2022.11.24改訂(2010.12.13)
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概要
Mark-Houwink parametersの値を収集した。このパラメータとHSPの関係を検討した。ポリマー溶液の粘度は、接着剤に使う場合、インクジェットのインクに使う場合、ポリマー膜のキャスト溶媒、化学工学上のプロセスデータなどに非常に重要な物性値である。
これが構造のみから予測できると応用は広がる。
内容
Mark-Houwink parameters(WikiPedia) の値を収集してデータベースを作成した。このパラメータを使うとポリマー溶液の固有粘度が計算できる。
[η] = KMa
そこで、Kの値、aの値と溶媒の種類、使える分子量の範囲、測定温度を様々なポリマーについて集めてみた。
このaの値は、
シーター溶媒(Theta Solvent)の時には0.5になる。
典型的な良溶媒では0.8、フレキシブルな高分子では0.5から0.8の間、剛直になると0.8以上になるとされている。
このデータを集めている時にたまたま、Kとaの関係を調べてみた。
ポリスチレンの例で示そう。
データ数、121のKとaの値を33種類の溶媒について集めた。
(測定温度と式の使える分子量範囲は系によって異なる。)
そしてそれをプロットしてみると下のようなグラフが得られた。
数点、(特に分子量のとても小さな系や、測定温度がとても高いデータポイントなどで)おかしな点もあるが、とてもきれいな相関が得られた。
つまり、分子量がある程度大きな、ちゃんと溶解している高分子溶液なら溶媒の種類、測定温度に依存しないでKの値はaの値から推算することができるという事をこの図は示している。
そして、これはポリスチレンに限った事ではない
Ethylcellulose | Poly(methyl acrylate) |
Polycarbonate | Poly(methylphenylsiloxane) |
Poly(vinyl acetate) | Polyacrylamide |
多くのポリマーと溶媒の組み合わせでKとaには同じような関係がある事が分かる。
温度の効果を見てみると、温度が高くなると、aの値が少しだけ大きくなる事が下の表から解る。
しかし、温度の効果はあまり大きくない。
Solvents | Temperature C | MW 10^-4 | MW 10^-4 | K 10^3 | a |
Carbon tetrachloride | 10 | 1.8 | 180 | 12.6 | 0.717 |
Carbon tetrachloride | 20 | 1.8 | 180 | 12 | 0.72 |
Carbon tetrachloride | 30 | 1.8 | 180 | 11.4 | 0.724 |
Carbon tetrachloride | 40 | 1.8 | 180 | 11.2 | 0.725 |
Carbon tetrachloride | 50 | 1.8 | 180 | 11 | 0.726 |
次にポリスチレンのHSPと溶媒のHSP距離を、aの値とプロットしてみた。
HSP距離が短くなると、aの値が大きくなる事が上の図から解る。
もともと、HSP距離がSphereの半径8よりも短い場合には、その溶媒はポリスチレンの良溶媒である事が分かっている。
そして、その相互作用半径8ぐらいの溶媒は、溶解するかしないか境界になるので、 theta solvent (“a” =0.5)の時に、HSP距離が8になるのは非常に理解しやすい。
そして、HSP距離がさらに短い(良溶媒になる)につれ、ポリマー鎖は大きく広がって、粘度が高くなるのでこのような相関は非常にリーズナブルであると言える。
実際にどの溶媒がハンセン空間上でどの位置に来るか見てみよう。
Drag=回転, Drag+Shift キー=拡大、縮小, Drag+コマンドキーかAltキー=移動。溶媒をクリックすれば溶媒の名前が現れる。
赤い球がスチレンをよく溶解する溶媒。青い球があまりよく溶解しない溶媒だ。大きな球はポリスチレンを表している。緑色と水色、黄色はスチレンのSphereの半径を8,6,4と変えたものだ。
粘度を測定する以上全く溶かさない溶媒は入っていない。HSP距離が8に入るような溶媒(theta Solvent)がどんな物かが判るだろう。
中心に近い溶媒はよく溶解して粘度が高くなる。
そこで、全く未試験の溶媒や混合溶媒であっても、HSP距離を計算すれば、おおよそのaの値は得る事ができる。そしてaの値が手に入れば、最初の図からKの値が手に入り、固有粘度が予測できる。
ポリマー溶液の粘度は、接着剤に使う場合、インクジェットのインクに使う場合、ポリマー膜のキャスト溶媒、化学工学上のプロセスデータなどに非常に重要な物性値である。
これがポリマーと溶媒のHSP値から予測できる事は非常なメリットであると言える。
HSPiPのver. 3.1.xから定量的なSphere探索ルーチンが搭載された。
通常はポリマーの溶解度(g/100ml溶媒)の値を用いて定量的な計算を行うルーチンだが、このaの値を用いてポリスチレンのHSPを決める事もできる。
試しに計算してみた所、ポリスチレンのHSPは[18.1, 3.8, 4.0]となった。
aの値をHSP距離で再現したい場合にはこちらの値を使えば、最も再現性が高くなる。
2012.1.9
ニトロセルロース、酢酸セルロースの溶媒設計を自分でやってみよう(DIY)で解説した。
それにはこの固有粘度の定量的解析が必要になる。
環境問題、シックハウス原因物質について のページを参照してください。
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