ハンセン溶解度パラメータ(HSP)とまたたび

2022.11.24改訂(2010.2.5)

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概要

猫がまたたびの匂いを嗅ぐとフレーメン反応(酔っぱらったような反応)をする。
これは猫の鼻にあるヤコブソン器官が刺激されるからと説明されている。

これを化学品がレセプターへ溶解するといった観点から、他の化合物について考察を行った。
実際の匂いという感覚は溶解度だけで決まるわけでは無いだろうが、最初のスクリーニングにはHSPは有効ではないだろうか?

内容

ハンセンの溶解度パラメータは、ある化学品がポリマーやレセプターとどのような相互作用をするかを示す指標だ。

”似たHSPのものは似たHSPのものに溶解しやすい”というのが基本コンセプトだ。

ある所とのコラボで漢方薬、天然由来化合物のHSPのデータベースを作っていた所、マタタビラクトンという化合物が出てきた。
ご存知のように、猫がこの匂いを嗅ぐとフレーメン反応(酔っぱらったような反応)をする。興味があったので色々調べてみた。

1:matatabi-lactoneMatatabi Fruit (from Wikipedia)

他にどんな匂いに反応するのかをネットで検索してみた。
すると

2:Actinidine
CAS# 524-03-8
Kiwifruit (from WikiPedia)

キウイはマタタビ科の植物なのでこの化合物に対しても、猫は強い恍惚作用を示すらしい。
エステルとアミンの違いはあるが形はよく似ている。

3:cis,cis-Nepetalactone
CAS# 490-10-8
Catnip (from WikiPedia)

イヌハッカはキャットニップ(猫が噛むという意味)ともいう多年草のハーブだ。
これはマタタビラクトンとほとんど同じ構造なので理解しやすい。

その他、センブリ、ミツガシワ、イワイチョウ、ケイガイ(荊芥)などの植物が同じような挙動を誘発するらしい。
その他、ネットを調べると、メントール入りのタバコ、石けん(特にすみれの香りのもの)ガム、湿布薬が大好きという飼い主の報告がネットにあった。
メントールとガム、湿布薬はメントールに反応しているのでは無いかと思う。

4:menthol
CAS# 1490-04-6
Mint (from Wikipedia)

すみれの香りはヨノンという化合物だ

5:alpha-lonone
CAS# 127-41-3
Violet (from wikipedia)

センブリは分からないが、センブリの有効成分は、Swertiamarinとされている。

これも環状ラクトンなので面白いが配糖体なのでここでは扱わない事にする。(配糖体の扱いはこちらの記事を参照)

そこで、1−5の化合物についてハンセンの溶解度パラメータ(HSP)を計算してみる。
HSPの計算にはHSPiPというソフトを使う。

合物のSmilesの構造式を用意すれば、Y-MB機能を使って簡単に計算してくれる。

まとめると、下の表のようになった。

namedDdPdHVolume
matatabi-lactone17.67.55.6166.7
Actinidine18.54.53.1152.2
Nepetalactone17.77.45.6161.8
menthol16.74.39175.8
alpha-lonone16.74.74.8208.7
Ave.17.445.685.62173.04

値の意味は他の記事を参照していただくとして、ネコが陶酔する化合物のHSPが求まる。
マタタビラクトンとネペタラクトンがほとんど同じHSPと分子体積になるのは当たり前としても他のものも比較的同じような値になる。

2011.4.25

Drag=回転, Drag+Shift キー=拡大、縮小, Drag+コマンドキーかAltキー=移動。

ハンセンの溶解度パラメータ(HSP)がどのくらい離れていたら、似ていなくて、どのくらいなら似ているのかは初心者には判断が付きにくいだろう。小さな球をクリックすれば溶媒の名前が現れる。
溶媒はHansen博士が最も広くHSP空間にちらばるように選定した85溶媒のHSPを3次元にプロットしてある。
その一番広い空間上に目的の化合物がどこにプロットされるかで判断してほしい。

HSPの理論は簡単だ。”似たHSPのものは似たHSPのものを溶かす”だ。

上でいう、緑球の中心がレセプターのHSPで、そのレセプターに溶けやすいものはHSPが似ているという原理だ。

ねこの鼻にあるヤコブソン器官のHSPが[17.4, 5.7, 5.6](化合物の平均値)であったらこれらの化合物が非常に良く溶解するということだ。
レセプターと化学品の相互作用は溶解だけでは無いのは当たり前だが、溶解しないことには何も始まらない。

まず、大きな領域からの絞り込みには有用であると考えている。

そこで次には、HSPiPのVer.3に搭載されたデータベースサーチの機能を使ってこのようなHSPの値を持つ化合物をサーチしてみる。

最大最小の範囲でサーチすると400化合物以上出てきてしまうので、マタタビラクトンとネペタラクトンに近そうなものだけに絞って、かつ分子の大きさも考慮してサーチすると41件の候補があがる。
その中で香料として使われている候補を見てみよう。

NOnameCAS#dDdPdHVolume
1Pulegone89-82-717.36.55.1162.5
2Cis-Jasmone488-10-817.264.8173.9
3verbenone80-57-917.77.14153.9
4mint lactone13341-72-517.97.35.7159.5
52-isobutyl-3-methyl pyrazine13925-06-917.36.25.4163.3
6wine lactone57743-63-217.77.55.6161.9
7dehydromenthofurolactone80417-97-617.97.15.8154.7
8allyl benzoate583-04-017.97.74.5154
9alpha-isopropyl phenyl acetaldehyde2439-44-317.96.84.7168.3

ラクトン環を持ったものは構造がマタタビラクトンとネペタラクトンに近いので、これならネコもたまらないだろう。
こうした香料が入っている石けんやら食品にネコがどういう反応をするのか、もし実験をされた方がおられましたらぜひメールをください。

このマタタビラクトンはゴキブリ蚊の忌避剤としても使われるらしい。
昆虫の誘引剤、忌避剤に人間に毒の無い香料が使えるのであれば非常に面白い。
しかし今のところそうした情報は企業秘密なのかあまりネットでは見かけない。
もしそういう研究をされている方がおられたら是非HSPiPを使ってみてほしい。

2010.7.22
なんと、この記事と、蚊の嫌いな匂いの記事に関して、さらに応用をやらして欲しいという話が舞い込んできた。

HSPチームとしては、HSPiPを大口購入してくれるユーザー様が、特許、論文で先の応用をやってくれる事は大歓迎ですとお伝えしました。

コラボの進展次第ではこのページの記載を一部削除しますのでご了承ください。

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