ハンセン溶解度パラメータ(HSP)とオクタノール/水分配係数(logP, logKow)

2022.9.14改訂(2010.5.31)

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概要

医薬品や界面活性剤、リポソーム、いろいろなところでlogPの値が使われている。
生体脂質と水で化学品がどう分配するかを知る上で重要な指標だ。

しかし、この値は、あくまでも比率で、100/100でも0.01/0.01でも同じ値になってしまう。
それなのに、この値が意味があるのは何故だか考えた事があるだろうか?

溶解性が必要ならlogPに加え、ハンセンの溶解度パラメータ(HSP)を併用することの重要さを説明する。

内容

logP, logKow推算に関するまとめをこちらに置いたので参照して欲しい。(2012.1.17)実際の測定は、分液ロートにオクタノールと水、被検体を入れてシャカシャカ振って定量する。(現在ではHPLCでの測定も使われる。)

分液ロート

ハンセンの溶解度パラメータ(HSP)はある化合物が溶媒へどのくらい溶解するかを表す指標だ。

それに対して、医薬品などでは、LogP, logKow (オクタノール/水分配係数) が重要な指標になっている。
体の脂質へ体の外(水)から医薬品がどのくらい分配するかが重要だからだろう。
このlogPをHSPを使って理解しようと言う試みは昔からされてきた。

イメージ的には上の図に示すように,ある化合物のHSPのベクトルがオクタノールに近いか,水に近いかで分配係数を予測できないかというものだ。

ところが,いろいろなQSPRのモデルを作って検討を繰り返したのだが,全て失敗した。
HSPでは、HSP距離を使って、この距離が短ければ良く溶解する、長ければ溶解しないという、”似たベクトルは似たベクトルを溶解する”という原理を使う。

ここでは,このlogPについて詳細に検討した。

まず,官能基を持たない炭化水素化合物のlogPとHSPの値を取り出した。
tot HSP = sqrt(dD^2 + dP^2 + dH^2) (ベクトルの長さ)
官能基を持たない場合,dP(分極項),dH(水素結合項)は,ほとんどの場合0なので,totHSPはdD(分散項)そのものになります。
これとlogPをプロットしたのが上の図になる。

  • この結果から,logPが大きくなってもtotHSPはほとんど変わらない。
  • 環状の化合物のdDは鎖状の化合物のHSPより少し大きくなる。
  • 大きな分子のlogPは大きな値になる。

事が判る。

そして,このデータを基にQSPRモデルを作ろうとした。

この検討の際,たまたまなのだが,エクセルのファイル上でグラフを書いている時に,logPとHSPで使われるVolumeをプロットした。

すると,実に美しい相関関係があった。
そこで他の化合物についても調べてみた。

![](https://www.pirika.com/HSP/JP/Examples/Docs/images/LP4.jpg)

まず最初に,ハロゲン含有の化合物をHSPiPのデータベースから取り出した。

そのlogPと分子体積をハイドロカーボンのlogPに重ね書きして見ると見事に一致した。
分子体積は, F<Cl<Br<I の順に大きくなる。

しかし,こうしたハロゲン原子がlogPに及ぼす影響など全く考慮する必要は無い。
単に分子体積だけに依存している。
これは自分らのようにHSPをやっている立場から考えると非常に不思議だ。

しかしlogPに関してはそうなのだ。

次に芳香族の化合物を取り出してきて,そのlogPとHSPをプロットして見ると,やはりこれもきれいに炭化水素の線の上に乗る。

硫黄を持つ化合物の場合には,チオールになると炭化水素の線よりわずかに上に平行移動し,チオエーテルの場合さらに少しだけ上に平行移動する。

![](https://www.pirika.com/HSP/JP/Examples/Docs/images/LP7.jpg)

含酸素化合物の場合,炭化水素よりも上に平行な直線になるが,平行移動の量はアルコール,エーテル,ケトン,アルデヒドでどれも同じ値になる。

この結果も思いもしなかった結果だ。

最初我々はアルコールの線はエーテルの線より上に行くと考えていた。
アルコールは水溶性で,エーテルは油溶性という頭があったからだ。
ところが,アルコールは水にも溶けやすいが,その分オクタノールにも溶けやすく,結果として分配比率で見た時には同じになってしまう。

つまり、酸素が一つ入る事に寄って、官能基の種類にはよらずに、logPは2程度小さくなる事、逆に言えば、見かけ上の分子の大きさが50程度小さくなる事を示している。

このような傾向を示す化合物は、他には、ニトロ化合物、アミド化合物、ニトリル化合物、アミン化合物、カルボン酸化合物、カーボネート化合物、エステル化合物であった。

その中で一番平行移動の距離が大きいのはアミド化合物であった。

図10

官能基の数が変わった場合でも、上図に示すように、平行移動の距離が官能基の数に比例していると考えて問題が無いことが明らかになった。

図11

また、アルコール(OH),エーテル(ET),エステル(ES)の組み合わせであっても、logPは分子体積ときれいな相関がある事が分かった。

以上の事から、官能基一つあたりの平行移動量を重回帰計算によって求めてしまえば、logPは
logP=c*Mol Volume+Σ官能基の数*化合物の種類ごとの平行移動定数 式(2)

で表す事が可能となる。

上の図のように非常にきれいな相関式が得られる。
この結果は溶剤などの複雑でない主に液体の化合物の結果だ。
医薬品など複雑な構造の中・大分子ではここまでの精度はでない。

これを計算するのに必要なのは単に分子体積と官能基の種類と個数だけだ。

そこで、logPは原子団の数を使えば原子団寄与法で推算が可能になる。そこでclogPとかいろいろなソフトが市販されている。

2011.6.20

iOSマシンでも動くように、HTML5+CSS+JavaScriptで書きなおした。
Mac/iPad/PC版
iPhone/iPod touch版

これは何を意味しているのかと言うと,例えば膜の透過を考えた場合,見かけ上同じ大きさの分子でも,ヘテロ原子を入れる事によって体積の低下が起きているのと同じ効果をもたらすと言うことだ。

そこでこれまで,膜透過現象などにlogPの値が使われてきたのだろう。

ただしこれが成立するのは膜材が一定である場合だ。膜材の疎水性が変わったりすれば,同じ効果は期待できない。

このように,logPは単なる体積を示す尺度で溶解性を示す尺度ではないのでHSPから推算しようというのは無理があったという結論になる。

もし,logPでは説明できない,”溶解に関する”指標が必要ならHSPを試してみるのもいいだろう。

最近のlogPの値はHPLCから測定されているという話を聞いた。
ODSのカラムを使って、既知のlogPの化合物のリテンションタイムではさみうちにして、logPを決めるというやり方だ。
HSPを使ったHPLCのリテンションタイムは次のように説明されている。

HPLC & logP (OECD Guidelines for the testing of Chemicals)

子団寄与法で計算するlogPとHPLCのリテンションタイムの推算値、両方を統一的に扱っているソフトはHSPiPだけだと思う。

Y-MBによるlogKow推算

HSPiPには分子を原子団に分割し、様々な物性推算を行う機能、Y−MBが搭載されている。

Version 3.1 では5689化合物のlogPの実験値に対して、上図で示す推算性能の式が搭載されている。

さらに、Y-MB2014, Y-MB2019と進化するにつれ、推算の安定性は増している。

Smilesの式を入力するだけで予測値が得られるので、logPの値が必要な方はHSPiPを利用して欲しい。

新バージョンのパフォーマンスを環境ホルモンの化合物で試してみた
結果はこちらを参照して欲しい。

GROVE法を用いたlogKow推算式の構築

RDKitの識別子を利用したlogKow推算式の作り方

logKowを計算するJS アプレット

対応するブラウザーを使っているなら、上のキャンバスに分子を描けばlogPがどのくらいかを得る事ができる。詳しい分子の描き方はこちらを参照して欲しい

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