2022.9.24改訂(2010.10.6)
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概要
HSPはグラフェンの溶媒を探索するのにも使われた技術である。
それを可能にしたのが、分子のSmiles構造式から官能基のリストを作り、物性推算をするY-MB機能のバージョンアップだ。
このバージョンアップの際に、これら多環芳香族のクロマトの結果が検証に役に立った。
内容
ハンセンの溶解度パラメータは、ある化学品がポリマーやレセプターとどのような相互作用をするかを示す指標だ。
”似たHSPのものは似たHSPのものに溶解しやすい”というのが基本コンセプトだ。
1000を超える化合物について、HSPが決められ、HSPiPというソフトウエアーのデータベースにまとめられている。
データベースにない化合物については、Y-MBという機能を使って推算を行う。
このY-MBはSmiles等の構造式を入力すると、それを原子団に分解し、その原子団の数と他のインデックスを組み合わせて、HSPや他の物性値を推算する。
その場合、例えば、その分子を特徴付ける原子団が定義されていない場合には、当然のことながら、推算精度は低くなる。
それでは、すべての原子団を定義してしまえば良いではないか?と思うかもしれない。たしかに原子団を増やせば精度は上がるが、逆にパラメータを決定するのに必要なデータ数は飛躍的に増加する。
自分の考えでは、重回帰のような計算法でパラメータの数の最低3倍、ニューラルネットを用いる場合には10倍のデータは欲しい。
(Ver. 3.0.xではすでに167種類の官能基)ver.5からは172種類の官能基を使っているので、オフィシャルなHSPのデータ値が1200程度ではニューラルネットワーク法で物性を決めるのは非常に危険ということになる。
そこで、官能基はあまり増やしたくない。予測精度は上げたいので、どれを使い、どれを削るか、それが推算屋の腕の見せ所になる。さらにデータセットに応じたダイナミックな官能基設定なども重要だ。
そんな折、多環芳香族の分子の分割法と推算値を見なおして欲しいという要請が舞い込んできた。
(今、考えるとすぐにグラフェン関連だなと思いつくが、当時は思いもしなかった)
そこで、具体的には、分子のどこから数え始めても、原子団の数に矛盾を来さないように、かつ推算値がとんでもない値を返さないように全面的に見直しを行った。
(一番苦労したのは窒素のパラメータの取り扱いであるが)Smilesの式の問題もある。
通常の表記ではベンゼン環はC1=CC=CC=C1になるが、レゾナンス(共鳴)表記では、c1ccccc1と元素を小文字で現して、2重結合の=を省略することができる。
また、窒素、硫黄、酸素も共役構造を取ることが可能で、そうしたSmilesを分割して、いつも同じ答えを返すプログラムを作成するのは非常に困難であった。
(今でも完璧ではない。細かい修正は常に行われている。)
そして、分子の分割自体は得られた官能基リストを見ればよいが、その分割方法で良いかどうかを検証するには、クロマトのリテンションと比較するというのが有効だ。
HSPiP version 3 にはガスクロのリテンション・インデックスを推算する機能が搭載されている。 Gas Chromatography Retention Index (GCRIはこちらを参照).
ガスクロのリテンション・タイムはカラムの長さやオーブンの温度、キャリアーのスピードに依存するので推算する事は不可能だ。
しかし、ガスクロ・リテンションインデックス(GCRI)はポリマー部分(PDMS:ポリジメチルシロキサン)への溶解性、PDMSからの蒸発から推算する事が可能だ。
模式図で表すと下のようになる。

多環芳香族のガスクロ・リテンションインデックス(GCRI)
今回、多環芳香族のGCRIの結果を入手したのでそれをHSPiPを使って解析してみる。
GCRI for polycyclic aromatic hydrocarbons.

最新版で自分でやってみよう。
テーブル
name | BP | GCRI | Hcode | CAS# |
Naphthalene | 220.7 | 530 | 91-20-3 | |
Acenaphthylene | 279 | 1402 | 8961 | 208-96-8 |
Fluorene | 293.6 | 1522 | 877 | 86-73-7 |
Acenaphtylene | 298.9 | 1429 | 8961 | 208-96-8 |
Anthracene | 337.4 | 1709 | 5441 | 120-12-7 |
Phenanthrene | 337.4 | 1700 | 5442 | 85-01-8 |
Fluoranthene | 375 | 1960 | 7768 | 206-44-0 |
pyrene | 404 | 2000 | 7769 | 129-00-0 |
benz[a]anthracene | 436.7 | 2327 | 10515 | 56-55-3 |
Chrysene | 448 | 2323 | 7779 | 218-01-9 |
benz[e]acephenanthrylene | 467.5 | 2609 | 21879 | 205-99-2 |
benzo[k]fluoranthene | 480 | 2605 | 20712 | 207-08-9 |
benzo[a]pyrene | 495 | 2679 | 11548 | 50-32-8 |
indeno[1.2.3.-cd]pyrene | 497.1 | 2910 | 21420 | 193-39-5 |
benzo[ghi]perylene | 501 | 2959 | 21880 | 191-24-2 |
Dibenz[a,h]anthracene | 524.7 | 2916 | 20633 | 53-70-3 |
GCRIを計算するのに必要なものは化合物のSmilesの式だけだ。
データをコピペしたエクセルを用意しておく。
そしてHSPiP を立ち上げてメニューバーからGCを選ぶ。
そしてSmilesをコピーしてテキストフィールドにペーストし、電卓マークの計算ボタンを押すとGCRIの値を得ることができる。


それを実験値に対してプロットすると上のようになる。
最新版のHSPiPを用いて自分でやってみよう。
大きな分子について少し精度が悪いが、これは沸点の推算精度が低い為だと考えている。
この検討はグラフェンなどのHSPの計算精度を上げる為に行われた。
こうした結果がY−MBの推算精度の向上に反映され、グラフェンの溶媒探索に役立っている。
多環芳香族のHPLC
さらにPAHsのHPLCのデータも入手することができた。

テーブル
no | name | Hcode | CAS | Hcode | RT |
1 | Naphthalene | 530 | 91-20-3 | 530 | 2.137 |
2 | 1-Methylnaphthalene | 500 | 90-12-0 | 500 | 2.882 |
3 | Acenaphthene | 8961 | 208-96-8 | 8961 | 3.436 |
4 | Fluorene | 877 | 86-73-7 | 877 | 3.761 |
5 | Phenanthrene | 5442 | 85-01-8 | 5442 | 4.282 |
6 | Anthracene | 5441 | 120-12-7 | 5441 | 5.153 |
7 | Fluoranthene | 7768 | 206-44-0 | 7768 | 6.199 |
8 | Pyrene | 7769 | 129-00-0 | 7769 | 6.654 |
9 | Triphenylene | 9026 | 217-59-4 | 9026 | 7.335 |
10 | Benzo-[a]-anthracene | 10515 | 56-55-3 | 10515 | 8.017 |
11 | Chrysene | 7779 | 218-01-9 | 7779 | 8.311 |
12 | Benzo-[b]-fluoranthene | 21879 | 205-99-2 | 21879 | 9.415 |
13 | Benzo-[k]-fluoranthene | 20712 | 207-08-9 | 20712 | 9.96 |
14 | Benzo-[a]-pyrene | 11548 | 50-32-8 | 11548 | 10.616 |
15 | DiBenz-[a,h]-anthracene | 20633 | 53-70-3 | 20633 | 12.112 |
16 | Benzo-[g,h,i]-perylene | 21880 | 191-24-2 | 21880 | 12.634 |
17 | Indeno-[1,2,3-cd]pyrene | 21420 | 193-39-5 | 21420 | 13.413 |

HSPiPにはHPLCのリテンションタイムを推算する機能もあるが(データを作るのがとても難しい)、この結果を解析した所、リテンションタイムはほとんど完全に分子体積だけに依存していることが分かった。
何故そのような結果になったのかというと、PAHsのHSPはどれもかなり似た値になり、ODSへの溶解性にほとんど差が出ないからであると考えている。
こうした分子体積もY-MBを使えば簡単に求まるので、GCRI、HPLCの結果の解釈にHSPiPは非常に有用だと言える。
2022.9.24
Y-MB2021で計算し直してみた。
HPLCの解説ページにも書いたが、元々は、リテンションタイムは、シリカゲルを修飾しているオクタデカンへの溶解性で決まると考えてきた。
ただし、分子が大きいと溶解しにくい。
そこでオクタデカンとのHSP距離を分子体積で割った値で相関を取ってきた。

しかし、新しいバージョンで計算しても、あまり美しくない。
他にもこのような例が非常に多くあるのだが、オクタデカンとのHSP距離ではなく、単に、
totHSP=(δD^2 +δP^2 +δH^2 )^0.5
を分子体積で割った方が綺麗な結果が得られる。
多環芳香族の屈折率とハンセンの溶解度パラメータ、δD(分散項)と、C60の溶解性について。
対応するブラウザーをお使いなら、上のキャンバスに分子を複数描けばRTがどのくらいかを得る事ができる。[詳しい分子の描き方はこちらを参照してください](https://www.pirika.com/Education/JP/YMB/Tools/Helper/Draw2Smiles.html)。
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