辛みとハンセン溶解度パラメータ(HSP)

2022.11.24改訂(2010.3.30)

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概要

この辛みというのは実は味では無い。感覚的には痛みに属するらしい。
味であれ痛みであれ、味蕾だかなんだかのレセプターに、化学物質が溶けこんでくるので刺激として認識出来るのであろう。

このレセプターに対する溶解性をHSPを用いて解析してみた。
HSPだけではどうも説明できないようだ。
また、辛くはないが、脂肪燃焼作用のある化学物質の溶解度パラメータを解析してみた。

内容

自分は辛い食べ物が大好きだ。

唐辛子などの辛みはTRPV1というレセプターによって認識されているとあった。

TRPV1: transient receptor potential protein vanilloid receptor subtype 1 (43℃<)このレセプターに対する溶解性をハンセンの溶解度パラメータを使って解析してみる。
まず、自作の天然ハーブのデータベースから辛みをもつ化合物を抜き出してみた。

HSPiPを使うと、化合物のSmilesの構造式を用意するだけで、その化合物のHSPと分子体積などを計算してくれる。

結果をまとめると、下のテーブルのようになった。

NoNamedDdPdHVolume
1 pellitorin16.36.46.6246.7
2Spilanthol16.46.87.3238.0
3α-Sanshool16.46.57.2264.0
4Tadeonal17.58.96.3227.6
5gingerol17.86.511.5276.6
6capsaicine17.87.810.1290.6
7Piperine18.77.27.8242.4
8chavicine18.77.27.8242.4

この結果から見ると辛み化合物のHSPの平均値は [17.4, 7.2, 8.1] 、分子体積は 253.5である事がわかる。

構造は違っていてもHSPは良く似ている事が分かる。特に4の構造は他のものとずいぶん異なる。

2011.4.25

Drag=回転, Drag+Shift キー=拡大、縮小, Drag+コマンドキーかAltキー=移動。

ハンセンの溶解度パラメータ(HSP)がどのくらい離れていたら、似ていなくて、どのくらいなら似ているのかは初心者には判断が付きにくいだろう。溶媒をクリックすれば溶媒の名前が現れる。溶媒はHansen博士が最も広くHSP空間にちらばるように選定した85溶媒のHSPを3次元にプロットしてある(青い球)。その一番広い空間上に目的の化合物がどこにプロットされるかで判断してほしい。

この溶質をレセプター、辛味を持つ化合物を溶媒と考えると、 TRPV1 レセプターのHSP(溶解度球の中心)は平均値の [17.4, 7.2, 8.1] に近いだろうと思われる。(緑色の大きな球の中心)

HSPiP ver. 3 には”Find Molecules”という機能が搭載された。
これを使ってカプサイシンと同等のHSPを持つ化合物を探索してみる。カプサイシンが出てくるのは当たり前だが、15化合物が探索された。

CAS# 499-44-5 檜チオール    
Iyral
CAS# 31906-04-4

例えば上記の構造などが相当する。
もし口に入れる勇気のある人が居たら結果を是非教えてほしい。

Iyral [17.27, 7.61, 10.37] は香料に使われているが、これはアレルゲンとされているので口に入れるのはお勧めしないが….。

味の素が”カプシエイト”というカプサイシンの同族体を開発した。
これは唐辛子のような脂肪を燃焼させる機能を持ちながら、辛みは1/1000だそうだ。
辛いものが苦手でもダイエットできると評判になっている。
この構造はカプサイシンのアミドの部分がエステルに変わったものだ。

CapsiateのHSPは [17.6, 5.6, 7.9]になる。

ショウガは gingerolという辛み成分を持っている。
そして gingerolは加熱されると shogaolに変わる。
この shogaolはそんなに辛くないが、風邪のひき始めに飲む生姜湯はやはり脂肪を燃焼させるのか、体が温まる。

ShogaolのHSPは[17.8, 5.8, 8.5]だ。これはカプシエイトのHSPとほぼ完全に一致する。

ユーザーからメールを頂いた(2010.4.4).

Para Hydroxy Phenyl Butanone (Raspberry ketone) はカネボウ食品が開発した、辛くなく、脂肪を燃焼させる能力はカプサイシンの3倍あるということだ。

この化合物のHSPは [18.4, 7.2, 10.5]になる。
この化合物のHSPはカプサイシンのものとほぼ同じだ。

だとすると、TRPV1 レセプターはHSPだけで効いているのでは無いことになる。

脂肪燃焼酵素(リパーゼ)は比較的HSPだけに依存しているのだろうか?

HesperidinのHSPは配糖体の部分をMeエーテルで計算すると、[19.2, 8.4, 15.5]になる。

Tamiflulの所でも書いたが、チンピからとれるこの構造は、体を温める作用があるとあった。左のフェノール性のOHが無ければ、 [19.5, 9.0, 11.8]になる。
誰か合成して飲んでみてくれないかなー?

こんな事を書いていたら、カプサイシンやカプシエイトはおなかの中で加水分解するので、実体としてはdHはもっと高いのではないかと指摘をいただいた。

そうかもしれないですね。こうしてみると、辛味はHSPだけでは整理がつかず、水への溶解性、加水分解のしやすさ、分子の大きさ、PHなども大事なのかもしれない。

しかし、それにしてもHSPの考え方は有効であると思われる。

こうした化合物、ベンゼン環に水酸基とメチルエーテルがついたもの。

これは、クレオソート、つまり正露丸の臭いだそうです。

いったいこれはどんな作用をしているのか?

わさびの辛みに反応するのは違うレセプターでTRPA1だ。
TRPA1(<17℃)
このレセプターのHSPは [17.0, 12.5, 8.7]ぐらいだろう。
これらの化合物のHPLCの分析結果を入手した。

NameRetention timeVolumedDdPdHDistODSDistODS/V
Ethyl isothiocyanate5.57487.017.113.38.515.850.18
Allyl isothiocyanate6.13597.317.012.58.715.300.16
n-propyl isothiocyanate6.915104.116.911.77.614.050.14
beta-Phen​ethyl iso​thiocyana​te8.765148.919.18.96.112.150.08
Phenyl isothiocyanate11.031116.419.911.37.315.130.13

これまでの検討で、HSP距離を体積で割った値はリテンション・タイムと高い相関があることが分かっている。

ところが、フェニル・イソチオシアネートのHSP距離だけおかしな値になる。

このことは、芳香族に付加するイソチオシアネート基と、アルキル基に付くそれでは原子団の寄与率を変えないとダメであることを示している。

これは、次バージョンへの宿題だ。

対応するブラウザーをお使いなら、上のキャンバスに分子を複数描けばRTがどのくらいかを得る事ができる。詳しい分子の描き方はこちらを参照してください

医薬品の場合と異なり、味やにおいのレセプターの感度はそんなに高くないように思える。

HSPが似ていれば、その化合物はそのレセプターに溶けやすい。
何かが溶けてきたという信号だけでその感覚が刺激されているようだ。

2010.12.20

新聞で、帯広畜産大学の研究者が、蚊の口全体にTRPA1が働いて、これが獲物の熱を感知しているらしいと発表した。

このタンパク質の機能を麻痺させるような化学物質をかけると、蚊は熱源に反応しなくなるらしい。

どんな化学物質をかけたのだろうか? わさびをかけたら、自分のそばに居ても見つけられないのだったら面白いな。

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