丸で印した、δのボタン(最新版ではDIYボタンになっている)を押す。するとDIYのパネルが現れる。
そして一番左のY-MBが選択されている事を確認しよう。
そして、Smiesのインプットの所に、先ほどのスプレッド・シートからSmilesの式を1つコピーしてペーストする。
(最新版ではFull data to Clipboardにチェックを入れておこう。さもないとHSPしか計算しない。)
そして右の電卓マーク、計算ボタンを押す。
するとプログラムがSmilesの構造式を解析して原子団に分割し、様々な物性値を計算する。
この計算結果はクリップボードに入っているので値を控える必要は無い。
スプレッド・シートにペーストする。
タイトルが要らなければNo Headerにチェックを入れる。
1回目はタイトルごとコピーしてC1にペーストする。
次からはデータだけC/Pする。
すると、5分もかからずに、各化合物のHSPの値と物性値の推算値一覧が得られる。
MVolより後ろのデータはいらなければ削除してもよい。(粘度や蒸気圧の推算値はリチウム電池の溶媒としては重要かもしれない。適宜利用してほしい。)
例えばFの1置換体のHSPを見ると、副生成物のHSPは幸いな事に良く似ている。ここで似ているというのはHSP距離で評価する。
HSP距離
HSP distance(Ra)={4*(dD1-dD2)^2 + (dP1-dP2)^2 +(dH1-dH2)^2 }^0.5
(dDの前には4と言う係数が入ることに注意しましょう。)
そこで目的物のHSPから副生成物のHSPに線を引き、その延長上のHSPの溶媒を使えば副生成物だけが良く溶けると考えられる。(HSPの基本的な考え方、似たベクトルは似たベクトルを良く溶かす。)
そこで、dDが16.5〜17.5、dPが7〜9、dHが2〜4の溶媒が無いかHSPiPを使って探索してみる。
溶媒の探索はメイン画面のFindMolsを使って行う。
これを選択するとHSPの範囲、沸点の範囲を使って溶媒を探索する。
探索に使うものにレ点を入れ電卓ボタンを押す。
すると9種類の溶媒が探索された。
ほとんどが塩素系の溶媒だ。
この探索はオフィシャルなHSPを決めてある1200化合物に対して行われる。
10,000setにレ点を入れると、残りの8800化合物のHSP推算値を含めて探索が行われる。
そして、これはという溶媒があったら実際に抽出試験を行う。
ここまで、20分もあれば候補溶媒が得られる。
Drag=回転, Drag+Shift キー=拡大、縮小, Drag+コマンドキーかAltキー=移動。
画面中の小さな球(溶媒)をクリックすれば溶媒の名前が現れる。赤い球が目的物のHSPを示している。青い球が副生成物のHSPだ。緑色の球が1,2ジクロロプロパン[17.3, 7.1, 2.9]を示している。副生成物のHSPは1,2ジクロロプロパンに近く、目的物からは遠い事が判るだろう。
そして、実際の抽出試験の結果が出たら、その値を使ってさらに最適化を進める。
(これについては、また別途説明しようと思う。)
最終的に最適な溶媒が見つかったら、(特に今回みたいに塩素系の溶媒だらけでそれを使いたくない場合には特に)安全で、安く、その後の分離が容易な沸点差がある混合溶媒を探索したくなるかもしれない。
例えば、溶媒としてNo.1221の1,2ジクロロプロパン[17.3, 7.1, 2.9]が最適だったとしよう。
HSPiPのメイン画面でO(ptimize)のボタンを押すと溶媒最適のペインが現れる。
そこのターゲットの部分に目的の溶媒のHSP値を入れて、2のボタン(これは2成分の最適溶媒を探す)を押す。
するとシクロヘキサン:γ-ブチロラクトンを58:42の容積比率で混ぜたものがその値に近い、と答えてくれる。
混合溶媒のHSP
[dDm, dPm, dHm]=[(a*dD1+b*dD2), (a*dP1+b*dP2),(a*dH1+b*dH2)]/(a+b)
混合比率は体積分率で計算する。
この最適溶媒のリストは自分専用のものも作れる。普段使う溶媒を登録しておけば、よく使う溶媒の混合溶媒が得られるので慣れてきたらやってみると良い。
実際の実験をどの段階でやるかは、悩ましい。単独溶媒で良いものが無かった段階で、最初から混合溶媒を探して、それで実験するのもいいかもしれない。
ただ、実験値からさらに最適化するのであれば、混合溶媒を使うにしても、ある程度の多様性を持った溶媒(HSPがある程度幅をもった)で行う事をお勧めする。
それは、ここで使った溶質のHSPはあくまで推算値で、実はもっと違う値かもしれない。実験結果が違う所に来て解析した場合に、これらの化合物の本当のHSP値が実験的に求まることになる。
何にせよ、HSPiPを使うと、30分もあれば、「よし! これで試してみよう」と思える抽出溶媒が見つかるというのが、今回の記事のポイントだ。
ターゲットは各人読み替えて試してみて欲しい。
実際の抽出がHSPでどのくらい理解できるかはこちらのpirika記事を参照していただきたい。
アミンなどに使うのはお勧めしない。
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